AIガバナンスとは、AIを安全かつ効果的に活用するための管理体制です。単にAIの利用を禁止するのではなく、使ってよい範囲、禁止する使い方、確認プロセス、責任者を明確にすることが目的です。
生成AIは、業務効率化や生産性向上に役立つ便利なツールです。しかし、社内ルールがないまま利用すると、従業員ごとに使い方がばらつきます。その結果、情報漏洩や誤情報の利用が起こりやすくなります。
AIガバナンスでは、たとえば「どのAIツールを使ってよいか」「顧客情報を入力してよいか」「AIの出力結果を社外資料に使う場合、誰が確認するか」といったルールを定めます。つまり、AIを禁止するのではなく、安全に使える状態を整えることが重要です。
生成AIの利用を一律に禁止することは、必ずしも有効な対応ではありません。すでに私生活でも生成AIが広く使われています。そのため、会社が禁止するだけでは、従業員が私物端末や個人アカウントで無断利用するリスクがあります。
添付資料でも、全面禁止だけでは無断利用を抑止することは容易ではなく、むしろシャドーITなどのリスクが高まるとされています。そのうえで、基本方針、入力禁止情報、部署別の利用権限、問題発生時の責任体制などを整備すべきとされています。
企業が生成AIを活用する際には、法的・実務的なリスクを把握しておく必要があります。代表的なリスクは、次の3つです。
生成AIサービスでは、利用条件や設定によって、入力情報がサービス改善や学習に利用される場合があります。従業員が十分な理解のないまま、顧客情報、個人情報、未公開の事業情報、契約書案、ソースコードなどを入力するケースがあります。この場合、営業秘密管理や個人情報保護の観点から問題になるおそれがあります。
特に、会社が認めていないAIツールを個人アカウントで利用している場合、入力内容や利用状況を会社が把握できません。そのため、入力禁止情報を明確にし、業務利用を認めるAIツールを指定することが重要です。
AIが生成した文章、画像、ロゴ、キャッチコピーなどが、既存の著作物や商標と似ている場合、企業が権利侵害を問われる可能性があります。AIが作成したものだから企業は責任を負わない、というわけではありません。
たとえば、AIで作成した画像を広告に使ったり、AIが生成した文章をWebサイトに掲載したりする場合があります。このようなときは、既存コンテンツとの類似性や権利関係を確認する必要があります。添付資料でも、AI生成物を企業が対外公表した場合、企業責任が否定されるわけではなく、訴訟リスクを負う可能性があると説明されています。
ハルシネーションとは、生成AIが実在しない事実や誤った内容を、あたかも正しい情報のように生成してしまう現象です。AIの回答は自然な文章で出力されるため、一見すると正確に見えることがあります。
しかし、存在しない統計、架空の判例、誤った法律名、実在しない人物や出典を示すことがあります。こうした誤情報を、顧客への回答、社内資料、契約判断、税務・労務・法務判断にそのまま使うことは危険です。場合によっては、企業の信用低下や損害につながる可能性があります。
AIをめぐる法規制やガイドラインは、国内外で急速に整備が進んでいます。企業は、自社のAI利用がどのようなルールやガイドラインの影響を受けるのかを確認する必要があります。
日本では、2025年に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、いわゆるAI法が公布・施行されました。内閣府によると、同法はAIのイノベーションを促進しつつリスクに対応するための枠組みとされています。公布・一部施行は2025年6月4日、全面施行は同年9月1日です。
また、総務省・経済産業省は「AI事業者ガイドライン」を公表しています。総務省と経済産業省が共同で設置したAI事業者ガイドライン検討会において取りまとめられたのが「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」で、チェックリストやワークシートもあわせて公開されています。
日本のAI法は、企業の日常的な生成AI利用を細かく禁止・許可するタイプの規制というより、AIの研究開発・活用の推進とリスク対応の枠組みを整備する性格が強いものです。そのため、企業実務では、AI事業者ガイドラインなどを踏まえ、自社に合った社内ルールを整備することが重要です。
【出典】人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)|内閣府
【出典】AI事業者ガイドライン(第1.2版)|総務省・経済産業省
海外で事業を展開する企業や、EU域内で利用されるAIサービスに関わる企業は、海外規制にも注意が必要です。EU AI Actは、AIに関する包括的な法的枠組みです。AIシステムをリスクに応じて分類し、開発者や利用者に対して一定の義務を課すものです。欧州委員会は、EU AI Actについて、AIリスクに対応する世界初の包括的な法的枠組みと説明しています。
EU AI Actは2024年8月1日に発効しておりますが、一部の規定は段階的に適用されています。欧州委員会は、禁止されるAI行為とAIリテラシー義務は2025年2月から、汎用AIモデルに関する義務は2025年8月から適用されており、2026年8月からは透明性表示が適用されるとしています。
