中小企業の事業承継では、収益や資金繰りよりも「人の気持ち」が最大のハードルになることがあります。
今回紹介する愛知県の製造業A社でも、創業社長からご息女への事業承継が決まりかけた段階で、ベテラン社員から「現場を知らない娘にあれこれ言われたくない」という声が上がり、組織としての統制が崩れかけていました。
延べ1,000社以上の実態を見てきた元信用調査会社の金井弘一朗氏は、このパターンを「ルールがないまま権限だけが移るときに起きる典型」と表現します。事業承継の局面で労務や就業規則を整えることは、金融機関から見ても“統制された事業承継”として評価に耐えやすくなります。
監修:金井弘一朗(元大手信用調査会社調査員)
新卒で大手信用調査会社へ入社し、調査部で延べ1,000社以上の企業を担当。業種別分析・財務評価・信用格付け・面談・レポーティングを通じ、企業の経営課題を可視化。その後関西学院大学客員研究員として、企業分析・リサーチの研究を行った後、株式会社ケイ・ブリッジを設立。経済産業省アクセラレーションプログラム「EXIT」に選定されたほか、経済産業省からの認定も受けるなど数多くの賞を受賞。
現在は中小企業を中心に、経営分析・戦略立案・マーケティング支援の伴走も行っている。
また、「パソコン博士の知恵袋」や「建築現場の知恵袋」など複数の専門メディアで記事監修を務めるなど、幅広い監修実績を持つ。
A社は、創業社長から娘さんへの事業承継が目前に迫っていたものの、社内には明文化された就業規則がほぼ存在していませんでした。
企業概要
業種:製造業
所在地:愛知県
従業員数:10名
働き方・休み方・指揮命令の順番が“なんとなく”で回っており、長年いるベテラン社員が独自のやり方で仕事を進めている状態でした。
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
事業承継が近いのに就業規則や36協定が整っていない会社はまさに労務デューデリが進んでおらず、「見えない統制リスクあり」といえます。特に、これまでオーナーの“鶴の一声”でまとまっていた会社は、トップが代わる瞬間に一気に規律が緩む。ここを仕組みで押さえられているかどうかは、金融機関含めたステークホルダーにとっても重要です。
この規模の会社だと、「いままで問題なかったから」「家族同然でやってきたから」といった理由で、就業規則や雇用契約をあえて整備していないことがあります。しかし事業承継のタイミングになると、“家族同然”では通用しなくなる瞬間がきます。
F&MClubの専門アドバイザーは、感情論をぶつけ合う前に「会社としての公式ルールを先に作る」アプローチを取りました。これにより、誰が社長でも・誰が上司でも・誰がベテランでも、同じルールで動く前提を作ったわけです。
【F&MClubの専門アドバイザーによる主なサポート】
就業規則を新規作成することを提案
現場が“自分流”で動けないようにし、行動基準を会社側が提示できるようにした。
意見がある場合の相談先を「後継のご息女」に設定
これにより、ベテラン社員からの不満を陰で言わせるのではなく、正式ルートで吸い上げる形に変更。
従業員の自由なやり方を改め、上長に報告する体制へ変更
組織としての統制を取り戻し、後継社長のリーダーシップが機能する土台を整備。
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
このケースのいいところは、“人を入れ替える”とか“反対する社員を外す”という力技ではなく、ルールを介して権限を移行した点です。こうすると、外部の私たちから見ても「属人的な会社」から「組織として意思決定できる会社」へ一段階上がったと評価できます。事業承継の際に金融機関が心配するのは“後継者が社員をまとめられるかどうか”なので、就業規則があることはないよりははるかにプラスに働きます。
社員が好き勝手に動く状態が収まり、指揮命令の一本化ができた
後継社長に意見を伝える公式ルートができ、不満が水面下でたまらなくなった
「娘に言われたくない」という感情論が、「会社のルールだから従う」に変わった
事業承継がスムーズになり、組織としての一体感が戻った

金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
事業承継のタイミングで就業規則を整えると、トラブルの“前倒し処理”ができます。つまり、社長が代わってから揉めるのではなく、代わる前に「今後はこういうルールでいきます」と宣言できる。これはステークホルダーにとっても少し安心材料となり、会社としてのガバナンスを評価しやすくなるポイントです。
この事例から分かるポイントは3つです。
事業承継では“後継者の力量”だけでなく“ルールの有無”が信用を左右する
就業規則を整えると、感情論ではなく制度論で話ができるようになる
意見ルートを一本化することで、ベテラン社員の“影響力の暴走”を防げる
金井弘一朗(元大手信用調査会社)のコメント:
今回のA社は「社長が代わるから整える」のではなく、「代わる前に整えておく」という順番をとったことが成功要因と言えるでしょう。就業規則以外にもあしき習慣というものが根付いていますが、こういったところから少しずつ変えていくことで、承継後にスムーズに移行できるようになります。金融機関の目線でも“計画的に承継している”と映り、長期的な取引のしやすさにつながります。
F&M Clubでは、事業承継に伴う就業規則の整備、36協定の手当て、雇用契約書のアップデート、さらに必要に応じた助成金の活用までをワンストップで支援しており、累計48,000社以上の中小企業が活用しています。
「承継のときに社員がざわつきそう」「代替わりを機にルールを一度きれいにしたい」「でも自社だけでどこまでやるべきか判断できない」という場合は、ぜひF&M Clubにご相談ください。