
社長は決算書をこう見なさい!スコアリングと補正のされ方とは
決算書は、銀行をはじめとしたステークホルダーに自社の業績を伝える重要な資料であり、銀行からの融資の可否などを左右します。
今回は、経営者自身が決算書を見る上での重要なポイントを説明するとともに、銀行が決算書を見た上でおこなう「スコアリング(格付)」の概要を解説します。
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なぜ銀行・投資家は決算書を重視するのか
経営者は自社のビジョンや事業構想を伝えることを通して、会社の「未来」を語ります。
これに対して、決算書に現れている数値には会社の「過去」と「現状」が現れています。
銀行や投資家は決算書の数値を判断資料にして、会社の現時点での財務状況のみならず、経営者の語るビジョンや構想がどれだけ現実的なものなのかどうか、裏付けとして重要視しています。
「財務三表」は企業の財務状況を判断する重要な書類
決算書の中でも重要性が高い資料は「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「キャッシュフロー計算書(C/F)」の3つです。
この3つの資料が重要な理由は、「会社の収益力」や「財務状況」、「経営の安全性」などを外部から見て客観的に分析できるからです。
このような重要性から、上記の三表は他の財務諸表と区別して「財務三表」と呼ばれます。
企業の財務状況を適切に判断・分析するためには、財務三表を正しく作成し、適切な見方を理解している必要があります。
以下、財務三表それぞれの特徴や読み方についてをご説明します。
1.貸借対照表 ~1年間の「資金調達源」と「資金投入対象」を表す~
貸借対照表(B/S)は、1年間の区分でみた企業の資金調達源、および企業が資金を投じた対象を表しています。
貸借対照表の左側には「資産」が、右側には「負債」と「純資産」が並んでいます。
多くの経営者が表の左側の「資産」が多いほど良く、表の右側の「負債」が少ないほど良好で、さらに「純資産」が多いほうが好ましいとイメージしているようですが、このような理解は表面的な見方と言わざるをえません。
単純に資産が多いほど良いということであれば、資産の一種である「棚卸資産(在庫)」に関して、なかなか買い手がつかずに売れ残っている在庫、いわゆる“不良在庫”が多い事も好ましいということになります。
※実際には、好ましいどころか悩ましいことであると思います。
貸借対照表の正しい理解は、「負債」「純資産」といった“資金調達源”が、どのような「資産」に形を変えたのか、を表します。
銀行や投資家など、外部の目線としては、「資産」の中でも現金化までの期間が早い流動資産(現金・売掛金・棚卸資産・短期貸付金・前払金など)が豊富な状態であれば、キャッシュを用意する支払い能力が高く、安全性が高いと見なす傾向にあります。
※ただし、単純に「流動資産が多いほど良い」とは言いきれず、例えば「棚卸資産の中に不良在庫が含まれていないか」といった点は銀行や投資家が気にかける項目です。特に銀行の場合、在庫の種類を確認するために、商品倉庫の見学を要請してくることがあります。
「負債」と「純資産」に関して、負債(すなわち銀行などからの借入金)は返済が必要であり、さらに利息の支払いも生じることから、負債の比率が高いことが財務的に脆弱であると理解されています。
ただし投資家によっては、純資産の比率が高い状態をネガティブに捉える場合もあります。
このような見方をする投資家は、純資産に対して負債が少ない状態を「積極的に銀行から借り入れして新たな投資にチャレンジせず、成長を目指していない状態」と捉えます。
負債と純資産の合計に占める純資産の比率を「自己資本比率」と呼びますが、一般的に、銀行は企業が貸したお金が貸し倒れることを最も恐れるため、自己資本比率が高くて借金の割合が少ない状態を「倒産の可能性が低い」と評価し、好む傾向があります。
一方で、一般的に投資家の望みは企業が成長してより多くの利益を配分してくれることなので、多少のリスクを冒してでも成長を目指している会社を評価する傾向があります。
いずれを重視するかは、銀行と投資家、どちらを優先するか次第です。
