日銀のマイナス金利解除で何が変わる?中小企業における『金利のある世界』への対応策
日銀は3月19日にマイナス金利解除を公表しました。日銀の利上げは17年ぶりです。
預金金利の上昇などが期待される一方、企業経営においては支払利息の増加などの影響が懸念されています。
本記事では、日銀のマイナス金利解除の概要と今後の金利上昇に備えるための対策について解説します。
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日銀のマイナス金利解除とは
3月19日、日銀は8年間続いたマイナス金利政策の解除を公表しました。日銀による利上げは2007年2月から17年ぶりです。
今回の日銀の政策変更に伴い、今後は預金金利の引き上げ、企業の借入や住宅ローンの金利の上昇などが予測されています。
今回の日銀の姿勢転換の主な内容は次の3つです。
- マイナス金利の解除
- イールドカーブ・コントロールの終了
- ETFなど買い入れの廃止
マイナス金利の解除により、金融機関が日銀へ預け入れる預金の金利を従来のマイナス0.1%からプラス0.1%へと引き上げました。
金融機関が日銀へ預けている当座預金に利息が付くこととなるため、金融機関が普通預金の金利を引き上げる動きが出ています。
イールドカーブ・コントロールの廃止とは、長期金利を低く抑えていた仕組みを終了することです。
日銀が国債を買い入れすることで長期金利の上昇を抑えていましたが、これを取り止めます。ただし急激な長期金利の上昇を避けるため、国債の買い入れは当面続けるとしています。
ETFやREITなどを日銀が買い入れる政策についても廃止されます。
ETF、J-REITの新規買い入れは終了となり、CPや社債についても1年後をめどに終了する予定です。株価の下支えが弱まることが懸念されています。
日銀がマイナス金利政策を解除した理由として、大企業を中心に賃上げが進んでいることがあげられ、2024年春闘では大企業を中心に満額回答が多く、連合の3次集計では平均5.24%の賃上げとなっています。
マイナス金利の解除で『あきらめ型倒産』!?中小企業への影響
日銀がマイナス金利を解除したことにより、預金や住宅ローンだけでなく、企業の借入についても金利の上昇が予測されています。中小企業への主な影響は次のとおりです。
住宅ローン負担の増加による不動産業、建築業の減速
住宅ローンの金利が上昇した場合、住宅の購入控え、リフォームの延期など不動産や建築分野の需要が減少すると予測されています。
また住宅ローンの金利上昇に伴い、個人消費が減退する可能性が指摘されており、短期金利が上昇した場合、住宅ローンの金利も上昇する可能性があります。住宅ローン利用者の74.5%が変動金利型を利用しているため、利息の増加に伴い家計の負担が重くなるためです。
【参考】住宅ローン利用者の実態調査(2023年10月調査)|住宅金融支援機構
円安に歯止め?輸出企業の円安効果が縮小
日本の金利が上昇する一方でアメリカの金利が低下した場合、為替が円高ドル安に進み、輸出企業の業績が鈍化するとの見方が増えています。
金利負担の上昇で利益が圧迫
金利が上昇すると、企業の借入についても利上げされる可能性が高まり、支払利息額の増加により利益が圧迫されることとなります。
帝国データバンクの試算によると、借入金利が1.0%上昇した場合、平均で利息が273万円増加し、経常利益の9.1%が減少すると予測しています。また、企業全体のうち7.1%が赤字に転落すると試算しています。
【参考】「マイナス金利解除」と金利上昇に伴う企業の借入利息負担試算|帝国データバンク
ゾンビ企業の淘汰、あきらめ型倒産が増える恐れ
支払利息が増加することで、体力が乏しいゾンビ企業の倒産が増加する可能性があります。
ゾンビ企業とは、利益によっても支払利息額を賄えない状態にあるものの、資金繰りにより事業を継続している企業のことです。金利上昇により利息負担が一層重くなり、資金繰りが破綻する可能性があります。
また、賃上げ、コスト高に加えて利上げ負担が重荷となり、事業の継続を断念する『あきらめ型倒産』の増加が懸念されています。
賃上げと利上げに負けない、『金利のある世界』における対応策
日銀のマイナス金利解除の理由のひとつが賃上げです。中小企業は賃上げに続き、利上げについても準備が必要となります。
中小企業が検討しておきたい、賃上げと利上げにおける対応策は次の4つです。
