
理念を“行動”につなげる仕組みとは?事例で学ぶMVV設計と実践的浸透術
「理念があるだけでは、組織は動かない」。そう語るのは、全国の中小企業の組織づくりを支援してきたF&M Clubの講師陣です。急速に変化する社会の中で、従業員の価値観が多様化し、マネジメントスタイルも大きく変わろうとしています。そのような時代に求められるのは、経営理念やMVV(Mission・Vision・Value)をただ掲げるのではなく、“共感され、行動につながる言葉”として浸透させていく力です。
本セミナーでは、「強い組織は理念から生まれる」をテーマに、MVVの再構築がなぜ必要なのか、浸透させるためには何をすべきか、豊富な事例と実践ノウハウをもとに解説。ソニーやメルカリ、ニトリなど、注目企業のMVVから学ぶヒントも多数紹介されました。
この記事では、セミナーの内容をもとに、理念を組織に“浸透させる”ための考え方と実践法をお届けします。
【プロフィール】
溝口和広(みぞぐち かずひろ)さん
株式会社エフアンドエム 認定講師
研修講師としての経験は15年以上におよび、業種や規模問わず、多くのクライアントの人材育成や組織開発支援に従事。 特に、管理職層向けの研修には強みを持っており、管理者層の意識変革を推進することで、営業利益の向上や離職率の低減に貢献してきた実績を持つ。 また、産業カウンセラーの資格も保有し、ハラスメント研修やラインケア研修など、メンタルヘルス領域の研修も得意とする。
目次[非表示]
- 1.「経営理念」で組織が一つになる。強いチームをつくるための土台とは?
- 2.MVVって結局なに?理念を浸透させる“キーワード化”のすすめ
- 2.1.ミッション(事業目的)
- 2.2.ビジョン(事業目標)
- 2.3.バリュー(組織の在り方)
- 3.ソニーグループからメルカリまで!成功企業のMVV実例集
- 3.1.ソニーグループ株式会社
- 3.2.LINE株式会社(現LINEヤフー株式会社)
- 3.3.株式会社ニトリ
- 3.4. 株式会社メルカリ
- 3.5.株式会社ファーストリテイリング
- 4.MVVは“作って終わり”じゃない!時代に合わせた見直しと伝え方
- 5.理念を“言葉だけ”で終わらせない!社内に浸透させる4つの方法
- 5.1.まずは手に取れる「理念」から。ブランドブックで文化を育てる
- 5.2.感を動かす映像力。理念を映像にするという選択
- 5.3.理念は“繰り返し”で育つ。定期研修が生むチームの一体感
- 5.4.“評価”が文化をつくる。理念とリンクする制度設計とは?
- 6.理念浸透も人事制度設計も一人で悩まず、F&M Clubで解決
「経営理念」で組織が一つになる。強いチームをつくるための土台とは?
経営理念やMVVが企業に求められる理由は、「組織を束ねるためには、組織内で統一された価値観が必要であるため」です。
企業が考える方向を示し従業員に共有することで、組織の行動や方向性が統一でき、従業員が組織の理想を実現するために一丸となります。
また経営理念の共有を粘り強く続けていくうちに、経営理念に合わない人が減り、理念に合う人材が残るのでチームが強くなります。
成長している企業は経営理念を掲げ、従業員に浸透させる努力をしています。そうすることで一体感がある組織ができています。
一方、価値観が不明瞭、または理念が浸透していない企業は、従業員が個人の価値観で行動してしまい、組織の一体感がなくなってしまうと思います。
重要な意思決定は経営理念に基づく
経営理念が共有されている企業は、重要な意思決定がスムーズで、企業が早く成長します。「何のために事業をおこなうのか」「自社ではこのような考え方を大切にする」という価値観が共有されているため、意識決定が早いです。
経営理念が、経営戦略や日々の業務管理に落とし込まれていく流れを表すと、このようなモデルとなります。
【重要な意識決定は経営理念に基づく】
“価値観”が組織の未来を決める。歴史に学ぶ組織の価値観
歴史上でも組織の価値観が明確な組織が強かった事例があります。例えば島津藩でまとめられ、引き継がれている『男の順序』があります。挑戦し、成功した人が評価されますが、挑戦しない人は“卑怯者”とまで言われていますね。組織として『失敗してもいいから挑戦しよう』という理念だったのです。
また幕末期に活躍した西郷隆盛の名言に、『功ある者には禄を、徳ある者には地位を与えよ』があります。現代風に言い換えると、“業績が良い人にはボーナスを出します、管理者となる人は人間性を優先する”とはっきり言っていますね。能力よりも人間性が大事という経営者は多いです。
MVVって結局なに?理念を浸透させる“キーワード化”のすすめ
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは何かを簡単にまとめると次のとおりです。
- ミッション:事業目的
- ビジョン:事業の目標
- バリュー:組織の在り方
ミッション(事業目的)
ミッションとは、何のために事業を営むのか、事業をおこなう意義などを表す言葉です。経営理念やパーパスとも呼ばれます。従業員が『私たちはこのために仕事している』と思ってもらえるとやる気が出ますし、誇りをもてますよね。
