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【カスハラ対策義務化】2026年10月から全企業が対象|中小企業がそろえる3点セット

株式会社エフアンドエム

株式会社エフアンドエム

「カスハラ対策が義務化される」と聞いて、自社には関係のない話だと感じた経営者の方はいるはずです。小売や飲食、コールセンターの話だろう、という受け止め方でしょう。

しかし2026年10月1日に始まるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化は業種や企業規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業主が対象です。しかも法律が定める「顧客等」には、取引先の担当者が含まれます。BtoBの製造業も、建設業も、受託開発のIT企業も例外ではないのです。放置すれば、従業員の休職や離職という形でコストが表面化します。施行まで1カ月余りの今、中小企業が最低限そろえるべきものを整理しました。

目次

カスハラの相談件数は増加傾向

まず、カスハラがどれだけ起きているかを数字で押さえましょう。

厚生労働省が全国の従業員30人以上の企業・団体に実施した実態調査では、過去3年間にカスハラの相談があった企業は27.9%でした。注目すべきは、相談件数が「増加している」と答えた企業が「減少している」を上回っている点です。相談件数で増加傾向を示したのは、カスハラだけでした。

労働者側でも、過去3年間にカスハラを経験した人は10.8%にのぼります。それに対し、カスハラの予防・解決に取り組んでいる企業は全体で64.5%、従業員99人以下(調査対象は30人以上)の企業では57.5%にとどまり、42.5%は何も実施していません。

【出典】厚生労働省 | 令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)

被害は「休職・退職」というコストで表面化

東京商工リサーチが2024年8月に実施し、5,748社から回答を得た調査があります。カスハラ被害を受けた企業のうち、当該設問に回答した1,040社の13.5%で、従業員の休職や退職が発生していました。一方、対策の実施状況を尋ねた設問に回答した5,651社では、71.5%が「特に対策は講じていない」と答えています。中小企業(資本金1億円未満)に限れば73.4%です。

義務化決定前の調査ですが、当時、多くの企業が未対策だったとわかります。

【出典】東京商工リサーチ | 企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超(2024年8月27日)

2026年10月1日より全企業が対象に

2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法を基に準備が進められました。これに基づく指針が2026年2月26日に告示され(厚生労働省告示第51号)、2026年10月1日から事業主の措置義務が始まります。

パワハラ防止措置のときは、大企業が2020年6月1日、中小企業が2022年4月1日と、中小企業に2年間の猶予がありました。しかし今回、その猶予はありません。厚生労働省の資料も「全企業が対象です」と明記しています。

2026年度法改正・制度変更速習マップ(記事用バナー)

何が「カスハラ」にあたるのか

指針は、職場において行われる次の3要素をすべて満たす言動をカスハラと定義しています。なお「職場」には、取引先の事務所や打合せの場所など、通常の勤務場所以外も含まれ得ます。

顧客等の言動であること

業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること

労働者の就業環境が害されるものであること

電話やメール、SNS上の言動も対象です。正当なクレームまで拒んでよいわけではないからこそ、会社としての線引きの基準が必要です。

【出典】厚生労働省 | 令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!(リーフレット)

【出典】厚生労働省 | 令和8年10月1日からカスタマーハラスメント対策等が義務化されます(詳細版)

【参考】厚生労働省 | 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について

【参考】厚生労働省 | 職場におけるハラスメントの防止のために

客商売ではない企業も対象になる理由

今回の改正でもっとも見落とされやすい点です。BtoB企業が対象外になる根拠は、法律にも指針にもありません。

法律上の「顧客等」には取引先が含まれる

指針は「顧客等」を、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者、と定めています。エンドユーザーだけを指す言葉ではなく、発注元の購買担当者も、元請の現場監督も含まれるのです。

消費者と接点のない部品メーカーやシステム受託会社などでは、関係のない法律だと捉えるかもしれません。しかし、取引先の担当者による言動であっても、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、それによって従業員の就業環境が害されるなど、先に挙げた3要素をすべて満たす場合は、カスハラに該当し得ます。この場合、会社は措置を講じる義務を負うのです。

【出典】厚生労働省 | 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省告示第51号)

BtoBでカスハラが起きやすい場面を押さえる

実際にカスハラが起きやすい場面を挙げると次のとおりです。

契約範囲を大きく超える追加作業を、無償で当日中にと迫られる

発注内容が何度も覆り、そのたびに担当者が長時間の電話で叱責される

「取引を切る」「他社に替える」と繰り返し示唆され、担当者が萎縮する

担当者個人の人格を否定する言葉や、謝罪の強要がある

ただし、これらの言動が直ちにカスハラにあたるわけではありません。目的や経緯、頻度、態様、契約内容、就業環境への影響などを踏まえ、先に挙げた3要素をすべて満たすかどうかで判断します。