販売価格の見直し
販売価格の引き上げが多くの業種で進んでいます。国の2023年9月調査では、コスト上昇分の45.7%が価格転嫁されたと発表されています。
今後の販売価格の引き上げは、原材料価格の上昇だけでなく、交渉に悩むことが多い労務費(人件費)の上昇を織り込んだ交渉をすすめる必要があります。
【参考】価格交渉促進月間フォローアップ調査の結果について(確報版)|中小企業庁
補助金の受給で生産性向上投資
販売価格の引き上げなど売上の増加とともに、利益を向上させる対策をおこないます。人手不足時代において従業員1人あたりの利益を増やすためには、生産性を向上させるための投資が必要です。
投資に必要な資金は補助金の受給など外部の力(お金)を活かしましょう。
中小企業の生産性向上で代表的な補助金は次の3つです。
- ものづくり補助金
人手不足解消のためのオーダーメイド設備の導入や革新的な製品・サービス開発の取組みが対象となり、補助率は最大3分の2、補助上限額は1億円です。
- IT導入補助金
効率化のためのシステム導入費用などが対象となり、補助率は最大5分の4、補助上限額は450万円です。
- 省力化投資補助金
ロボットなど人手不足解消に効果がある汎用製品をカタログから選ぶ補助金であり、補助率は最大2分の1、補助上限額は1,500万円です。
【参考】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 18次公募要領 概要版|ものづくり補助金事務局
【参考】IT導入補助金2024|IT導入補助金2024事務局
【参考】中小企業省力化投資補助金|中小企業省力化投資補助事業事務局
助成金で賃上げコストを賄う
賃上げを支援する助成金制度や税制優遇制度があり、代表例は次の3つです。
- 業務改善助成金
事業場内最低賃金を引き上げるとともに、人材育成や設備投資をおこなう場合に、投資額などの一部が助成されます。助成額は最大600万円です。
- キャリアアップ助成金
(賃金等改定コース)パートタイム、アルバイトなど非正規従業員の給料を3%以上引き上げた場合が対象の助成金です。年間で最大100名まで、1名あたり最大65,000円が助成されます。
(社会保険適用時処遇改善コース)賃上げや勤務時間延長などで社会保険加入が必要となった従業員への手当支給などが対象です。助成額は1名あたり最大50万円です。
- 賃上げ促進税制
青色申告事業者が給与などの支給額を増加した場合、賃上げ額の最大45%が法人税から控除される制度です。
【参考】業務改善助成金|厚生労働省
【参考】キャリアアップ助成金|厚生労働省
【参考】賃上げ促進税制パンフレット(暫定版)|中小企業庁
固定金利による資金調達
将来の金利上昇に備えて、借入を変動金利ではなく固定金利とする方法があげられます。
ただし固定金利は変動金利よりも高いことが多いこと、借入期間によっては固定金利での借入が難しい可能性があることに注意が必要です。
取引先の人手不足倒産、あきらめ型倒産にも注意
2023年4月から2024年3月までの年間倒産件数は8,881件に達しており、さらに2024年度の倒産件数は10,000件を超えるといわれています。
人手不足による『人手不足倒産』の増加に加えて、金利の上昇により体力が乏しい企業が事業継続を断念する『あきらめ型倒産』が増加すると予測されています。
取引先が倒産した場合の対策として、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)があり、この制度は掛け金が損金算入でき、掛け金の最高10倍(上限8,000万円)までの額を無担保・無保証で借り入れできる制度です。
なお、税法上の取り扱いが変更され、2024年10月1日以降に解約した場合、解約日から2年間は再加入時の掛け金が損金として算入できなくなりました。
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まとめ
日銀がマイナス金利政策を解除したことにより、預金金利や住宅ローンの金利の上昇などが予測されています。また企業の借入の金利についても上昇する可能性があるため、経営者は賃上げ負担に加えて今後の利上げによる利息の増加などに備えておくことが大切です。
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