企業の商品やサービスは、その企業のミッションを形としたものだと⾔えるでしょう。
商品やサービスに魅了される顧客を掴んでいる企業、商品やサービスに共感する⼈が就職する企業は、顧客や求職者から「共感」されるミッションがあります。
ビジョン(事業目標)
ビジョンとは、企業が⽬指すべき理想の姿、⽅向性です。北極星のようなものですね。短いキーワードや数値で表します。ビジョンは明確なほどわかりやすく、組織の推進⼒も強くなります。
バリュー(組織の在り方)
バリューとは、組織として重視する「価値観」のことですね。我々の会社は何を重んじるかなどです。⼀般的に経営者や従業員の意見を聞き、3から5個にまとめ、従業員へ伝え、常に意識するよう促します。人事評価に反映させ、意識的にバリューを反映した組織⽂化を作ることができます。
ソニーグループからメルカリまで!成功企業のMVV実例集
成功している企業のMVVの実例をみてみましょう。
ソニーグループ株式会社
わかりやすい言葉でまとめられている例が、ソニーグループ株式会社です。
「パーパス」(存在意義)と「バリュー」(価値観)がわかりやすいですね。
【Sony's Purpose & Values】
- パーパス
『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』
- バリュー
『夢と好奇心』夢と好奇心から、未来を拓く。
『多様性』多様な人、異なる視点がより良いものをつくる。
『高潔さと誠実さ』倫理的で責任ある行動により、ソニーブランドへの信頼に応える。
『持続可能性』規律ある事業活動で、ステークホルダーへの責任を果たす。
【引用】Sony's Purpose & Values|ソニーグループ株式会社
LINE株式会社(現LINEヤフー株式会社)
シンプルな言葉でミッションとビジョンをまとめている例では、LINE株式会社のMVVがあげられます。従来はミッションとビジョンとして公表し、2023年10月の再編後は新たにミッション・エイム・バリューを公表しています。
【LINE株式会社のミッション・ビジョン】
- ミッション
『私たちのミッションは、世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮めることです。』
- ビジョン
『Life on LINE』私たちのビジョンは、24時間365日生活のすべてを支えるライフインフラになることです。』
【LINEヤフー株式会社のミッション・エイム・バリュー】
- ミッション
『「WOW」なライフプラットフォームを創り、日常に「!」を届ける。』
- エイム
『ユーザーに感動を与えるサービス』
『ナンバーワンのサービス』
- バリュー
『ユーザーファースト』
『やりぬく』
『少数精鋭』倫理的で責任ある行動によりです。
【引用】Our Mission & Values|LINEヤフーグループ
株式会社ニトリ
数値を前面に出したビジョンを公開している例が株式会社ニトリです。数値目標をビジョンとして明確に出していますから、会議なども明確になりますね。同社のMVVは経営理念を「ロマン」と呼んでいます。
【引用】企業理念|株式会社ニトリ
株式会社メルカリ
キーワードによるわかりやすいMVVの例が株式会社メルカリです。文章だと覚えにくいですが、キーワード化すると従業員に浸透しやすいという好例です。
【株式会社メルカリのバリュー】
- バリュー
『GoBold(大胆にやろう)』
『All for One(すべては成功のために)』
『Be a Pro(プロフェッショナルであれ』
『Move Fast(はやく動く)』
【引用】私たちについて|株式会社メルカリ
株式会社ファーストリテイリング
構成や説明を詳細に作りこんでいる例が株式会社ファーストリテイリングです。ステートメント・ミッション・バリュー・プリンシパル(行動規範)で構成されて、それぞれの細かな説明が別のページに記載されています。例えば『お客様の立場に立脚』について、細かく考え方が書いてあるので、忘れそうな場合でも調べやすくなっています。
【株式会社ファーストリテイリングのステートメント・ミッション・バリュー・プリンシパル】
- ステートメント
『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』
- ミッション
『本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します』
『独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します』
- バリュー
『お客様の立場に立脚』
『革新と調整』
『個の尊重、会社と個人の成長』
『正しさへのこだわり』
- プリンシパル
『お客様のために、あらゆる活動を行います』
『卓越性を追求し、最高水準を目指します』
『多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます』
『何事もスピーディに実行します』
『現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います』
『高い倫理観を持った地球市民として行動します』
