マイカー通勤管理規程を見直し、労働トラブル回避【労務管理】
マイカー通勤は多くの企業で推奨されていますが、マイカー通勤に関する規程について、明確に定めていない企業も多いといえます。
マイカー通勤管理規程の整備を疎かにしていると、労働トラブルや経営リスクにつながることもあります。
マイカー通勤管理規程の必要性について解説します。
目次[非表示]
- 1.マイカー通勤(自動車通勤)の需要が拡大している背景
- 2.マイカー通勤管理規程が必要な理由
- 2.1.通勤トラブル対策事例
- 2.2.マイカー通勤による通勤災害への労災保険適用について
- 3.マイカー通勤管理規程で必ず押さえるべきポイント
- 3.1.不法行為による損害賠償(民法 第709条)
- 3.2.使用者責任(民法第715条)
- 3.3.運行供用者責任(自賠法第3条)
- 4.マイカー通勤管理規程(自動車通勤管理規程)を完備し、万全な対策を
- 4.1.マイカー通勤管理規程の項目
- 4.2.私有車両通勤管理規程の項目
- 4.3.任意保険
- 4.4.マイカー通勤の許可更新制度の創設
- 4.4.1.マイカー通勤許可書の書き方
- 4.5.従業員への規程周知と交通安全教育の徹底
- 4.6.定期的にチェックする
- 5. F&M Clubの「まかせて規程管理」
- 6.F&M Clubでは経営力向上につながるサポートをおこなっています
- 7.まとめ
マイカー通勤(自動車通勤)の需要が拡大している背景
都心部と比較すると、地方部ではマイカー通勤を許可している企業が珍しくありません。また、最近では新型コロナウイルスの影響により感染対策として都心部においてもマイカー通勤を推奨する企業が増えています。
従業員や企業にとって利点のあるマイカー通勤ですが、企業がリスクを避けるためにもマイカー通勤管理規程をしっかりと整えておく必要があります。
マイカー通勤管理規程が必要な理由
マイカー通勤は、従業員と企業の双方にメリットがありますが、交通事故やトラブル発生などいくつか懸念点も存在します。
【マイカー通勤の懸念点】
・通勤時に従業員が交通事故を起こす可能性 ・個人の車両保険が切れている可能性 ・企業が使用者責任を問われる可能性 ・通勤労災が発生するリスク ・車両利用が公私混同してしまう可能性 など |
通勤トラブル対策事例
【課題】
従業員がマイカー通勤中に人身事故を起こした。会社への責任が問われないか心配。
【対策】
従業員本人に損害賠償責任が発生するのはもちろん、本人が賠償できない場合には雇用主である会社にまで損害賠償が及ぶこともあります。
自転車通勤を許可する基準として「任意保険への加入」、「安全運転教育の受講」を義務づけるなどの基準の規定、運用が必要です。
【ポイント】
車両で通勤をする場合は、マイカー通勤管理規程を作成し、加入する保険の条件や免許証を確認をすることなどの条件を定め、管理します。事故やトラブルの発生に備えて、事前に準備しておくことが大切です。
マイカー通勤を推奨している企業は通常、マイカー通勤管理規定を定め交通事故やトラブルが発生した場合のリスクから企業を守る体制を整えています。
しかし、マイカー通勤管理規程を定めておらず、そのような状態で交通事故やトラブルが発生した場合、従業員だけでなく企業にも損害賠償などの責任を問われる可能性があります。
マイカー通勤が企業で正式に推奨されておらず、黙認している場合でも同様のリスクがあります。
マイカー通勤制度を導入している企業は、通勤規程の見直しまたは制定をし、万が一のトラブルに備えておくことです。
マイカー通勤による通勤災害への労災保険適用について
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務中の事故や病気・怪我だけでなく、通勤中に起きた事故も補償対象となります。
対象者は、正社員のほか、契約社員やアルバイト・パートタイマーなど、すべての従業員(※代表者や取締役などを除く)が対象となり、労働者が労災保険を使用する意向がある場合、企業はこれを拒否できません。
