2023年4月に割増賃金率が改定!就業規則の見直し3つのポイントを解説
2023年4月1日から、割増賃金率が引き上げられます。
割増賃金率は月60時間を超えて、時間外労働する場合を対象とされており、2023年4月に向けて就業規則の改正など割増賃金率引き上げに向けた準備が必要です。
本記事では、割増賃金率改定に向けた就業規則の規定例や、見直しポイント3点を解説します。
目次[非表示]
- 1.割増賃金率改定の内容
- 1.1.割増賃金とは
- 1.2.割増賃金率の改定
- 1.3.中小企業の範囲
- 1.4.割増賃金率の計算方法
- 1.4.1.月90時間の時間外労働の割増賃金率の計算
- 1.4.2.月75時間の時間外労働で5時間の深夜労働の割増賃金率の計算
- 2.違反した場合に起こり得る企業リスク
- 3.割増賃金率改定に伴う就業規則の規定例
- 4.就業規則見直しのポイント
- 4.1.36協定の締結
- 4.2.割増賃金率の引き上げに対応させる
- 4.3.代替休暇を付与する場合
- 5.F&M Clubの労務管理サービス
- 6.まとめ
割増賃金率改定の内容
割増賃金率は、働き方改革の一環として政府が推進しています。
改定の内容を紹介します。
割増賃金とは
会社は原則として従業員に、1週間に40時間、1日に8時間の法定労働時間を超える労働が禁止されています。
また毎週1日または4週4日以上の法定休日を与えなければなりません。
ただし、会社において時間外や休日労働に関する協定を締結していれば、法定労働時間を超える労働や、法定休日の労働が可能となります。
これを36協定といい、36協定の締結によって、会社が時間外や休日労働させた場合に、割増賃金で支払わなければなりません。
なお22時から5時までの深夜時間帯は深夜労働として、時間外や休日労働と同様に割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金率の改定
2023年4月から時間外労働の割増賃金率は以下のとおり改定されます。
2023年3月31日まで |
2023年4月1日から |
||
大企業 |
60時間以下 |
25%以上 |
変更なし |
60時間超 |
50%以上 |
変更なし |
|
中小企業 |
60時間以下 |
25%以上 |
変更なし |
60時間超 |
25%以上 |
50%以上 |
【参考】厚生労働省版リーフレット
今回の改定は中小企業の60時間超の時間外労働のみであり、休日労働35%以上、深夜労働25%以上から変更はありません。
元々、中小企業の経営状況から法律の適用が猶予されており、先に大企業が適用対象となっていましたが、2023年4月1日から中小企業も法律の適用対象となりました。
中小企業の範囲
2023年4月の割増賃金率改定の中小企業の範囲は以下のとおりです。
業種 |
資本金の額または出資総額 |
常時使用する労働者数 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
上記を除くそのほかの業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
【参考】厚生労働省版リーフレット
上記の「資本金の額または出資総額」または「常時使用する労働者数」を満たしているかによって判断されます。
割増賃金率の計算方法
割増賃金率は1カ月の起算日から時間外労働の時間数を累計し、60時間を超えたところで50%以上の賃金率で計算して支払わなければなりません。
もし時間外労働を深夜におこなう場合、時間外割増賃金率50%に深夜割増賃金率25%を加えて75%となります。
なお法定休日の労働は、35%以上の割増賃金率が適用されるため、時間外労働と見なされません。
法定外休日の労働時間は、時間外労働の算定に含まれます。
月90時間の時間外労働の割増賃金率の計算
月90時間の場合、60時間分の時間外労働が25%、30時間分の時間外労働が50%の割増賃金率で計算されます。
1時間当たり賃金×60時間×25%+1時間当たり賃金×30時間×50%
月75時間の時間外労働で5時間の深夜労働の割増賃金率の計算
月75時間の場合、60時間分の時間外労働が25%、10時間分の時間外労働が50%、5時間分の時間外労働50%と深夜労働25%の割増賃金率で計算されます。
1時間当たり賃金×60時間×25%+1時間当たり賃金×10時間×50%+1時間当たり賃金×5時間×(50%+25%)
違反した場合に起こり得る企業リスク
2023年4月までに割増賃金率の改定に対応しなければ、不利益を被ってしまいます。
企業の起こり得るリスクを紹介します。
罰則規定がある
もし2023年4月までに、月60時間を超える時間外労働に対して割増賃金率を50%以上に引き上げなければ、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。
割増賃金率は必ず、2023年4月までに引き上げるようにしましょう。
【参考】労働基準法第37条第1項、第119条第1号|e-GOV
従業員による訴訟
もし2023年4月以降も割増賃金率を引き上げなければ、従業員が会社に対して訴訟を起こされる可能性があります。
仮に就業規則に割増賃金率を25%のままにしていたとしても、法律上2023年4月1日以降は50%以上に引き上げなければなりません。
裁判では割増賃金分が未払い扱いとして判断され、未払い賃金分に遅延損害金なども加えて従業員に費用を支払わなければならなくなります。
企業は従業員に訴訟されてしまうと、裁判における対応に追われ事業も立ち行かなくなるため、必ず割増賃金率を改定するようにしましょう。
上記のように、就業規則や人事評価をはじめとする労務を、おざなりにしていると企業に不利益が生じるリスクがあります。
しかし、大企業は労務にかなり力をいれて対応しています。
この不況でも、成長する大企業と労務の関係性について徹底分析したので、ぜひご覧ください。
