中小企業の経営者が最も意識しやすい数字は「売上」です。
特に、事業を拡大してきた経営者ほど「売上=成長」「売上=信用」と捉えがちです。
しかし金融機関が見ているのは、売上の大きさそのものではありません。
“その売上で、どれだけお金が残っているか”です。
つまり、営業利益率・キャッシュフロー・返済能力といった指標が評価の中心になります。
この記事では、買収(M&A)を重ねて事業規模を拡大しながらも、借入が積み上がり、資金繰りが厳しくなっていたA社が、F&MClubの「財務格付診断」と収益改善支援を通じて、資金の流れそのものを立て直していく過程を追います。
監修:金井弘一朗(元大手信用調査会社調査員)
新卒で大手信用調査会社へ入社し、調査部で延べ1,000社以上の企業を担当。業種別分析・財務評価・信用格付け・面談・レポーティングを通じ、企業の経営課題を可視化。その後関西学院大学客員研究員として、企業分析・リサーチの研究を行った後、株式会社ケイ・ブリッジを設立。経済産業省アクセラレーションプログラム「EXIT」に選定されたほか、経済産業省からの認定も受けるなど数多くの賞を受賞。
現在は中小企業を中心に、経営分析・戦略立案・マーケティング支援の伴走も行っている。
また、「パソコン博士の知恵袋」や「建築現場の知恵袋」など複数の専門メディアで記事監修を務めるなど、幅広い監修実績を持つ。
A社の社長は攻めの経営者で、これまでM&Aによって他社を買収し、売上規模を拡大してきました。いわゆる「大きくしていくタイプ」の経営です。
企業概要
製造業
所在地:静岡県
従業員数:40名
一方で、現場には次のような問題が残っていました。
買収によって事業は増えたが、借入金も膨らみ、返済負担が重い
資金繰りが慢性的に厳しく、日々のキャッシュフローが不安定
どこがボトルネックなのか、社内でもはっきりわからない
社長は“売上を上げること”を最優先にしており、改善の優先順位が定まらない
つまり、拡大はしているのに、お金が残らない。
この状態は、中小企業では珍しくありません。規模を追うことで「売上」は増える一方、利益率や資金効率が悪化し、運転資金の負担だけが増えるケースです。
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
信用調査の現場ではA社のような「高い売上」と「厳しい資金繰り」が両立している会社は要注意とみるケースがあります。
銀行でも“売上規模が大きいから安全”とは見ません。見るのは返済余力、つまりキャッシュフローです。特に現預金と借入と月商のバランスをみています。
特にM&Aで拡大している企業は、買収後の統合が甘いと原価や人件費の重さが放置され、利益が伴わないまま借入だけが残る。この状態が続くと、格付が下がり、追加融資がさらに難しくなるという悪循環に陥ります。
今回は「資金繰りの苦しさそのものをどう解消するか」という、極めて実務的で、経営の根幹に関わるテーマが課題になりました。
A社の再建プロセスは、「社長の感覚」をいったん横に置いて「数字で事実を確認する」ところからスタートしました。
F&MClubはまず、財務格付診断を実施。これは、金融機関が自社をどう評価しているかを、偏差値のような指標で可視化するものです。いわば「銀行の採点表を、経営者本人が初めて見る」ステップです。
この診断によって浮かび上がったのは、「売上の拡大=評価の上昇」ではないという現実でした。
むしろ、営業利益率の低さや資金繰りの弱さが、金融機関の評価(格付)を押し下げていることが明確になったのです。
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
これは非常に重要なポイントです。
多くの経営者は、銀行は“売上規模”を見ていると思いがちですが、実際は「返せる会社かどうか」を見ています。
財務格付は、その会社が“今後も継続できるか”の信用力をスコア化したものです。
経営者自身がこのスコアを把握していないと、銀行との会話がすれ違い続けます。A社はここで、初めて自社の弱点を自分たちの言葉で説明できるようになりました。
財務格付診断で現在地を把握した後、F&MClubは要因分析に踏み込みました。
そこで出てきたのが3つの論点です。
同業他社との比較を行ったところ、A社は売上高こそ同水準だが、「営業利益率」が大きく劣後していることがわかりました。
要は、売上はあるのに、残る利益が薄い。
この時点で、いくら売上を積み上げてもキャッシュフローは改善しない、ということがはっきりします。
A社では長年、仕入れ価格の見直しが行われていませんでした。
これはM&Aで事業を増やした企業にありがちな盲点です。バラバラの条件で仕入れているのに、そのまま運用してしまう。
