業務改善助成金とは?助成額や、活用事例を解説
業務改善助成金とは、中小企業の生産性向上支援のため、事業所内で最も低い賃金(事業所内最低賃金)の引き上げをおこなうために、生産性向上につながる設備投資(機械整備や教育訓練等)をおこない、事業場の最低賃金を一定額引き上げた場合にその設備投資等に要した費用の一部を助成するものです。
2021年も全国の最低賃金は上昇し、事業所内の最低賃金を引き上げようと悩む中小企業にとっては知っておいて損のない助成金です。
目次[非表示]
- 1.助成額・助成率について
- 2.助成金支給までの流れ
- 2.1.最低賃金引き上げ計画
- 2.2.機械等設備の導入
- 2.3.注意点
- 3.業務改善助成金の助成金活用事例
- 3.1.エステサロン(従業員数10人未満)
- 3.2.飲食業(従業員数15名)
- 3.3.技術サービス業(従業員数90名)
- 4.助成対象となる設備
- 5.最後に
助成額・助成率について
業務改善助成金は、事業所内最低賃金を引き上げる額に応じてコースが区分されています。
例えば、20円以上引き上げる場合、「20円コース」の区分になり、引き上げる労働者数が1人の場合、助成金の上限は20万円とされています。
尚、コースについては下限が20円以上引き上げの「20円コース」から上限は90円以上引き上げの「90円コース」となり、90円コースで10人以上引き上げた際には助成金の上限は600万円となります。
対象となる要件
すべてのコースの要件として、事業所内最低賃金と地域別最低賃金の 差額が30円以内 ・事業場規模100人以下が対象となります。
10人以上の要件
尚、「10人以上」の要件は、次のいずれかに該当する事業場が対象です。
- 賃金要件:事業所内最低賃金900円未満の事業場
- 生産量要件:売上高や生産量などの事業活動を示す指標の直近3か月間の月平均値が前年または前々年の同じ月に比べて、30%以上減少している事業者
生産性とは
「生産性」とは、企業の決算書類から算出した労働者1人あたりの付加価値を意味します。助成金支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性とその3年度前の決算書類に基づく生産性を比較して、伸び率が一定水準を超えている場合等に加算して支給されます。
助成率とは
「助成率」については、下記のとおりです。
事業所内最低賃金 900円未満の場合は4/5となり、生産性要件を満たした場合は9/10です。次に事業所内最低賃金 900円以上の場合は3/4となり、 生産性要件を満たした場合は4/5となります。
助成金支給までの流れ
業務改善助成金を申請するための、必要な手続きとしては、交付申請書・事業実施計画等を事業所最寄りの都道府県労働局に提出をし、交付決定後に提出した計画に沿って事業実施をし、事業実施結果を報告後、審査を経て助成金の支給という流れとなります。
最低賃金引き上げ計画
会社の内部としては、事業所内最低賃金を引き上げる計画を立てることからスタートとなります。
賃金引き上げは賃金減額とは真逆となる対応のため、労働者の合意を得られないというケースは少ないでしょうが、一定数扶養の範囲内で働きたいという意思をもつ労働者もゼロではないため、早い段階で計画を立てることが重要です。
また、就業規則(または賃金規程等)に規定することも求められます。
機械等設備の導入
次に生産性向上に資する機器等の導入をし、業務改善をおこない、その費用を支払うこととなります。
注意点としては単なる経費削減のための経費や通常の事業活動に伴う経費などは除かれます。
活用事例としてPOSレジシステム導入による在庫管理時間の短縮や、顧客・帳簿管理システムの導入による業務の効率化が挙げられます。
注意点
解雇や賃金引下げ等の不交付事由が存在しないことも重要な点です。
そのほかの注意点として、交付申請書を都道府県労働局に提出する前に設備投資や事業所内の最低賃金引き上げを実施した場合は対象外となること、事業所内最低賃金の引き上げは交付申請書提出後から事業完期日までであればいつ実施しても問題はないこと、設備投資等の実施および助成対象経費の支出は交付決定後におこなう必要があるという点です。
