なぜ今、原油価格はここまで上昇しているのでしょうか。中小企業経営者が対策を打つには、まず高騰の根本原因と今後の動向を正確に理解することが出発点になります。
「なんとなく原油が上がっている」という認識のままでは、経営判断を誤るリスクがあります。
2026年3月からの原油価格高騰の主要因は、中東情勢の緊迫化です。イランを巡る地政学的リスクが高まるなか、世界の原油流通において重要な拠点であるホルムズ海峡の封鎖リスクが意識されるようになりました。
日本が輸入する原油の大部分は中東産であるため、供給不安は原油価格の上昇という形で影響を及ぼします。米WTI原油よりもドバイ原油の上昇幅が大きいことは、日本の中小企業にとって特に注視すべき点です。ホルムズ海峡の情勢が不安定化すれば、輸入コストの増大は避けられず、その影響は幅広い産業に波及します。
なお、2026年4月時点でトランプ米大統領がイランとの一時停戦合意を表明するなど、情勢は流動的に推移しています。しかし、地政学リスクの根本的な解消には至っておらず、先行きは引き続き不透明な状況です。
原油価格の上昇に加え、日本の中小企業が注意すべきなのが「円安との同時進行」です。原油は国際市場でドル建てで取引されるため、円安が進むほど円換算の輸入コストは増加します。
「燃料費が上がった」だけでは、原油高騰の影響の全体像は見えません。原油価格の上昇は、中小企業のコスト構造に三段階で波及します。その連鎖を知ることで、自社が直面するリスクを正確に把握できます。
最も直接的な影響が、燃料費と電力費の上昇です。社用車や配送車両のガソリン・軽油代が上昇するのはもちろん、製造設備や空調設備を動かす電力コストも、原油価格の動向と連動して上昇する傾向があります。
帝国データバンクの2026年4月調査では、「自社で使用する車両の燃料費の上昇」を挙げた企業が73.4%に達しており、「電力コストの上昇」も51.1%の企業が影響を感じています。これらは毎月の支出に直結するため、利益率を継続的に圧迫します。
原油は燃料だけでなく、プラスチック・合成樹脂・塗料・溶剤・肥料など、多くの工業製品や農業資材の原料でもあります。日常的に使用している資材・製品の中に、石油由来の品目が数多く存在しています。原油価格が上がれば、こうした原材料の調達コストも連動して上昇します。
例えば、食品製造業では包装フィルムや容器のコスト増、建設業では塗料やシンナーの価格上昇と調達難、農業では肥料代の上昇といった形で影響が出ています。「原油由来の原材料価格の上昇」を挙げた企業が66.7%にのぼり、「原材料の調達難」を挙げる企業も46.3%に達しています。
原油高騰の影響は、自社内のコストだけにとどまりません。取引先の物流会社や仕入れ先もコスト増に直面しているため、「物流費・輸送費の上昇」(62.0%)や「取引先からの値上げ要請の増加」(60.5%)という形で、外部からのコスト圧力も強まります。
自社のコストが直接上がるわけでなくても、仕入れ価格の引き上げを受け入れざるを得ない状況が生まれます。
原油高騰の影響は、肌感覚だけでなく数字でも裏付けられています。帝国データバンクが2026年4月3日から7日にかけて全国1,686社を対象に実施したアンケート調査から、中小企業が直面している現状を確認しましょう。
調査の結果、「経営にマイナス影響がある」と回答した企業の割合は96.6%と、大多数の企業が何らかのコスト増を実感していることが明らかになりました。「影響はない」は2.3%、「プラス影響がある」は0.1%にとどまっています。
具体的なマイナス影響の内訳は以下の通りです(複数回答)。
コスト増に関わる項目が高水準を示しており、影響が特定の業種にとどまらず、運輸・製造・建設・農業・サービス業まで幅広く波及していることがわかります。
さらに深刻なのは、コスト増が長引いた場合の見通しです。「現在の原油価格水準が続いた場合、主力事業の大幅な縮小に至るまでの期間」を尋ねたところ、「3カ月以上6カ月未満」と回答した企業が26.7%、「3カ月未満」が17.2%と、半年以内に事業縮小を余儀なくされると見込む企業が合計43.9%に達しました。
業種別では、小売業で6カ月未満の割合が54.5%と全体平均を大きく上回りました。また製造業では「3カ月未満でも限界」と回答した企業が22.8%にのぼっており、早期の対応が求められています。
政府は原油高騰に対し、緊急的激変緩和措置を講じています。支援策の内容を正しく把握することは重要ですが、同時にその限界も理解したうえで、自社の経営判断に活かす必要があります。補助金を過信して自社の対策が後回しになると、経営環境が一段と厳しくなるリスクがあります。
