
借入金の仕訳はいつ?勘定科目の種類と利息・返済などをタイミング別に解説
企業の維持と成長に必須となる借入金は決算書の重要な項目であるため、適切な仕訳が必要です。また経営者や金融機関が一目で確認しやすいように作成するポイントがあります。
本記事では借入金の種類に応じた勘定科目、利息支払や元金返済時などのタイミングごとの仕訳例を解説します。
目次[非表示]
- 1.借入金の主な種類
- 1.1.手形借入
- 1.2.当座貸越(当座借越)
- 1.3.手形割引
- 1.4.証書貸付
- 1.5.社債
- 2.借入金に関する主な勘定科目
- 2.1.短期借入金(流動負債)
- 2.2.長期借入金(固定負債)
- 2.3.社債(固定負債)
- 2.4.支払利息(損益)
- 2.5.手形売却損(損益)
- 3.借入金に関するタイミング別の仕訳例
- 3.1.借入したときの仕訳
- 3.2.利息を支払ったときの仕訳
- 3.3.借入金の元金を返済したときの仕訳
- 3.4.元金返済と利息が同時に引き落とされたときの仕訳
- 4.借入金の仕訳でよくある悩みや注意点
- 4.1.1年以内返済長期借入金
- 4.2.保証協会の保証料を支払ったときの仕訳
- 4.3.当座貸越(当座借越)の仕訳は当座預金と当座借越の2種類
- 4.4.借入時に融資事務手数料が天引きされて入金した場合
- 4.5.資本性劣後ローンは資本性借入金の勘定科目がおすすめ
- 5.経営者の経理と資金繰りのお悩みはF&M Clubがサポートします
借入金の主な種類
借入金は主に「手形借入」「当座貸越(当座借越)」「手形割引」「証書貸付」の4種類があります。
手形借入
借入する企業が金融機関へ約束手形を振り出し、手形の金額を借入する方法です。原則として期間1年以内の短期借入として利用されています。
当座貸越(当座借越)
当座預金に付帯させて、限度額の範囲内で自由に借入や返済をおこなうことができる借入金です。一時的な資金不足のとき、当座預金残高以上に支払が発生するときなどに利用されます。
手形割引
取引先からの受取手形を満期前に金融機関で現金化する方法です。受取手形を満期前に換金するものであるため借入金とはならず、負債が増えないというメリットがあります。
証書貸付
借入するときに企業と金融機関が金銭消費貸借契約証書を交わす借入金です。主に長期の借入金に利用されています。
社債
企業が債券を発行して資金調達する方法です。中小企業が社債を発行する場合は銀行などの金融機関が引き受けることが多いため、融資に類似した資金調達方法となっています。
借入金に関する主な勘定科目
短期借入金(流動負債)
短期借入金とは期間1年以内に支払う借入金について用いる勘定科目です。
短期借入金には期間1年以内の証書貸付のほか、手形貸付や当座貸越などを含みます。
貸借対照表では流動負債となります。
長期借入金(固定負債)
期間1年を超える借入金の勘定科目は長期借入金を用います。
貸借対照表では固定負債として計上します。
社債(固定負債)
社債を発行している場合の残高を表す勘定科目です。
貸借対照表においては固定負債となります。
支払利息(損益)
借入について支払う利息を表す勘定科目です。
手形売却損(損益)
手形売却損とは、手形割引の際に利息代わりに金融機関が差し引く割引料のことです。
借入金に関するタイミング別の仕訳例
借入に関する仕訳をおこなうタイミングは、借入の入金があったとき、返済したとき、利息を支払ったとき、そして決算のときです。タイミング別の主な仕訳例は次のとおりです。
なお決算のときの仕訳については後述します。
借入したときの仕訳
借入が入金されたときの仕訳例は次のとおりです。
(仕訳例1)
手形借入1,000万円が当座預金へ振り込まれたとき
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
当座預金 |
10,000,000 |
短期借入金 |
10,000,000 |
利息を支払ったときの仕訳
利息を支払ったときの仕訳例は次のとおりです。
(仕訳例2)
手形借入1,000万円の利息10万円が当座預金から引き落とされた
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
支払利息 |
100,000 |
当座預金 |
100,000 |
借入金の元金を返済したときの仕訳
証書貸付の元金を返済したときの仕訳例は次のとおりです。
(仕訳例3)
長期借入1,000万円の元金50万円が当座預金から引き落とされた
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
長期借入金 |
500,000 |
当座預金 |
500,000 |
元金返済と利息が同時に引き落とされたときの仕訳
証書貸付の元金返済と利息支払を同時におこなったときの仕訳例は次のとおりです。
(仕訳例4)
長期借入1,000万円の元金50万円と支払利息10万円が当座預金から引き落とされた
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
長期借入金(旧) |
5,000,000 |
長期借入金(新) |
10,000,000
|
支払利息 |
100,000 |
||
普通預金 |
4,900,000 |
借入金の仕訳でよくある悩みや注意点
上記の借入タイミング別の主な仕訳例以外にも複雑な仕訳があります。借入の仕訳でよくある悩みや注意点は次のとおりです。
1年以内返済長期借入金
1年以内返済長期借入金とは、決算期において、翌期の1年間で返済する長期借入金の元金返済額を短期借入金へ振り替える処理のことです。
勘定科目は「短期借入金」または「1年以内返済長期借入金」(流動負債)を用います。
(仕訳例6-1)
決算時に、長期借入金のうち翌期に返済予定の600万円を「短期借入金」へ振り替える
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
長期借入金 |
6,000,000 |
短期借入金 |
6,000,000 |
(仕訳例6-2)