【引用】FAST RETAILING WAY(FRグループ企業理念)|株式会社ファーストリテイリング
MVVは“作って終わり”じゃない!時代に合わせた見直しと伝え方
ミッション・ビジョン・バリューを見直しする時代だと思います。時代や事業環境、働く従業員の価値観が変わり、今後が見えにくいためです。
マネジメントスタイルの変化により、MVVのリニューアルが必要に
ここ10年で組織マネジメントの基本的な考え方が変わってきました。
従来の組織マネジメントを例えると“全員野球”です。経験豊富な管理職が、従来の知識や経験を部下へ伝える“指導・指示・命令”型が主流でした。
最近の組織マネジメントは、管理職が部下の目線まで下りていって、部下の意見を採用してあげて、部下を応援してあげる “協働・創発”型が大切となっています。部下を育てて能力を発揮してもらうスタイルが有効だと思います。
共感されるミッションは“誰かのため”に生まれる
ミッションを定める(再定義する)ために意識しておきたいポイントは、「社会的意義」と「従業員や顧客からの共感」です。儲けだけでは共感されないですよね。お金儲け以外に社会的な意義、みんなから共感される考えが大事です。身近に考えるために、次の6つ[AF1] の観点から考えてみましょう。
【ミッションを定める(再定義する)質問】
- 何のために私たちは頑張るのか
- 誰の幸せのために私たちは頑張るのか
- 私たちのお客様は誰か
- 商品とサービスを通して何を届けたいのか
- そのお客様に対してどう貢献したいのか
- 貢献の根拠となる私たちの特徴は
“自社らしさ”を引き出す6つの質問〜バリュー構築のワーク例〜
企業における価値観(バリュー)を考えるときに意識しておきたいポイントは“自社らしさ”です。自社の価値観に根差した好ましい行動とはなにかということです。次の6つの質問が答えを導きやすいです。
【バリューを定める質問】
- 自社内で称賛したい行動とは
- 目先の利益より優先すべきこととは
- 従業員にこうあってほしいという想いは
- こういった集団でありたいという理想は
- 自社のDNAとして残したい信念は
- 職業人として欠かせない在りかたとは
理念を“言葉だけ”で終わらせない!社内に浸透させる4つの方法
経営理念は従業員に浸透することで効果が生まれます。さまざまな考え方をもつ従業員が理解し行動するためには、理念が浸透する仕組みが必要だと思います。主な取り組み例は次の4つです。
- ブランドブックの作成
- ブランドムービーの作成
- 定期的な理念研修をおこなう
- 理念の体現を評価する⼈事評価制度の構築
まずは手に取れる「理念」から。ブランドブックで文化を育てる
ブランドブックとは、企業の経営理念や商品・サービスなどを社内外へ伝えるための冊子のことです。経営理念などを名刺や手帳サイズにまとめて、朝礼などのときに見やすくしている企業が多いです。
感を動かす映像力。理念を映像にするという選択
ブランドブックより情報量が多く、わかりやすいブランドムービーを制作している企業も多いです。末端の従業員に至るまで『自社はこう考える』と伝えやすいですね。株式会社東洋経済新報社やマツダ株式会社などが有名です。
【参考】ブランドムービー|株式会社東洋経済新報社
理念は“繰り返し”で育つ。定期研修が生むチームの一体感
理念を従業員に浸透させるための効果的な取り組みの一つが、社内で定期的に従業員向けの研修をおこなうことだと思います。
理念を記したカードに毎⽇目を通してもらう、朝礼時に確認するなど、できるところから始めましょう。また2か月に1回などの頻度で実践できているか振り返る勉強会をすることもおすすめです。
定期的に理念研修をおこなっている代表例が次の2社です。
- 美津濃株式会社(スポーツ⽤品のミズノ)
朝礼に理念を組み込んでおり、毎週⽉曜⽇の朝30分間、全社⼀⻫に全社教育を実施。10分間は社内報ビデオの視聴、20分間は職場ごとに教育をおこなう方式です。
- スターバックスコーヒージャパン株式会社
コーヒーの淹れ⽅などを学ぶより前に、スターバックスの歴史や経営理念を学びます。80時間を超える教育研修で理念を学んでもらい、接客マニュアルがなくともお客様への⼼配りや丁寧な対応をおこなえるようになっています。
企業理念がすべての従業員に浸透することで、飲⾷業界としては離職率が低いことで有名です。
“評価”が文化をつくる。理念とリンクする制度設計とは?
理念を作成し従業員への浸透に取り組むだけでなく、MVVに基づいた評価制度を導入すると効果が高いと思います。
最近では、2020年にトヨタ自動車が評価基準に”人間力“を加えたことが話題となりました。ほかの大手企業も人事評価で人間性を重視する傾向が広がっています。
実際に管理職に昇格する人の人柄が良いと、ほかの人が納得できますよね。それを見た人は同じように人間性を重視した行動をとりはじめます。
評価制度に反映していない場合は“絵に描いた餅”となってしまい、実際の行動に結び付かなくなってしまいます。
【参考】人材育成の理念、基本的な考え方|トヨタ自動車株式会社
理念浸透も人事制度設計も一人で悩まず、F&M Clubで解決
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