決算で在庫が多いとどうなる?減らすべき理由・過剰在庫への対処法を解説
企業が保有する在庫は、決算に与える影響が大きい重要な要素です。しかし、決算を前にして過剰在庫となっており、決算にマイナスな影響が出ないか不安な企業も多いでしょう。
決算で在庫が多いと自由資金が減少して資金繰りが悪化するなど、多くのデメリットがあります。そのため、日頃から定期的な棚卸を実施するなど適正在庫を保つ対策を実施することが重要です。
今回は、決算と在庫の関係性について減らすべき理由・過剰在庫への対処法を中心に解説します。
本記事を読めば、適正在庫を保って決算に与える悪影響を最小限に抑えられます。効率的な在庫管理を実施し、財務状況の健全化を目指しましょう。
目次[非表示]
- 1.在庫と決算書の関係性
- 2.決算時に在庫を減らすべき理由
- 3.決算時の在庫が多いとどうなる?
- 3.1.自由資金が減少して資金繰りが悪化する可能性がある
- 3.2.在庫の管理費用などコストがかさむ
- 3.3.対外的な評価が低下する
- 4.決算時に在庫が多い場合の対処法
- 4.1.決算セールを活用して在庫を売却する
- 4.2.廃棄処分する
- 4.3.棚卸資産の評価損を計上する
- 5.適正在庫を維持するためのポイント
- 5.1.定期的な棚卸を実施する
- 5.2.在庫管理システムの導入
- 5.3.販売予測で過剰在庫を防ぐ
- 6.まとめ
在庫と決算書の関係性
企業経営において、在庫は財務状況やキャッシュフローに大きな影響を与える重要な要素です。在庫管理は利益確保やコスト削減だけでなく、決算書にも大きく反映されます。
本章では在庫がどのように貸借対照表やキャッシュフロー計算書に関係し、評価方法が財務データにどう影響を与えるのかを解説します。
貸借対照表で在庫は「棚卸資産」として計上される
貸借対照表(B/S)は、企業の資産・負債・純資産を示す財務書類です。貸借対照表のなかで、在庫は「棚卸資産」として資産の部に計上されます。棚卸資産には商品・製品・半製品・仕掛品・原材料などが含まれ、企業が保有する在庫の種類や価値を表す点が特徴です。
在庫が増えると資産が増加し、一見して企業の財務状況が良好に見えるケースもあります。しかし、過剰在庫は資金繰りの悪化や保管コストの増加につながる可能性があります。
一方、在庫が少なすぎると顧客ニーズに対応できず、売上機会を逃すリスクもあります。そのため、貸借対照表で適切に棚卸資産を管理・計上することが重要です。
キャッシュフロー計算書で在庫金額は営業活動の「棚卸資産の増減額」に計上される
キャッシュフロー計算書(C/F)は企業の現金の流れを把握するための財務書類で、営業活動・投資活動・財務活動の3セクションに分かれています。在庫金額の変動は、営業活動の「棚卸資産の増減額」として計上されます。
具体的には、在庫が増加すると資金が在庫に固定されるためキャッシュフローが減少する仕組みです。逆に、在庫が減少すればキャッシュフローが増加します。
上記の仕組みであるため、過剰に在庫があるとキャッシュフロー上ではマイナスの扱いとなり、財務面での評価は低下してしまいます。経営者は、在庫の変動がキャッシュフローに及ぼす影響を意識して健全な在庫水準を維持しなければなりません。
在庫の評価は原価法と低価法に分かれる
在庫の評価方法は、一般的に「原価法」と「低価法」に分類されます。
在庫の評価方法 |
概要 |
原価法 |
取得した在庫の購入価格や製造コストを基準に評価する方法 |
低価法 |
原価と正味売却価額(市場価格)を比較し、低い方を採用して評価する方法 |
原価法では低価法のように原価と正味売却価額を比較する作業がないため、価値の算出に手間がかからない点がメリットです。一方、低価法は市場価値の変動を反映できるため、原価法よりもより実態に即した評価ができます。
決算時に在庫を減らすべき理由
決算時に在庫を減らすべき理由として、大きく以下の2点があげられます。
- 売上総利益が減少して税金を減らせる
- 在庫を削減してキャッシュフローを改善できる
在庫を適切に減らせば、利益やキャッシュフローにプラスの影響を与える可能性があります。
売上総利益が減少して税金を減らせる
決算時に在庫を減らすと売上総利益が減少して課税所得も少なくなるため、企業が支払う法人税の負担を軽減する効果が期待できます。たとえば、過剰在庫を抱えている場合、売れ残った商品を値下げ販売する・キャンペーンをおこなうなどで在庫の消化が可能です。
ただし、過度な値下げや在庫の処分は収益性の低下につながるリスクもあるため、慎重な判断が求められます。
在庫を削減してキャッシュフローを改善できる
在庫削減は、企業のキャッシュフローを改善する大きな鍵です。在庫が多いほど資金が物理的な在庫に固定されるため、現金として利用できる自由資金が減少します。在庫を削減すれば、在庫分の資金をほかの運転資金や投資活動に回せる点がメリットです。
また、在庫削減により保管コストや廃棄リスクも軽減されるため、経営全体の効率化にも寄与します。ただし、削減しすぎると市場の需要に対応できず欠品などで販売機会を逃すリスクもあるため、適切な在庫バランスの維持が重要です。
決算時の在庫が多いとどうなる?