業務改善助成金の助成金活用事例
業務改善助成金の活用事例について紹介します。
エステサロン(従業員数10人未満)
旧来は施術ごとにお客様に部屋を移動してもらっていたため、移動に生じていた手間をなくし、短時間で効率的にサービスを提供することができるようになるのではないかと活用を検討し、複数の施術機能をもった機械を導入しました。
事業所内で最も低い時給を引き上げ、新機器を使うことで短時間に施術ができることでお客様にも好評を博し、労働者の行効率も上がり、売上増に寄与。
施術にかかる時短効果は直接的な売上増だけでなく、顧客情報の整理や今まで先延ばししていた業務も速やかに処理することが可能となりました。
助成金により、新機器を購入したことで仕事の見直しが進められ、改善点や今後更に注力していくべきポイントが明確化し、労働生産性の向上が促進された事例です。
飲食業(従業員数15名)
旧来は全面的に仕入業務を卸業者に依存してきたため、卸業者の主観や納品時間に拘束され、効率化の障害が浮き彫りになっていました。
この問題に対し、直接市場から仕入れすることにし、そのための仕入用車両が必要となりました。
事業所内最低賃金を引き上げ(原資は利益の増加分で補填)、仕入用車両を使って、市場から直接高品質の食材を素早く仕入れることができるようになり、これまでの課題が解決。
店舗の都合に合わせて仕入が出来るようになったことで、業務が効率化し、お客様にも豊富なメニューを提供できるようになり、売上増にもつながった事例です。
技術サービス業(従業員数90名)
業務拡大と比べて社内の人事制度の整備が追い付いておらず、人材育成も手つかずの状態であったたため、専門家へ依頼し、ヒヤリング、職務分析をおこない改題の明確化に着手。
事業所内の最低賃金を引き上げ、新人事システムを導入することによりそれぞれの職務評価が明確化され、各労働者が能動的に業務に取り組むようになったことで、時間外労働の減少に繋がった事例です。
助成対象となる設備
業務改善助成金の助成対象となる設備は、あくまで生産性の向上、労働能率の増進に資するものでなければ助成の対象となりません。
そのため、予め専門家へ確認するなどの慎重な対応が必須です。
「業務改善」助成金の目的は企業の生産性向上により賃金の引き上げに際しての負担を軽減することに主眼を置いています。
よって、賃金引上げ計画の対象者が担う業務と生産性向上、労働能率の増進に資する設備投資がイコールになっていなければ支給対象外ということではありません。
また、既存の機器だけでは対応できない作業量となり、当該機器を「増設」することにより生産性の向上を図りたいという場合もあるでしょう。
そのような場合も生産性向上、労働能率の増進が認められる場合には、助成対象となり得ます。
さらに、これまで外注していたものを、設備投資を進めて内製化する場合、全体を通して考えると、必ずしも生産性の向上、労働能率の増進に逆行しているとはいえないため、助成対象となることもあります。
多くの事業所で一度は検討するであろう「助成対象となるパソコンやタブレット端末」についてはどのような線引きがされているのかも確認しておきましょう。
これは、POSレジシステムを導入するため、既存のタブレット端末では適正に稼働せず、システムが一体となり使用する場合は助成対象となり得ます。
しかし、単なるパソコンの買い換えや、汎用タブレット端末等は原則として助成対象にはなりませんが、令和3年度に限り、パソコン等の新規購入について、コロナ禍により特に影響を受けた事業者であり、事業所内最低賃金を30円以上引き上げる場合に助成対象となる場合があるので、専門家へ相談することも選択肢です。
最後に
業務改善助成金は単に、事業所内の最低賃金を引き上げるだけでなく、生産性向上につながる機器の購入等が必要です。
よって、対象となる機器であるか否かの精査も併せておこなう必要があります。
また、多くの助成金に共通して言えることですが、助成金の為だけに取り組むとなるといずれ無理が生じるため、専門家に数段する等、長期的に検討を進めたい分野です。