資源エネルギー庁は、原油価格高騰による石油製品価格の急騰を抑制するため、2026年3月19日から「緊急的激変緩和措置」を実施しています。これは、石油元売・輸入事業者に対して補助金を支給し、卸価格を抑制することで、ガソリンスタンドなどの小売価格に反映させる仕組みです。
2026年4月30日以降の支給単価は以下の通りです。
この措置は、トリガー条項の凍結解除[1] に向けた法改正等の抜本的な対策が議論されるなか、当面の間の措置として継続される予定です。[2]
ガソリンや軽油への補助は一定の効果をもたらしますが、原油高騰による影響は前述の通り、原材料・物流・電力など多岐にわたります。燃料補助金は文字通り「燃料」への支援であり、プラスチック原料や化学製品の仕入れコスト上昇、取引先からの値上げ要請には直接対応できません。
第一ライフ資産運用経済研究所の分析でも指摘されているとおり、政府の価格補助は限定的な分野への効果にとどまり、幅広い石油関連品目への物価上昇の波及を抑え込むことは難しいという構造的な課題があります。補助金は経営の「時間的な余裕」を生みますが、自社のコスト削減・収益改善の取り組みに代わるものではありません。
外部環境の変化に翻弄されず、自社の利益を守るためには、早めに行動することが重要です。価格転嫁から資金繰り対策まで、中小企業が実践できる5つの具体策をご紹介します。
コスト増を自社だけで吸収し続けることは、利益の圧迫につながります。適切なタイミングで取引先への価格転嫁を進めることが、経営継続のための重要な課題です。
価格転嫁を進める際には、コスト増の根拠をデータで示すことが交渉を行ううえでの鍵になります。原材料費や燃料費の上昇率を数字で提示し、「なぜ値上げが必要か」を論理的に説明することで、取引先の理解を得やすくなります。
また、一度に大幅な値上げを要請するよりも、段階的な価格改定を提案する方が交渉がまとまりやすい傾向があります。
なお、中小企業庁は「価格交渉促進月間」を設けるなど、適正な価格転嫁を後押しする施策を展開しています(実施状況は最新情報をご確認ください)。こうした公的な環境を活用することも選択肢の一つです。
価格転嫁と並行して、自社のコスト構造を見直すことも有効です。原油高騰を機に、固定費と変動費を項目ごとに洗い出し、削減できるコストを特定しましょう。
例えば、社用車の運行計画を見直して燃費を改善する、省エネ設備への切り替えで電力コストを削減する、原油由来の原材料について代替素材や代替サプライヤーを探索するといった取り組みが考えられます。先述の帝国データバンクの調査でも、「エコドライブの推進」「代替素材の検討」「サプライチェーンの再構築」など、コスト構造の見直しに着手した企業の事例が報告されています。
コスト増が続く局面では、売上が維持できていても、手元の現金(キャッシュ)が不足して資金繰りが厳しくなるケースがあります。資金繰り表を作成し、3カ月先・6カ月先の現金残高を把握する習慣を持ちましょう。
「通常より多めにキャッシュを確保し、資金繰りの状況にこれまで以上に注意を払っている」(専門商品小売)という企業の声が帝国データバンクの調査でも紹介されています。金融機関との関係強化や、運転資金融資の枠を事前に確認しておくことも、備えとして有効な手段です。
特定の調達先や原材料に依存した体制は、原油高騰・供給不安の局面でリスクになります。新たな仕入れ先を開拓し、調達先を複数に分散することで、供給途絶リスクを低減できます。
すでに一部の企業では、原材料の代替素材を検討したり、施工法の変更によって使用資材を減らしたりする取り組みが始まっています。また、原材料を通常よりも多めに在庫として積み増す取り組みも、急激な価格上昇や供給不足への備えとして実施されています。
中小企業向けには、国や地方自治体からさまざまな補助金・助成金・低利融資が用意されています。燃料費高騰に対応した支援だけでなく、省エネ設備の導入補助金なども活用対象になり得ます。
こうした支援制度は、情報を積極的に取りに行かなければ見逃してしまいます。補助金・助成金の検索ツールや、商工会議所などの相談窓口を通じて最新情報を入手し、申請できる制度を確認することが、手元資金を守るうえで重要です。
原油高騰のような急激な外部環境の変化は、経営者一人で対処するには手が回らないことも少なくありません。財務状況の把握、資金繰りの改善、労務体制の整備、補助金の活用など、どれも専門的な知見が必要です。
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