決算時における在庫の多さは、企業の財務状況に以下のようなさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
- 自由資金が減少して資金繰りが悪化する可能性がある
- 在庫の管理費用などコストがかさむ
- 対外的な評価が低下する
資金繰りの悪化・コスト増加・企業の信頼性や外部評価にも影響を及ぼすため、適切な在庫管理が欠かせません。
自由資金が減少して資金繰りが悪化する可能性がある
在庫が多いと資金が固定化され、現金として利用可能な自由資金が減少します。上記の状態が続くと資金繰りが悪化し、運転資金や新規投資に充てる余裕がなくなる点がデメリットです。
たとえば、過剰在庫により「仕入れ業者への支払いが滞る」「融資の返済に影響が出る」などのケースが考えられます。特に、中小企業では資金繰りの悪化が即座に経営危機につながるケースもあるため、在庫管理は重要な課題です。
在庫の管理費用などコストがかさむ
在庫が過剰にあると、管理費用や保管費用が増加します。具体的には、倉庫の賃貸料・冷蔵冷凍設備の維持費・在庫品の保険料・陳腐化や廃棄に伴う損失コストなどがあげられます。上記のコストは「売上が減少している」「利益率が低い」場合、企業の利益を圧迫する要因です。
特に、アパレルの季節商品のような寿命が短い在庫では、販売機会を逃すと廃棄処分にせざるを得ません。また、在庫が多いと管理の煩雑さが増して人的コストも同時に上昇します。
対外的な評価が低下する
在庫が多い場合、対外的な評価に悪影響を及ぼす可能性があります。過剰在庫は、企業の効率性や収益性に対する懸念を招き、投資家や金融機関の信頼を損なう要因です。たとえば、貸借対照表上で棚卸資産が大きく膨らんでいると、資金効率が悪いと見なされて企業の経営判断に疑念を抱かれやすくなります。
さらに、在庫の多さによって「販売がうまくいっていないのでは」と疑念を抱かれれば、取引先や顧客からの信用にも影響を及ぼします。上記のような評価の低下を防ぐためにも、在庫管理を徹底して決算書に反映される財務データを健全な状態に保つことが重要です。
決算時に在庫が多い場合の対処法
決算時に在庫が多い状況は、経営面や財務面でさまざまな課題を引き起こします。しかし、以下のような適切な対応策を講じれば、資金繰りや利益への影響を最小限に抑えられます。
- 決算セールを活用して在庫を売却する
- 廃棄処分する
- 棚卸資産の評価損を計上する
決算時に在庫が多い場合は、上記の方法で対処しましょう。
決算セールを活用して在庫を売却する
決算セールは、余剰在庫を短期間で処分するための有効な手段です。値引きやキャンペーンを実施すれば、消費者の購買意欲を高めて在庫を売り切れます。決算セールは売上を伸ばしながら在庫を減少させる一石二鳥の効果が期待できるため、多くの企業で活用されています。
特に、季節商品や流行に左右される商品は次期に持ち越すと販売機会を逃すリスクがあるため、決算セールで早めに売り切ることが重要です。ただし、大幅な値引きによる利益率の低下やブランドイメージの損失には注意しましょう。適切な価格設定と効果的なマーケティング施策を組み合わせれば、決算セールの成功を最大化できます。
廃棄処分する
売却が難しい在庫や陳腐化した商品については、廃棄処分を検討しましょう。不要在庫を廃棄すれば、保管スペースや管理コストを削減して在庫に伴う負担を軽減できます。また、廃棄処分は財務上の「在庫減少」として反映されるため、財務諸表上の評価を健全に保つ効果もあります。