割増賃金率改定に伴う就業規則の規定例
割増賃金率の引き上げに対応した就業規則に、2023年4月までに対応しておく必要があります。
就業規則の規定例1
割増賃金率を1カ月45時間超の時間外労働を35%、1年360時間超の時間外労働を40%に設定している場合の就業規則の規定例です。
就業規則
(時間外労働に対する割増賃金率)
第〇条 時間外労働に対する割増賃金は次の割増賃金率に基づき支給する。
1 1カ月の時間外労働時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。なお、この場合の1カ月は毎月1日を起算日とする。
一 時間外労働45時間以下を25%
二 時間外労働45時間超~60時間以下を35%
三 時間外労働60時間超を50%
四 三の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間を35%とし、残り15%の割増賃金分
は代替休暇に充当
2 1年間の時間外労働時間数が360時間を超えた部分は、40%とする。なお、この場合の1年は毎年4月1日を起算日とする。
就業規則の規定例2
割増賃金率を3カ月120時間超の時間外労働を30%、1年360時間超の時間外労働を35%に設定している場合で、賃金規定を別規定としている場合の就業規則の規定例です。
就業規則
(賃金)
第〇条 賃金の決定、計算及び支払の方法、締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項は、別に定める賃金規程によるものとする。
賃金規程
(時間外労働に対する割増賃金率)
第〇条 時間外労働に対する割増賃金率は、次項の場合を除き、時間外労働時間数が1カ月60時間以下の場合には25%とし、第〇条に定める計算方法により割増賃金を支給するものとする。この場合において、1カ月の起算日は毎月1日とする。
2 限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は、次のとおりとする。この場合において、3カ月の起算日は1・4・7・10月の1日とし、1年の起算日は毎年4 月1日とする。
3カ月120時間を超える時間外労働に適用される割増賃金率を30%
1年360時間を超える時間外労働に適用される割増賃金率を35%
3 前項の規定にかかわらず、時間外労働が1カ月60時間を超える場合には割増賃金率を50%とする。この場合において、1カ月の起算日は毎月1日とする。
就業規則の規定例3
法定労働時間を超える時間外労働の割増賃金率を25%、1カ月60時間超の時間外労働の割増賃金率を50%とする場合の就業規則の規定例です。
就業規則
(時間外労働に対する割増賃金率)
第〇条 時間外労働の割増賃金は、次の計算式により計算して支給する。なお、この場合の1カ月の起算日を毎月1日とし、賃金計算期間と同じものとする。
一 1カ月60時間以下の時間外労働について
基本給+〇〇手当・・・÷1カ月平均所定労働時間数×1.25×時間外労働時間数
二 1カ月60時間超の時間外労働について
基本給+〇〇手当・・・÷1カ月平均所定労働時間数×1.5×時間外労働時間数
就業規則見直しのポイント
就業規則を見直す際に注意すべきポイントを紹介します。
36協定の締結
会社は、1カ月に45時間または1年に360時間を超えて時間外労働する場合、会社と従業員との間に36協定を書面によって締結する必要があります。
労働基準法第36条が根拠条文となるため36協定と呼ばれています。
また36協定は時間外労働の割増率を定める必要があります。
つまり36協定を先に締結した後に就業規則に改定する順序となります。
割増賃金率の引き上げに対応させる
先述した就業規則の規定例にあるように2023年4月までに、割増賃金率の引き上げに対応した規定を就業規則に追加する必要があります。
代替休暇を付与する場合
1カ月60時間超の時間外労働に対して代替休暇を付与する場合、その内容を就業規則に記載する必要があります。
代替休暇とは、1カ月当たり60時間超の時間外労働の場合、割増賃金率部分の一部支払いの代替として相当する休暇を与えることで、割増賃金の支払いが一部免除される制度です。
代替休暇を付与する場合、50%のうち25%以上の割増賃金率は支払う必要があり、残りの25%分が対象となります。
たとえば、1カ月に90時間の場合、代替休暇として付与できる時間数が(90-60)×0.25で計算し、7.5時間です。
法定労働時間が8時間となるため1日の代替休暇取得にはならないため、半日の4時間分を代替休暇として取得し、残りの3.5時間を割増賃金として支給できます。
F&M Clubの労務管理サービス
F&M Clubは株式会社エフアンドエムが提供する企業支援向け支援サービスです。
企業向け支援サービスのひとつとして、「就業規則診断サービス」や規定作成から変更や管理までおこなう「まかせて規程管理」があります。
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2023年4月の割増賃金率改定に向けた就業規則の見直しに不安がある経営者様は、ぜひご活用ください。
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まとめ
2023年4月1日の割増賃金率引き上げに向けて、中小企業経営者は対応を迫られています。
もし対応を怠れば、労働基準法の罰則規定の適用や、従業員による訴訟の可能性もあります。
36協定を締結し、就業規則の改定をおこなうなど、早めの対策を講じましょう。
F&M Clubの「就業規則診断サービス」や「まかせて規程管理」サービスもあるため、就業規則見直しに不安がある場合に活用が可能です。
ぜひご相談ください。
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