また、通勤災害において、企業が労災保険を適用する場合は、「勤務時間中であること」や「承認された通勤経路(※)途中の事故であること」などが適用条件であり、原則、「申請した通勤経路から大幅に外れた経路における事故」や「休日中に事故に遭った場合」は適用外とみなされます。
(※)「通勤経路」とは、必ずしも会社が承認した経路でなければ通勤災害に該当しないと判断されるものではなく、諸事情により、会社に届け出ていた経路とは別の経路であったとしても、状況によっては、通勤災害の対象となります。(例)当日の交通事情を勘案し迂回した場合、道路工事のためにほかの経路を選択せざるを得ない場合など
マイカー通勤管理規程で必ず押さえるべきポイント
従業員の交通事故により企業側が責任を問われる場合、企業側が責任を負う根拠として「使用者責任」や、「不法行為責任」、「運行供用責任」による損害賠償責任があります。
マイカーでの通勤者がいる場合は、これらの点について必ず押さえておくことです。
不法行為による損害賠償(民法 第709条)
被害者が損害賠償請求をおこなう際、基本的な法的根拠となるものが「不法行為責任」です。
「故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法第709条)と民法にあるように、自動車を運転していた加害者は、「不法行為責任」に基づいて損害賠償責任を負うこととなります。
使用者責任(民法第715条)
「ある事業のために他人を使用する者は被用者がその事業の執行につき第三者の加えた損害を賠償する責任を負う」(民法第715条)
と民法にあるように、使用者がその事故の発生に直接かかわっていなくても、社員とともに企業も民法の「使用者責任」が問われ、損害賠償をしなくてはならない場合があります。
「使用者責任」が認められる場合は、「事業を執行する過程において加害行為が行われること」が判断基準とされます。
運行供用者責任(自賠法第3条)
「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)に対して損害賠償責任を負う」(自賠法第3条)
とあり、運行供用者が、運行に起因して、他人の生命身体を侵害した場合の運行供用者の責任を規定しています。
人身事故の場合、民法より賠償義務者の範囲が広い自賠法(自動車損害賠償補償法)が適用され、運行供用者責任を問われることがあります。
【企業側が「運行供用者」にあたるかの判断について】
・自動車の運行により利益を得ているか ・自動車の運行について直接または間接に指揮・監督しうる地位にあるか |
上記の2点を基準に行われます。
「企業がその時の運行を支配」していた場合、あるいは「運行による利益」があったとされる場合は「運行供用者」とされる可能性が高まります。
マイカー通勤管理規程(自動車通勤管理規程)を完備し、万全な対策を
以上のことを踏まえ、トラブル回避のためにマイカー通勤管理規程を完備し万全な対策で通勤時の事故、トラブルに備えましょう。
マイカー通勤管理規程をすでに制定している場合でも、再度確認し必要に応じて改定します。
マイカー通勤管理規程の項目
マイカー通勤管理規程に取り入れる参考項目は、必要に応じて以下のような項目を取り入れます。
私有車両通勤管理規程の項目
・マイカー通勤の許可範囲 自宅から会社までの通勤ルートや、判断基準となる距離の規定などを明確にします。 ・車両保険の加入義務と定期的なチェック 通勤で使用する車両の保険を定期的に確認し、保険内容(対人対物無制限等)を 明確にします。 ・運転免許証の確認 会社が定期的に運転免許証を確認すること。 ・車両利用の範囲 通勤での車両使用と、業務での車両使用の使用範囲を明確にします。 ・事故発生時の連絡方法 事故が起きた時の連絡ルートや、連絡先などについて明確します。 ・マイカー通勤の取り消し 従業員が身勝手な行動を取った際に、マイカー通勤許可を取り消す判断基準について明確にします。 ・責任範囲について 事故やトラブル発生時に、会社の責任範囲について明確にします。 |