取引上の力関係があるため、現場は「取引先だから仕方ない」と抱え込み、上司も先送りしがちです。これが、BtoB企業でカスハラが見えにくくなる理由でもあります。

自社が「加害者」になるリスクもある

BtoB企業は、もう一方の当事者である加害者になる可能性があります。自社の従業員が取引先の従業員に行き過ぎた言動を取ってしまうのです。取引先から事実確認への協力を求められた場合、事業主にはこれに応じるよう努める義務が課されました。

さらに指針は、協力を求められたことを理由に契約を解除するなど、不利益な取扱いを行うことは望ましくない、と明記しています。また、自社の従業員が他社の従業員に対してカスハラを行わない方針を示すことも、望ましいとされています。

理不尽な取引条件は取適法にも抵触するリスクがある

2026年1月1日には、下請法が中小受託取引適正化法(通称「取適法」)へ改正・改称されて施行されました。手形払いの禁止や、協議に応じない一方的な代金決定の禁止など、受注側を守るルールが強化されています。

要求の内容によっては、カスハラ対策に加えて取適法の問題にもなるかもしれません。ただ両制度の要件は異なります。取適法が適用されるのは、製造委託や役務提供委託など、対象となる取引で、かつ資本金または従業員数の基準を満たす当事者間のみです。自社が発注者になる場面がある企業は、あわせて確認しましょう。

世界一わかりやすい取適法(記事用バナー)-1

【参考】公正取引委員会 | 中小受託取引適正化法(取適法)リーフレット

【参考】中小企業庁 | 【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など「取適法」がもたらす変化

中小企業が最低限そろえる3点セット

義務化への対応に、専任部署や高額なシステムが必須というわけではありません。指針は事業主が講ずべき措置を10項目示しています。本記事では、これを中小企業が着手しやすいよう次の3グループに整理します。3つのうちどれかを実施すればよいという意味ではなく、それぞれに含まれる項目を漏れなく整えることが必要です。

①方針と判断基準を明確にして周知する

「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」という方針を示すことが重要です。加えて、どのような言動がカスハラにあたるのか、その場合にどう対処するのかを従業員に周知しましょう。社内報や社内ホームページ、パンフレットなどが有用です。

また、BtoB企業では、この文書に「取引先からの言動も対象とする」と一言入れておくことをおすすめします。書かれていなければ、現場は取引先の件を相談してよいと判断できません。

②相談窓口を設け担当者が対応できる体制を整える

相談窓口の設置と周知も必須です。専任の担当者は不要で、総務担当者や役員の兼務でも差し支えありません。大切なのは「誰に言えばよいか」が全従業員に伝わっていることです。

あわせて、窓口の担当者が適切に対応できる体制も求められます。対応手順を書いたマニュアル、短時間でよいので研修の機会、現場部門や経営層との連携ルートを用意しましょう。社内で相談しにくい場合は、社会保険労務士など外部への委託も選択肢です。

③事後対応と悪質事案への備えを決めておく

実際にカスハラが起きたときの手順も決めておきましょう。事実関係の迅速かつ正確な確認、被害を受けた従業員への配慮、再発防止の3つが柱です。

さらに、特に悪質と考えられるケースへの対処方針をあらかじめ定めることも求められます。どの段階で上長が代わるのか、いつから録音するのか、どこから警察や弁護士に相談するのかなどです。この線引きがないと、現場は一人で抱え込みかねません。

相談者や行為者のプライバシーを守ること、相談を理由に不利益な取扱いをしないことも、あわせて講じるべき措置です。ハラスメント防止規程に盛り込むのが実務的でしょう。

9月末までの逆算スケジュール

まず、方針と判断基準の文書化、相談窓口の決定に着手します。9月前半に対応マニュアルを整備し、必要に応じて規程を改定します。9月中旬から下旬にかけて全従業員への周知と短時間の研修、という流れが現実的でしょう。

なお、カスハラ対策のために就業規則を必ず改定する必要はありません。もし、就業規則を改定するならば、従業員の規模に応じた手続きが必要です。

また、厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」では、パンフレットや研修資料、マニュアル、ポスターを無料で利用できます。ただし法改正の成立前に作成された資料も含まれるため、最新の指針とあわせて確認しましょう。

就業規則チェックリスト

【参考】厚生労働省 | あかるい職場応援団「カスタマーハラスメントとは」

まとめ

2026年10月1日から、カスハラ対策は全企業の義務になります。中小企業の猶予期間はありません。

そして法律上の「顧客等」には取引先が含まれます。「うちは客商売じゃない」は、対象外である理由になりません。力関係のあるBtoB取引では、現場が声を上げにくく、被害が表面化しにくいおそれがあります。

やるべきことは、①方針と判断基準の明確化・周知、②相談窓口と対応体制の整備、③事後対応と悪質事案への対処方針、の3点セットです。施行が迫るなかでも対応は可能ですが、事業場が複数ある企業や規程変更が必要な企業は手続に時間がかかります。今すぐ着手しましょう。

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