【価格転嫁】値上げできない企業は淘汰フェーズへ|中小企業が今すぐ取るべき対応

株式会社エフアンドエム
物価高、人件費上昇、エネルギーコスト増が続いています。その中、価格転嫁できる企業とできない企業で収益力の差が広がってきました。価格を見直せない企業は、資金繰りや人材確保にも影響が出やすくなっています。
今回、なぜ価格転嫁が重要なのか、経営者が今すぐ取り組むべき対応をまとめました。
目次
価格転嫁が企業生存の分岐点になっている
価格転嫁は、単なる値上げ交渉ではありません。コスト上昇を適切に販売価格へ反映し、事業を継続するための経営判断です。
倒産件数は12年ぶりに1万件を突破
帝国データバンクによると、2025年の全国企業倒産は1万261件です。2013年以来12年ぶりに年間1万件を超えました。特に中小企業では、物価高や賃上げ、人手不足などの経営課題に対応しきれず、事業継続を断念する小規模事業者が発生し続けています。
もちろん、倒産の原因は販売不振、資金繰り、人手不足、後継者難など複数あります。ただ、原材料費や人件費の上昇を価格に反映できないことは大きな要因です。利益率が下がり、手元資金も減少します。
【出典】帝国データバンク | 倒産集計 2025年報(1月~12月)
物価高倒産・人手不足倒産も増加している
2025年度の全国企業倒産は1万425件となり、2年連続で年度1万件を超えました。帝国データバンクは、資金繰りが悪化した中小零細企業の厳しい状況が浮き彫りになったと説明しています。
また、2025年度の物価高倒産は963件で過去最多を更新しました。業種別では、建設業247件、小売業227件、製造業177件が多くなっています。さらに、東京商工リサーチによると、2025年度の人手不足倒産も442件と過去最多を記録しました。
価格転嫁できない企業は、原材料費だけでなく、賃上げや採用費の上昇にも対応しにくくなります。利益が残らなければ、設備投資や人材確保に回す資金も不足し、競争力が低下するのです。
【出典】帝国データバンク | 倒産集計 2025年度報(2025年4月~2026年3月)
【出典】東京商工リサーチ | 2025年度の「人手不足」倒産 過去最多の442件 人件費高騰が1.7倍増、労働集約型で深刻さを増す
価格転嫁の実態
価格転嫁は少しずつ進んでいるものの、十分とはいえません。中小企業庁の2025年9月フォローアップ調査では、コスト上昇分の半分近くを企業が自社で吸収している実態が見えます。
価格転嫁率は53.5%にとどまる
中小企業庁の2025年9月フォローアップ調査によると、コスト全般の価格転嫁率は53.5%でした。平均的にはコスト上昇分の約半分しか反映できていません。
【出典】経済産業省 | 価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果
コスト要素別では、原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%です。労務費の転嫁率は初めて50%に到達しました。しかし、賃上げや採用費の増加を十分に価格へ反映できていない企業はまだ多い状況です。
転嫁できる企業とできない企業の二極化が進む
中小企業庁は、価格転嫁の状況は改善傾向にあるものの、まだ道半ばであると説明しています。転嫁できない企業は、利益を削って現状維持を続けざるを得ず、経営体力が低下しやすい状況です。この差は、短期的には小さく見えるかもしれません。しかし、物価高や人件費上昇が続く局面では、数年後の利益率、資金繰り、人材確保力に大きな差として表れます。
なぜ企業は価格転嫁できないのか
価格転嫁が進まない理由は、経営者の努力不足だけではありません。取引構造、コスト管理、顧客離れへの不安が重なり、値上げを言い出しにくい状況があります。
取引先に言い出しにくい構造がある
中小企業の多くは、売上の大半を特定の発注元や元請け企業に依存しています。そのため、「値上げを申し入れたら取引を減らされるのではないか」という不安を持ちがちです。結果、価格交渉に踏み出せないケースがあります。
特に、下請け構造の下層にいる企業ほど、価格改定の主導権を持ちにくい傾向がみられます。もちろん、取引先との関係を守ることは重要です。しかし、採算を無視した価格を続ければ、自社の継続性そのものが危うくなります。
コスト上昇を数字で説明できていない
価格転嫁交渉では、「原材料費が上がったので値上げしたい」だけでは不十分です。いつ、何が、どれだけ上がったのかを、品目別・時系列で説明する必要があります。
