社長は貸借対照表をこう見なさい!流動資産や借入金の重要性を解説
「決算書のなかで大事なものと言えば損益計算書ですよね?」と考える経営者は少なくないようです。
経営者の相談相手となる銀行員は「前期はどれだけの利益が出たか」「黒字だったか、それとも赤字だったか」と、企業の財政状況について、利益の数値や黒字・赤字が一目でわかる損益計算書のみを重視しているわけではありません。
支店に決算書を持ち帰ったあとには、貸借対照表(B/S)も含めてより詳細な分析が加えられることになります。
今回は、銀行員はもちろん、投資家やいろいろなステークホルダーにとって重視されている貸借対照表について、「貸借対照表は何のためにあるか」「貸借対照表はどのように利用されされ、診断されるのか」「銀行と付き合う上で知っておくべきポイントは何か」を解説します。
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会社は「資産の集合体」、その「解剖図」としての貸借対照表
「現金」「土地建物」「商品在庫」「車両運搬具」などの資産が集まっていると考えれば、「会社はさまざまな資産の集まり」であるともいえます。
貸借対照表の左側「資産の部」では、「会社がどのような資産から構成されているか」が示されています。
一方で貸借対照表の右側では、これらの資産を用意するための調達源としての「負債・純資産」が記されています。
人間の体も筋肉や脂肪、骨などさまざまなパーツで構成されていますね。体組成を測る習慣のある人なら、「筋肉が多くて、脂肪が少なければいいなあ」と感じたりするのではないでしょうか?
銀行をはじめとしたステークホルダーが貸借対照表を見て分析する時も、まさに「会社の体組成をチェックする」ような感覚で臨んでいます。
まさに「筋肉が多いか」「内臓脂肪は多すぎないか」と見るのと同じような見方で、「現預金は十分にあるか」「不良在庫となっている棚卸資産の割合は多くないか」「使途不明の仮払金のような、怪しい勘定科目は多くないか」という、企業の財政状態の安全性をチェックします。
さらに、お医者さんが健康診断の際に「栄養をどんな食事から摂取しているか」「食事に占める肉と野菜の割合はどれぐらいか」を気にするのと同じように、銀行は「資産を調達するための資金を負債(借入金など)でまかなっているか」「あるいは自己資本でまかなっているか」を確かめようとします。
銀行の見方では、「利息の支払いを伴う負債」よりも「返済を伴わない純資産」の割合が高い状況を健全だと見なします。
したがって、資産の中身だけでなく負債や自己資本、さらには負債の中身(どこから借りているのか)や詳細についても着目します。
損益計算書は「体重の増減」、貸借対照表は「体組成」を確認
例えるなら、損益計算書は「一定期間の体重のプラス・マイナス」を知るためのデータといえます。しかし、「一定期間の体重の増減」を分析するだけでは、その人が肥満なのか筋肉質なのか、体組成がどうなっているかは判断できません。
同様に、損益計算書は一定期間の利益を確認できますが、会社にどれぐらいのキャッシュがあるか、どのような資産を蓄積してきたかなどといった情報を知ることはできません。
損益計算書もまた、「一定期間における利益のプラス・マイナス」を示すデータです。
健康状態を判断する際に体重の増減だけでなく、体脂肪の割合や筋肉量の割合、食事内容をチェックするように、経営が健全におこなわれているかどうかをチェックするために貸借対照表は重視されます。
損益計算書は「一定期間の変化」、貸借対照表は「創業以来の積み重ね」
損益計算書は、一つの会計年度など、一定期間の間の数字を測定します。
一方で、貸借対照表には一定期間だけの数字ではなく、創業時に出資した自己資本や、前期以前に購入した土地建物・車両運搬具、長期の借入金など、創業以来積み重ねてきたさまざまな要素が数字となって表れています。
いわば「会社の歴史」を反映したものといえます。
体組成計で身体の状態正確に把握できるように、貸借対照表を見ることで会社の成り立ちを詳しく把握できます。
そのため、銀行などステークホルダーとって、貸借対照表は重要な資料として着目されています。
銀行員は貸借対照表のここに注目!