F&MClubは「同じ原材料や部材を、もっと良い条件で仕入れられる余地がないか」を精査し、仕入れ先交渉によるコストダウンを提案しました。
合わせて、工場の生産性そのものにも言及し、歩留まりやロス率に関する改善余地を指摘。現場の効率を底上げするよう助言しました。
もっと本質的な課題はここです。
長期間にわたり、主要な取引先に対して単価(販売価格)の見直しが行われていなかったことが確認されました。
F&MClubは、同業他社の採算ラインや原材料コストの推移をもとに、「いまのままの単価では御社が持続できません」というロジックを提示。
経営者が取引先に対して価格交渉できるよう材料を整え、その結果、単価の引き上げにつながりました。
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
この「価格交渉をしてよい」という確信を持てるかどうかが、経営の分かれ目です。
経営者は長年の取引関係を守りたいので、どうしても値上げを言い出せません。
ただ、金融機関からすれば“交渉もできずに赤字で納品し続けている会社”はリスクが高い。
F&MClubのように同業平均値や原価構造を根拠に「この価格では御社がもたない」と示してあげることは、銀行との信用関係にもプラスに働きます。
要するに、それは「ちゃんと手を打っている会社ですよ」と説明できる材料になるということです。
この分析を通じて、A社の経営の軸は大きく変わりました。
それまで:
とにかく売上を上げたい
新しい案件、新しい買収、新しい取引先を取りに行きたい
これから:
まず営業キャッシュフローを改善する
赤字受注は見直す
価格を正しく設定する
生産性を上げることで、1円あたりの稼ぐ力を高める
つまり、規模ではなく強さに軸足を移したわけです。
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
A社にとって、これは「守り」ではありません。むしろ、今後も銀行や取引先から信用を得ながら続けていくための“攻め直し”と言えるでしょう。
F&M Clubの支援によって、A社は資金の流れそのものを改善する具体策を示せるようになりました。これは信用調査や銀行目線での評価に直結します。
実際に起きた変化は次のとおりです。
財務格付診断により、自社が金融機関からどう評価されているかを把握
営業利益率が低い理由(=粗利と原価・生産性の問題)を特定
価格見直し交渉に踏み込み、単価を改善
「キャッシュフローを良くすること」が経営の最優先事項として社内共有された
その結果、A社は“売上だけが大きい会社”から、“お金が残る会社”へと軌道修正を始めます。
これは短期的な黒字転換だけでなく、金融機関に対して「返済能力の改善」に向けた具体策を説明できる状態を生みました。これは格付(=信用力)に直結します。

金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
金融機関は赤字ということだけではなく、赤字の理由が説明できないことに不信感を募らせます。
A社は、営業キャッシュフロー改善に向けて“どこをいじれば改善するのか”を一つずつ明示できるようになった。これは金融機関側から見ると、「この会社は自分の弱点をわかっていて、改善する計画もある」と判断しやすくなります。
結果的に、資金繰りに対する目線も落ち着きます。
A社の事例から得られる示唆は、次の3つに整理できます。
銀行は“いまの自社をどう見ているか”を必ず確認すること
財務格付診断のように、評価を外から見える形にすることで初めて、交渉の土台に立てる。
優先順位は「売上の最大化」ではなく「営業キャッシュフローの改善」
仕入れ価格、生産性、取引単価の見直しは、事業を守るための正攻法。
価格改定は「お願い」ではなく「説明」
根拠を持って単価を上げることは、会社を守るための経営行為であり、金融機関に対する説明責任にもなる。
資金繰りが厳しいとき、多くの経営者は「もっと売上を取る」「新規顧客を獲る」と言いがちです。
しかし、それはときに“穴の空いたバケツに水を注いでいる状態”になりかねません。
A社は、F&MClubの支援を通じて、まずはバケツの穴を特定し、塞ぎ、バケツの形自体を強くするというプロセスを踏みました。
財務格付診断で現状を正しく理解し、粗利改善・価格交渉・生産性向上といった経営の基本に立ち返ることで、営業キャッシュフローを最優先に据える意思決定ができるようになったのです。
これは、一社だけの特殊解ではありません。
同業比較データや金融機関の評価指標をベースに支援できるF&MClubは、売上至上主義からキャッシュフロー重視型の経営への切り替えを、再現性のある形で後押しします。すでに累計48,000社以上の中小企業が活用し、自社の“信用力を高める経営”に取り組んでいます。