特に、食品や医薬品など使用期限がある商品や流行がすぎた商品は、持ち越しても販売が困難になるケースが多いです。販売が難しい在庫を適切に処分すれば、次期以降の経営負担を軽減できます。ただし、廃棄に伴う費用や環境への配慮も考慮してリサイクルや寄付といった代替手段も検討しましょう。
棚卸資産の評価損を計上する
在庫が時価よりも高い価格で計上されている場合、棚卸資産の評価損として計上することも有効な手段です。棚卸資産の評価損計上とは、低価法に基づいて在庫価値を適正に引き下げて財務諸表に反映する方法です。評価損を計上すれば節税につながるため、結果として企業のキャッシュフローを安定させやすくなります。
ただし、評価損を計上するためには、税法で定められた条件を満たす必要があります。棚卸資産の評価損については、国税庁の公式サイトで詳しく解説されているため、確認しておきましょう。
適正在庫を維持するためのポイント
適正在庫を維持するためのポイントとして、以下の3つがあげられます。
- 定期的な棚卸を実施する
- 在庫管理システムの導入
- 販売予測で過剰在庫を防ぐ
在庫管理に悩んでいる場合は、上記のポイントを参考にしてください。
定期的な棚卸を実施する
定期的な棚卸は、在庫を正確に把握して適正な在庫水準を維持するための基本的なステップです。実地で在庫を確認すれば、帳簿上と実際の在庫数の差異を把握でき、不明在庫・過剰在庫・破損在庫などの問題を早期に発見できます。
たとえば、月次や四半期ごとに棚卸を実施すれば、在庫状況を定期的にチェックして適宜必要な調整が可能です。また、棚卸データを活用して在庫回転率や滞留在庫の傾向を分析すれば、無駄な仕入れや製造を防いで在庫の効率化につながります。棚卸を継続的に実施して在庫管理の精度を高め、企業の収益性を向上させましょう。
在庫管理システムの導入
在庫管理システムの導入は、在庫管理の効率化と正確性向上に大きく寄与します。在庫管理システムとは、企業が保有する在庫に関して入出庫情報などを一元的に管理できるシステムです。
在庫管理システムを活用すれば、在庫数や入出庫状況をリアルタイムで把握できて人的ミスを最小限に抑えられます。また、バーコードやRFID技術を組み合わせれば、在庫の追跡や棚卸作業の時間短縮も可能です。
また、システムによっては事前に設定した在庫数を下回った場合に自動で通知される機能があり、欠品や過剰在庫を未然に防げます。初期の導入費用はかかりますが、長期的には管理にかかる人件費などのコスト削減と在庫管理の最適化に貢献します。
販売予測で過剰在庫を防ぐ
販売予測を実施すれば、需要に応じた在庫計画を立てて過剰在庫や欠品のリスクを最小限に抑えられます。具体的には、過去の売上データ・季節性・トレンド・市場動向を分析し、後の需要を予測して在庫数を決定する流れです。
たとえば、繁忙期には需要増加を見越して適切な在庫を確保し、閑散期には仕入れや生産を抑えて在庫過多を防げます。また、需要予測システムを導入すれば、より精度の高い予測が可能となり、在庫管理の効率化が図れます。
まとめ
在庫管理は企業の財務状況や経営効率に大きな影響を与える重要なポイントです。在庫は貸借対照表の「棚卸資産」として計上され、キャッシュフロー計算書にも影響を及ぼします。
過剰在庫は資金繰りの悪化や管理コストの増加を招き、外部評価の低下にもつながるため、在庫数の適正化が必要です。過剰在庫を処分する対策として、決算セール・廃棄処分・評価損の計上が効果的です。
また、定期的な棚卸や在庫管理システムの活用、販売予測に基づく計画が適正在庫の維持に役立ちます。効率的な在庫管理を実施してキャッシュフローの改善や利益最大化を実現し、財務状況の健全化を目指しましょう。
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