貸借対照表の中でも「銀行員が詳細を知りたい項目」に絞って、解説します。
流動資産(現預金等)の増減
流動性資産は比較的換金が容易で、現金化までの期間が短いため、財務上も流動性資産の割合が高いほうが健全とされています(会計学では、1年以内に現金化される資産という定義です)。
しかし、すべての流動資産が「多ければ多いほど良い」というわけでもありません。
流動性資産の中には、必要以上に多くなるとキャッシュフローの悪化につながる性質のものもあります。
また、流動資産は粉飾を試みる企業が操作を加える項目でもあるため、銀行がどのような視点で評価するかを知っておきましょう。
現預金
赤字決算が続いたとしても、十分なキャッシュを備えている企業は倒産せずに耐えることができます。一方で、決算書上は黒字であるにも関わらず、あえなく倒産してしまう会社もあります。
会社が倒産する時とは「支払うべきお金が支払えなくなってしまった時」です。
だからこそ、支払いにあてるための現預金が豊富にあることは、銀行にとって安心材料になります。
「お金に色はない」という言葉があります。
銀行口座に預けられている預金は、売掛金や在庫といった他の流動資産と比べて、金額を誤魔化しにくく、透明性が高いことも、銀行が信用の尺度とする理由の一つです。
会社の成長性よりも安全性を重視する傾向がある銀行にとっては、現預金は豊富であればあるほど評価が高くなります。
売掛金
売掛金は「売上債権」、つまり「売上の、代価として現金化される予定の掛け売上」なので、一定期間後に現預金に変わる予定の資産として多い方が好ましい項目です。
ただし、売掛金が現金化されるまでの期間が長いと、企業にとってお金が入ってくるまでの資金繰りが厳しくなってしまうため、キャッシュフローを悪化させることになってしまいます。
また、前期比で不自然に売掛金が増えていると、銀行は「粉飾決算ではないか?」という疑いを抱く可能性もあります。
粉飾決算には「売上を過大に見せるため、実際には現金が入ってきてない文章を売掛金等の売掛債権として計上しておく」という手口があるからです。
正当な理由があって売掛金が増えているタイミングでは、銀行からあらぬ不信感を持たれないためにも売掛金の明細を用意しておくなどの準備をしておきましょう。
棚卸資産
棚卸資産(在庫)も必要以上に多いとキャッシュフローを圧迫する要因となります。
売掛金と比較して、一定期間で現金化される確度がやや低い(売掛金は取引先が踏み倒さない限り現金化されるが、商品の在庫は必ず売れるという保証がなあるわけではないため)こともあり、棚卸資産が多いことは企業経営にもマイナス要因になり、銀行側の心証も悪くなる可能性があります。
また、売掛金と同様に粉飾決算で操作されやすい資産項目のため、例年よりも増加の度合いが大きい場合は適切な説明の準備をしておくべきです。
借入金の増減
株式投資家が企業の銘柄を評価する際、重要な指標として「自己資本比率(負債と純資産の合計に占める、純資産の割合)」がありますが、銀行が企業の決算を評価する際は、自己資本比率は業種別平均から大きく外れていない限り、そこまで重視しているわけではありません。
銀行は取引先企業の決算書で読み取れる「前期と比較した借入金の増減」を重視しています。
他の銀行からの借入金が大きく増えている場合、「なにか大規模な設備投資の必要が生じたのか」「あるいは収益の減少を埋めるためにお金を借りる必要が生じたのか」と、詳細な背景を知りたいと考えます。
また、「借入金の借入先」も銀行が気にするポイントです。
銀行や日本政策金融公庫といった一般的な金融機関以外の「ノンバンク」から借入をしていることがわかれば、借入の金利や借入れに至った経緯について、担当者から説明を求められる場合があります。
ノンバンクからの借入れは、内容次第でもありますが、基本的には印象が悪くなってしまいます。
「普通の銀行から借りられないような財務状況なのかな?」「カードローンの利用や個人からの借入であれば、高い金利の支払いで財務が圧迫されるかもしれないな」などと勘繰られる可能性があります。