決算時に、長期借入のうち翌期に返済予定の600万円を「1年以内返済長期借入金」(流動負債)へ振り替える
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
長期借入金 |
6,000,000 |
1年以内返済長期借入金 |
6,000,000 |
1年以内返済長期借入金を勘定科目として表示することで、経営者や金融機関が迅速に資金繰りを確認することができます。
つまり、「利益+減価償却費-1年以内返済長期借入金」を計算するだけで、最低限必要となる借入額を即座に計算することが可能です。
保証協会の保証料を支払ったときの仕訳
信用保証協会の保証料を支払ったときの仕訳は複雑であり、保証料の仕訳には次の3つのパターンがあります。
①当期中に保証期間が終了するときの仕訳
勘定科目は「支払手数料(または保証料)」を用います。
②当期と翌期で保証期間が終了するときの仕訳
勘定科目は「支払手数料(または保証料)」と「前払費用」を用います。
③当期と翌期以降に保証期間が続くときの仕訳
勘定科目は「支払手数料(または保証料)」と「前払費用」、「長期前払費用」を用います。
(仕訳例7-1)
手形借入(期間6か月)の保証料5万円を普通預金から支払った
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
支払手数料 |
50,000 |
普通預金 |
50,000 |
(仕訳例7-2)
長期借入(期間18か月)の保証料18万円(当期分6万円、翌期分12万円)を普通預金から支払った
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
支払手数料 |
60,000 |
普通預金 |
180,000 |
前払費用 |
120,000 |
(仕訳例7-3)
長期借入(期間3年)の保証料36万円(当期分6万円、翌期分12万円、翌々期以降分18万円)を当座預金から支払った
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
支払手数料 |
60,000 |
当座預金 |
360,000 |
前払費用 |
120,000 |
||
長期前払費用 |
180,000 |
翌期においては、その期の分の保証料を前払費用からその期の支払手数料へ振り替える仕訳をおこないます。
当座貸越(当座借越)の仕訳は当座預金と当座借越の2種類
借入金の1種である当座貸越を利用したときに用いる勘定科目は「当座預金」または「当座借越」の2種類です。
① 勘定科目「当座預金」のみを用いる方法
② 勘定科目「当座借越」(流動負債)を用いる方法
(仕訳例8-1)
当座貸越(残高200万円)から仕入代金として小切手500万円を支払った
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
仕入 |
5,000,000 |
当座預金 |
5,000,000 |
上記の仕訳後の当座預金の残高はマイナス300万円となります。
決算のときは、当座預金のマイナス残高を短期借入金へ振り替える処理が必要となります。
(仕訳例8-2)
当座貸越(残高200万円)から仕入代金として小切手500万円を支払った
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
仕入 |
5,000,000 |
当座預金 |
2,000,000 |
当座借越 |
3,000,000 |
上記の仕訳の場合は、当座預金の残高(200万円)まで支払い、(当座預金残高はゼロとなる)、不足額を当座借越(流動負債)とする方法です。
仕訳例8-1と比べると仕訳が多くなりますが、仕訳ミスを避けやすくなります。
借入時に融資事務手数料が天引きされて入金した場合
借入時に融資事務手数料が発生することがあります。融資事務手数料は保証協会保証料と異なり、期間按分せずに借入時に一括して費用計上することができます。融資実行時に役務提供が終わったこととなるためです。
(仕訳例9)
期間5年間の長期借入1,500万円が入金されるときに融資事務手数料15万円を差し引いて入金された
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
普通預金 |
14,850,000 |
長期借入金 |
15,000,000 |
支払手数料 |
150,000 |
資本性劣後ローンは資本性借入金の勘定科目がおすすめ
資本性劣後ローンとは、返済期限まで元金返済額がない、金融機関が融資先の決算書を評価する際に借入金から自己資本へ振り替えて格付することができるなどの特徴があります。
資本性劣後ローンを利用しているときは長期借入金の一部とせず、勘定科目として「資本性借入金」(固定負債)を用いることがおすすめです。
長期借入金へ含めただけであると資本性劣後ローンを利用しているか一目ではわからず、格付時に見落としてしまう可能性があります。
資本性借入金という勘定科目を用いることで資本性劣後ローンを利用していることが決算書上で明確となり、格付時における自己資本への加算が漏れることを防ぐことができます。
経営者の経理と資金繰りのお悩みはF&M Clubがサポートします
借入金は借入したときや返済したときに仕訳をおこないますが、さほど難しいものではありません。
ただし経営者が理解しやすい決算書、銀行など金融機関が審査しやすい決算書とするためには、1年以内返済長期借入金や資本性借入金の勘定科目を用いるなど細かなテクニックが必要です。
上記のような「この仕訳はどうすればいいか」「銀行などの金融機関は決算書のどこを評価しているか」などの経営者が抱えるお悩みは、F&M Clubへお気軽にご相談ください。
F&M Clubは、金融機関の目線を踏まえた財務分析レポートを自社で取得できる、累計約38,000社へのコンサルティング実績を踏まえたプロのアドバイスを受けられるなど、経営者の資金繰り・経営に関するお悩み事の解決をトータルでサポートしています。
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