ただし、上場していない企業は投資家よりも銀行との付き合いが濃い場合が多いので、やはり自己資本比率が高い状態を目指す経営者が多いことは知っておいてください。
2.損益計算書 ~企業の収益力を表す~
損益計算書(P/L)には、利益の源泉にあたる「売上」と、売上を生み出すためにかけられた「コスト」が記載されています。
損益計算書をチェックすれば、会社が利益を出すまでのプロセスの中で、「どこの部分に、どれだけのお金をかけたか」がわかります。
また、損益計算書でわかることは、ただ単に「事業全体でどれだけ儲かったか(経常利益)」という情報だけではありません。損益計算書の中では、「本業からの収益」と「本業以外からの儲けを含めた収益」とを区別して理解することができます。
本業からの利益には「売上総利益」「営業利益」があります。
売上総利益は売上高から販売した商品の仕入原価を差し引いたものです。
営業利益は「営業利益」から「販管費(例えば営業マンの人件費などの費用)」を差し引いて求めます。
上述した経常利益は「本業以外からの儲けを含めた収益」であると解説しましたが、実際の事業で本業からの収益としてよく見られる事例は、会社が保有している土地を貸し出して不動産収益を得ている事例が挙げられます。
会社の本業が不動産業ではなく、飲食業や小売業だった場合、本業からあがる「営業利益」にサイドビジネスとしての不動産運用からあがる収益をプラスしたものを「経常利益」と呼んでいます。
3.キャッシュフロー計算書 〜資金(現金)の流れを表す〜
損益計算書上では黒字となっているにも関わらず、実際には手元に十分なキャッシュがなく、必要な支払いがおこなえずに倒産してしまう「黒字倒産」という事例があります。
損益計算書上で利益が出ていることと、キャッシュリッチ(無借金・現預金など流動性の高い資産を潤沢に保有していること)であることはイコールではありません。
例えば、大きな売上高があったとしても、その売上が現金の形で手元に入ってきているとは限らず、回収できるまでに一定期間がある「売掛金」の形となっている場合があります。
売掛金が実際に現金として回収されるまでに、手形の支払いや従業員への給料など、支払いが必要なお金の方が上回ると、これらの必要な支払いをおこなえなくなります。
このように帳簿上は利益が出ているにも関わらず、資金繰りが苦しくなって倒産に至るという事例が「黒字倒産」のメカニズムです。
銀行としても、「黒字倒産」で融資が回収できなくなることを恐れているため、帳簿上の損益とは別に「企業の手元に十分なキャッシュがあるか」を確かめる必要があります。
そこで重要視されるのが「キャッシュフロー計算書」です。
「キャッシュフロー」は、「期中に入ってきた現金」から「期中に払い出された現金」を差し引くことで求められます。
経営者は「決算書の目的」を把握すべき
経営者が銀行員に決算書を渡すとき、銀行員側から様々な部分の説明を求めらます。
銀行から見た印象を良くするために重要なことは、「銀行員が重視する箇所」を把握すること、そしてその箇所についての質問に十分な説明をもって答えられるようにすることです。
決算書の目的や、決算書を利用する理由について理解を深めておきましょう。
以下具体的に、銀行が重視する項目を確認しましょう。
1.売上債権(売掛金・受取手形など)
売上債権は貸借対照表上は資産であり、売上高を構成する項目ですが、売上高に占める売上債権の割合が大きすぎると、銀行は「回収の見込みがない不良債権ではないか?」と疑う可能性が出てきます。
また、社長が架空の売上を計上する目的で、縁のある他の会社に対して「実際には売買の実態のない売上」があったことにして、売上にあたる分を売掛金や受取手形として計上し、貸借対照表上の資産の項目を膨らませる、売上高を大きく見せている事例もあります。
銀行は、このような事例も念頭に置いているため、売上債権の内訳を確かめるべく、売掛金や受取手形の明細(どの取引先へ、なんの商品をいくらで売っているか)を照会してくる場合があります。
売上債権の回収期間を把握する目安として、「売上債権回転月数(売上債権÷(売上高÷12ヶ月))」という指標があります。
一般的にこの売上債権回転月数が2ヶ月を超えると危険信号とされています。