「貸付金」「仮払金」「未収金」の存在
貸付金とは、会社が取引先や個人などに貸し付けている債権です。
きちんと貸付金の内容を説明できない限り、銀行から見れば存在自体がネガティブに捉えられることが多い項目です。
銀行や金融機関の性格として、「中身がはっきりとわからない数字の存在を嫌う」というところがあり、「貸付金」をはじめ、「仮払金」や「前払費用」は、銀行側が「使途不明なお金の使い方」と見なす項目です。
特に、長期間回収されていない「貸付金」は、銀行からすれば「もはや回収の見込みがなく、資産としての価値がないもの」と見なされる可能性があります。
そうなると、決算書上の資産の総額から「資産性がない」と判断された項目が割り引いて評価され、格付で不利に働くことがあります。
どうしても「貸付金」「仮払金」「前払費用」として計上する資金の使い方があった場合は仕方がありませんが、可能な限り早く解消することが望ましいといえます。
資産と負債の比較
企業が保有している資産の量は「いつか返す義務がある」負債と「返す義務のない」純資産の合計です。
ゆえに、経営状況が健全な企業は負債よりも資産の量の方が上回っていますが、経営状況が厳しい企業の中には「負債が資産を上回っている状況」、いわゆる「債務超過」に陥っているケースが見られます。
「債務超過」の状況では、企業がたとえ資産を全て売り払ったとしても負債を全額返すことができない状況ということで、金融機関からの評価も必然的に厳しくなります。
とはいえ、債務超過に陥ったからといって即座に取引銀行から見放されるとは限りません。
債務超過の状況では、新規で融資を受けることは困難となりますが、それまで受けていた融資の一括返済を求められることは通常なく(民法において定められている「期限の利益」による保護のため)、毎月の返済の形で銀行との関係が続きます。
したがって、債務超過で一時的に銀行からの信用が低下したとしても、銀行との付き合いが続いている間に業績を回復させれば、銀行からの信用を取り戻すことも可能です。
しかし、債務超過に関して気をつけるべきポイントに、決算書上は債務超過となっていなくても、銀行が「実質的な債務超過」と見なすケースがあります。
例えば、決算書上の資産の中に「長らく回収されていない売掛金」や「実態が不明な貸付金」が含まれている場合、銀行がそれらを「実質的に存在していない資産」と見なし、決算書上の資産額からマイナス計算して評価する場合です。
マイナス計算をされた結果、資産の額が負債の額を下回るようなことがあれば、決算書上は債務超過でなくても「実質的な債務超過」と見なされ、銀行からの評価が下がる可能性があります。
気づかぬうちに銀行側からの評価を下げられ、追加の融資を申し込みたいタイミングで承認してもらえないということがないよう、決算書上の資産の中で銀行から疑われかねない項目について、銀行に疑念を持たられないようにしておくことが必要です。
銀行から見て「不自然な」貸借対照表にならないことが大切
貸借対照表には、損益計算書で示されるような「一定期間の変化」だけでなく、「会社が創業以来積み上げてきた要素」が表されています。
まさに「会社の健康診断表」と呼ぶにふさわしい指標です。
金融機関側の評価も、損益計算書は「損益がどれだけ出ているか」を確認することに対して、貸借対照表は「異常な数値・不自然な内容がないか」といった視点が中心となります。
したがって、前期と比べてイレギュラーな変化があった項目は、決算書を渡すタイミングまでに口頭で説明できる、明細表を用意するなどの工夫も必要です。
金融機関を納得させるための具体的な説明の仕方や準備手順について、具体的に何をすればいいのか悩む方も多いといえます。
銀行に「下手な小細工」と思われない、銀行と良好関係を保てる対策方法をご確認されたい方は、ぜひエフアンドエムにご相談ください。
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