【出典】AI Act(Regulatory framework on AI)|European Commission
AIガバナンスを実務に落とし込むには、社内規程や利用ガイドラインを整備する必要があります。最初から複雑な規程を作る必要はありません。ただし、最低限のルールを文書化し、従業員が迷わず判断できる状態にすることが重要です。
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整備項目 |
内容 |
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基本方針 |
AIを使う目的、禁止用途、最終判断は人が行うことを明確にする |
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入力禁止情報 |
個人情報、顧客情報、契約書案、未公開情報、ソースコードなどを定義する |
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利用ツール |
業務利用を認めるAIツールやアカウント管理方法を決める |
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確認プロセス |
AI出力の事実確認、権利確認、社外公開前の承認フローを設ける |
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教育・研修 |
従業員へリスク、使い方、禁止事項を周知する |
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事故対応 |
情報漏洩・誤情報・権利侵害が起きた場合の報告先と責任者を決める |
まず、会社としてAIをどのような目的で使うのかを明確にします。たとえば、「業務効率化を目的として利用する」「顧客情報や機密情報は入力しない」「法的判断や最終意思決定には使わない」といった基本方針を定めます。
基本方針がないまま利用を始めると、部署ごとに利用方法がばらつきます。会社全体の方針を示すことで、従業員が安心してAIを使いやすくなります。
AI利用で特に重要なのが、入力してはいけない情報を具体的に定めることです。個人情報、顧客名、契約内容、未公開の決算情報、営業秘密、ソースコード、社外秘資料などは、原則として入力禁止とすべきです。
また、業務利用を認めるAIツールも指定しましょう。従業員が自由にAIツールを選んで使うと、情報管理の水準がばらつきます。法人向けプランや管理機能のあるツールを選ぶことで、利用状況の把握やセキュリティ管理を行いやすくなります。
AIの出力結果は、そのまま社外に出すべきではありません。Web記事、営業資料、提案書、採用広報、顧客回答などに使う場合は、事実関係、出典、著作権や商標権の侵害可能性、不適切表現の有無を人が確認する必要があります。
特に、法律、税務、労務、医療、安全管理など、誤情報による影響が大きい分野では、AIの回答を最終判断として使うべきではありません。AIは下書きや論点整理に使い、最終判断は担当者や専門家が行う体制にしましょう。
社内規程を作っても、従業員が理解していなければ意味がありません。生成AIの基本的な使い方、入力してはいけない情報、出力確認の必要性、著作権や個人情報の注意点を教育する必要があります。
特に、生成AIを日常的に使う部署では、定期的な研修や事例共有が有効です。添付資料でも、社内規程の整備に加えて、生成AIのリスクや利用方法について従業員の理解を深めるための指導・教育が必要とされています。
AI技術や関連サービスは日々変化しています。利用できる機能、リスク、法制度、ガイドラインも変わるため、AIガバナンスは一度作って終わりではありません。
新しいAIツールを導入する場合は、利用規約、入力データの扱い、学習利用の有無、管理機能、ログ取得の可否などを確認する必要があります。また、AI事業者ガイドラインや海外規制の改正があれば、社内規程の見直しも必要です。
AIガバナンスは、最初から完璧な規程を作ることよりも、実際の利用状況に応じて継続的に改善することが重要です。まずは基本方針と最低限の禁止事項を定め、その後、利用実態やトラブル事例に応じて更新していくとよいでしょう。
AIガバナンスとは、企業がAIを安全かつ効果的に活用するために、リスク管理と利用ルールを整備することです。生成AIは業務効率化や競争力強化に役立つ一方で、情報漏洩、著作権・知的財産権侵害、ハルシネーションといったリスクを伴います。
企業が取るべき対応は、AIを一律に禁止することではありません。むしろ、全面禁止だけでは従業員が私物端末や個人アカウントで無断利用するリスクがあります。重要なのは、AI利用の基本方針を定め、入力禁止情報、利用可能ツール、部署別の利用範囲、出力確認プロセス、問題発生時の対応責任を明確にすることです。
まだ整備が進んでいない企業は、まず次の3つから始めるとよいでしょう。
AIを「使わない」のではなく「正しく使う」ための仕組みを整えることが、これからの企業に求められるAIガバナンスです。