任意保険
通勤中に事故にあった場合、従業員個人の保険が適用されるケースも多くあります。
任意保険への加入の確認、または義務づけし、保険証を提出させるなどして管理します。
また、企業の自動車保険の適用範囲にもマイカー通勤、業務利用を含めます。
任意保険に関する過去の事例では、任意保険の契約期間が切れた車両で通勤していた従業員が事故を起こし、被害者が勤め先に補償を求めたという裁判もありました。
このような場合、企業は対応をせざるを得なくなり、莫大な損害補償を支払わされることもあります。
あらゆる被害リスクを最小限にするためにも、任意保険について管理を徹底しておきましょう。
マイカー通勤の許可更新制度の創設
マイカー通勤の事故やトラブルについて、企業が「使用者責任」を問われるリスクを回避するためには、マイカー通勤は原則「禁止」とし、都度「許可・更新制」を採用すると良いでしょう。
マイカー通勤希望者には、申請および更新の際に、「免許証」や「車検証」「自賠責・任意保険の保険証書」などを提出させ、許可・更新のタイミング毎に有効期限などを確認・管理し、使用者責任を問われるリスクを削減します。
マイカー通勤許可書の書き方
「マイカー通勤許可申請書兼誓約書」を作成する際は、「マイカー使用理由」のほか「通勤経路」「車種」「保険証の有効期限」「許可申請期間」などの事項に加え、「誓約事項」も記入します。
【誓約事項例】
- 私は安全運転を心がけ、飲酒運転などの違反行為はおこないません。
- 私は自賠責保険のみではなく、就業規則に従い、任意保険も加入します。
- 万が一事故を起こした場合でも、私の責任において事故処理をし、会社に迷惑をかけることはいたしません。
など
従業員への規程周知と交通安全教育の徹底
従業員へのマイカー通勤管理規程の周知を徹底するだけでなく、「交通安全教育」も重要です。社内での「交通安全教育」はおろそかになりがちですが、通勤時に関する指導も従業員の身を守るために必須です。
交通事故は、従業員と企業に賠償責任がかかるだけでなく、示談交渉にかかる人件費やその他関連費、労働力の損失、社会的な信頼を失うなど、マイナスでしかありません。
最悪の場合、大切な従業員の命を失うだけでなく、従業員の家族も悲しませてしまいます。企業と従業員、双方の身を守るために適切な交通安全指導を心がけましょう。
定期的にチェックする
マイカー管理規定は、制定し周知して終わるものではありません。
規程がきちんと守られているか、従業員の意識や任意保険の更新など、定期的にチェックし管理する体制を整えることが重要です。
F&M Clubの「まかせて規程管理」
「マイカー通勤管理規程」や「就業規則」などの規程管理は、労働トラブルを回避するうえで欠かせません。
しかし、規程の管理について、適切におこなえている企業は少なく、「どのような規程が必要なのか」「自社内で策定した規程は適切なものなのか」など、規程にかかわる不安や疑問を抱える企業も多くいます。
そのように規程に関する不安や悩みを抱えている場合は、F&M Clubの「規程管理支援」の活用がおすすめです。
F&M Clubの「まかせて規程管理」では、労務管理に必要な規定・協定書を整え、クラウド上で管理可能となるようにサポートし、規定の作成から変更、管理までトータルでサポートし、規程にかかわる課題や問題を解決します。
F&M Clubでは経営力向上につながるサポートをおこなっています
F&M Clubは累計38,000社の中小企業様にご利用いただいている、公的制度活用・人事・労務・財務・IT活用などのバックオフィスの支援に特化したサービスです。
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まとめ
・マイカー通勤管理規程をおろそかにすると経営リスクにつながる
・通勤時の事故で企業に損害賠償がかかることもある
・リスク回避のためにマイカー管理規程を明確にしておく
・規程の周知だけでなく交通安全教育も徹底する