たとえば、主要原材料、電気代、燃料費、人件費について、前年同月比や一定期間比で何%上昇したのかを一覧化します。数字で示せば、取引先とも値上げ交渉を進めやすくなります。BtoC業態では顧客離れへの不安が大きい
飲食店や小売業などBtoC事業では、客離れにつながるのではないかという不安があります。そのため、原材料費や人件費が上がっても、価格を据え置いてしまう企業が多いでしょう。
しかし、価格を据え置いたままでは、品質維持や人材確保が難しくなるはずです。顧客離れを恐れて値上げを避けると、中長期的には事業継続リスクを高めます。
取適法で価格交渉の環境は変わる
2026年1月1日から、下請法の改正により、法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となり、略称として「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」が施行されます。
取適法は、発注者・受注者の対等な関係に基づき、価格転嫁と取引適正化を図るための制度です。協議に応じない一方的な代金決定が問題になり得る
公正取引委員会によると、取適法は、発注者と受注者の対等な関係に基づき、価格転嫁と取引適正化を図るための改正です。2025年5月に成立・公布され、2026年1月1日から施行されています。
政府広報オンラインでも、取適法により適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大すると示されました。中小受託取引の公正化と受託側中小企業の利益保護が強化されると説明されています。
これにより、協議に応じない一方的な代金決定などが問題になり得るようになりました。受注側企業が価格交渉を求める根拠として活用しやすくなります。
法律だけで価格転嫁は実現しない
取適法によって、価格交渉の環境は整いつつあります。しかし、法律があるからといって、必ずしも希望どおりの値上げが認められるわけではありません。
実際の交渉では、コスト上昇の根拠、価格改定の必要性、取引先にとってのメリットなどの説明が必要です。法制度を理解したうえで、数字に基づいた交渉資料を準備しましょう。
価格転嫁を進めるための実務アクション
価格転嫁は、思いついたタイミングで感覚的に交渉するものではありません。準備、交渉、見直しを仕組み化することが必要です。
コスト増加を品目別・数値別に見える化する
まず、自社のコスト構造を整理しましょう。原材料費、外注費、運送費、電気代、人件費などを項目別に分け、過去と現在の金額を比較します。
たとえば、「主要材料Aは前年比で30%上昇」「電気代は月10万円増加」「最低賃金改定により人件費が年間〇万円増加」といった形で数値化します。交渉時は、この数値が価格改定の根拠です。
一度に大幅値上げせず段階的に交渉する
一度に大幅な値上げを求めると、取引先の反応が悪くなるかもしれません。実務上は、「今回は5%、次回契約更新時に再度見直し」といった段階的な交渉が有効です。
重要な視点は、1回の交渉で全額転嫁を目指すことではありません。継続的に価格を見直す機会を確保することです。原材料費やエネルギー費は今後も変動すると考えられます。それを見据え、定期的な見直しルールを設けることが望ましいです。
値上げではなく価値維持のための改定と伝える
価格改定は、単なる値上げではないケースが大半です。品質や安定供給を維持するための改定であり、将来的な影響も含めて説明しましょう。
たとえば、製造業であれば「品質検査体制を維持するため」、建設業であれば「熟練人材を確保し、安全管理を維持するため」、飲食業であれば「原材料の品質を落とさず提供するため」といった説明が考えられます。
価格だけを上げるのではなく、取引先や顧客が受け入れる理由を示すことで、交渉がスムーズに進むはずです。
まとめ
価格転嫁は、いまや企業生存を左右する経営課題です。2025年の全国企業倒産は12年ぶりに1万件を超え、2025年度も2年連続で年度1万件を超えました。物価高倒産や人手不足倒産も過去最多となっており、コスト上昇を吸収しきれない企業の厳しい状況が続いています。
中小企業庁の調査では、2025年9月時点の価格転嫁率は53.5%です。裏を返せば、コスト上昇分の半分近くはまだ企業が自社で負担しています。価格転嫁できる企業とできない企業の差は、今後さらに広がるかもしれません。
「値上げできない」は、もはや仕方のないことではありません。価格転嫁を経営戦略として捉え、早めに行動へ移すことが、淘汰フェーズを乗り越える第一歩です。
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