実際に売上債権回転月数を計算してみて、2ヶ月を超える場合は、銀行が納得できるよう、取引の実態を具体的に説明できるよう準備しておきましょう。※ただし、業種によっては2ヶ月を超えても適正値である場合もあります。
注意点として、銀行は「悪い数字を出されること」よりも「誤魔化されること」を嫌います。信用できない経営者と判断されれば、融資に悪影響が及ぶ可能性があるため、くれぐれも「誤魔化す」ことではなく「誠意をもって詳しく説明する」ことを心がけましょう。
2.長期間残っている在庫
長期間売れずに残っている棚卸資産(在庫)は、もはや商品価値を失った「売れる見込みのない在庫(不良在庫)」と見なされる可能性があり、銀行にマイナスの印象を与えます。
在庫が売れるまでのスパンを示す指標として、「棚卸資産回転月数(棚卸資産÷(売上高÷12ヶ月))」があります。
この指標は、「在庫が何ヶ月で一巡しているか」を数値化して把握する指標です。
棚卸資産回転月数の目安としては、4ヶ月以上だと危険信号とされています。
※ただし、業種によっては4ヶ月を超えても適正値である場合もあります。
融資可否の判断基準となる「格付(スコアリング)」について
銀行は、会社への融資判断などをおこなうための判断軸として、会社の信用状態10〜12段階でランク分けしています。
このランク分けは「格付(スコアリング)」と呼ばれます。
数値が小さい企業ほど優良で、経営状態が強固であるとしています。
当然、スコアが良いほど融資が通りやすく、より低めの金利で融資を受けられます。
会社のスコアについては、銀行員が「社長、あなたの会社の格付は、当行では3と判定していますよ」と教えてくれることは原則ありません。
経営者として、「うちの会社もなんらかのスコアをつけられてるんだな」と念頭に置いておきましょう。
スコアリングは決算書に左右される
スコアリングの数値は、決算書の数値に大きく左右されます。
現在では、メガバンクをはじめ、多くの銀行が評価のためのソフトウェアを導入しており、そこに決算書の数値を入力すれば、大まかな格付(スコアリング)数値を判定します。
この定量的判定でスコアリングの大部分が決定されます。
銀行によっては、決算書の数値以外にも、例えば「経営者の資質」などといった定性的情報を加味する場合もありますが、大半は決算書上の数値情報を基にした判定が下されていることが実情です。
銀行は安全性・収益性・成長性・債務返済能力を重視する
銀行が決算書の提出を求める理由は、企業の「安定性・収益性・成長性・債務返済能力」を知るためです。
「安定性」に関して、企業が倒産してしまっては融資の回収が不可能となり、銀行にとって損失となってしまうため、経営の安定性は非常に重要視されています。
具体的に安定性を判断するための指標のひとつとして、「自己資本比率」、つまり「負債と純資産に占める純資産(自己資本)の割合」が重要視されています。
「収益性」の判断材料として銀行が特に重視するのは、「売上高経常利益率(売上高に占める経常利益率)」です。
「売上高経常利益率」の平均値は業種により異なり、情報通信業であれば5.91%、製造業であれば4.45%、小売業であれば1.47%とされています。
「成長性」を判断する方法として、前期および前々期との比較でおこなう方法があります。
一般的には、当期から前々期までの三期を範囲として判断対象となります。
最後に「債務返済能力」を判断する代表的な指標が「債務償還年数」に基づいた判断です。
債務主観年数とは、言い換えれば「一年ごとに出している利益をベースとすると、債務を返すのに何年かかるか」を概算した指標です。 |
債務償還年数は「(有利子負債ー現金)÷キャッシュフロー(経常利益+減価償却費ー税金)」で計算されます。
債務償還年数は7年以内であることが望ましいとされており、15年を上回ると危険信号と見なされます。
「債務償還年数」を短期化するための手段として、有利子負債である借り入れを圧縮する、手元の現金を多めに用意するといった方法があげられます。
まとめ
決算書は銀行や投資家を説得し、健全な経営を続けるために重要な資料です。
財務三票である賃貸対照表や損益決算書、キャッシュフロー計算書では、銀行や投資家の立場で内容を確認しなければ、経営危機や黒字倒産の危険性が高まります。
正しい決算書の見方を理解し、健全な企業経営をおこないましょう。