『年収130万円の壁』撤廃!手続きと人手不足対策をまとめて解説
パートタイマーが労働時間を抑制する『130万円の壁』が緩和されました。現在の従業員が現状以上に勤務できるため、人手不足の企業と従業員の双方にとって朗報といわれています。
本記事では『年収の壁』を緩和する本措置と経営者がとるべき人手不足対策をまとめて解説します。
目次[非表示]
- 1.『130万円の壁』とは
- 2.『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』の要件
- 2.1.『一時的な収入変動』は2年間まで
- 2.2.対象者は学生アルバイト、シフト制従業員を含む
- 2.3.フリーランス・自営業者は原則として対象外
- 2.4.事業主の証明書が必要
- 3.人手不足時代における中小企業経営者の5つの対策
- 3.1.人材採用の見直し
- 3.2.生産性の改善
- 3.3.従業員の要望の確認
- 3.4.キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)などを活用
- 3.5.専門家の活用
- 4.まとめ
『130万円の壁』とは
パートタイマーやアルバイト従業員の中には、会社員などの配偶者の被扶養者として扶養の範囲内で働いている従業員がいます。国民年金の第3号被保険者として就業している人のうち52.6%が週20時間までの労働時間となっています。
『130万円の壁』など、いわゆる『年収の壁』とは、年収が一定額を超えると扶養から外れ、社会保険料などの負担により手取りが減少する収入額のことです。
手取り収入の減少を避けるため、この年収額を超えないよう、従業員が労働時間を抑制する『就業調整』が多く発生し、人手不足の解決を妨げているといわれています。
【引用】第3号被保険者制度について|厚生労働省
『130万円の壁』による就業抑制
扶養に入っている従業員が最も気にする年収が106万円と130万円といわれています。
被扶養者である従業員(国民年金の第3号被保険者)自身の年収が106万円以上となると、厚生年金保険料など月12,500円が本人負担となります。
年収130万円以上となる場合、国民年金保険料と国民健康保険料の合計月22,700円を負担します。
これらの収入額を超える時点で社会保険料などの負担で手取り収入が減少します。
なお従業員が60歳以上および障害年金受給要件に該当する場合は、年収180万円以上で健康保険の加入義務が発生します。
【引用】「年収の壁」への当面の対応策|厚生労働省
上記の社会保険料負担による手取り収入減少を避けるため、年収130万円を超える前に労働時間を抑制しようと考えている女性パートタイマーは57.3%にのぼります。
『103万円の壁』『106万円の壁』などにも留意
被扶養者となっている従業員が年収を超えないよう気にする基準は『106万円』と『130万円』だけではありません。従業員が就業調整を考える年収の目安の代表例は次のとおりです。
年収の壁 |
発生すること |
100万円 |
住民税が発生する。(地方公共団体により異なる) |
103万円 |
配偶者控除がなくなり、所得税が発生する。 扶養者が家族手当を支給されないことが増える。 |
106万円 |
(2024年9月までは、従業員数100名超の事業所。 |
130万円 |
国民年金、国民健康保険の負担が発生する。 |
150万円 |
配偶者特別控除できる額が減る。 |
201万円 |
配偶者特別控除を受けられなくなる。 |
【参考】タックスアンサー No.1800 パート収入はいくらまで所得税がかからないか|国税庁
『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』の要件
パートタイマーの半数以上が働かないように意識している『130万円の壁』が緩和されました。
扶養に入ったまま年収130万円以上で働くことができる『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』措置が2023年10月20日から導入されています。
この措置は『一時的な収入変動』であることを『事業主の証明』を提出することで適用することができます。適用要件については下記より引用しています。
【引用】事業主の証明による被扶養者認定Q&A|厚生労働省
【引用】パート・アルバイトで働く「130万円の壁」でお困りの皆様へ(リーフレット)|厚生労働省
『一時的な収入変動』は2年間まで
『一時的』とは、ほかの従業員の退職に伴う残業の急増などの理由です。同一の従業員につき原則として連続2回が上限です。つまり被扶養者の年収確認を年1回おこなっている従業員の場合は、連続する2年間までとなります。
なお基本給の上昇など継続的に収入の増加が見込まれる場合は対象外となります。
対象者は学生アルバイト、シフト制従業員を含む
主に対象となる従業員は次のとおりです、
・国民年金の第3号被保険者となる配偶者
・社会保険の被扶養者である学生アルバイト
・新たに被扶養者としての認定を受ける従業員
・シフト制勤務の従業員(一定期間ごとの勤務予定によって労働時間などが確定する勤務形態)
フリーランス・自営業者は原則として対象外
フリーランスや自営業者など、特定の事業主と雇用関係がない従業員は対象外です。
フリーランスとしての収入と給与収入の両方がある従業員については、給与収入が一時的な事情で増加したことによって年収の壁を越えた場合は対象となります。
事業主の証明書が必要
この措置を適用するためには、『被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」にかかる事業主の証明書』が必要です。具体的な手続きは次のとおりです。
- 健康保険組合などによる被扶養者の資格確認(または新たに被扶養者の認定をうける際)時に作成
- 提出先の確認頻度にあわせた期間について、事業主が証明内容を記載
(例1)毎年11月に直近1年間の収入証明書を提出している従業員
直近1年間について作成
(例2)被扶養者の通算年収が130万円以上となったときに提出するが必要な従業員
通算した期間について作成
(例3)毎年11月に被扶養者の課税証明書を提出している従業員
課税証明書の対象期間(前年の所得)と同様に、前年について作成 - 被保険者がそのほかの書類とともに健康保険組合へ提出
- 健康保険組合が被扶養者資格に該当するかを審査
【引用】被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」にかかる事業主の証明書|厚生労働省
人手不足時代における中小企業経営者の5つの対策
年収130万円を超えてパートタイマーが働くことができる今回の措置は時限措置であるため、経営者は引き続き人手不足を解決するための取り組みが必要です。中小企業における主な人手不足対策は次のとおりです。
人材採用の見直し
求人方法や求人票に記載する内容を見直しします。具体例は次のとおりです。
- 就業規則の整備
- ハローワークでの募集時に『求人者マイページ』などで経営者の考え方などをアピール
- 残業時間を1時間単位で表示するなど、求職者が想像しやすい表現を記載
- 自社のホームページやSNSで、職場や従業員、経営者を紹介
- 自社で募集したい人材が注目する媒体を活用
生産性の改善
工場や販売店頭だけでなく、総務や経理などのバックオフィス部門についても生産性を向上できる可能性があります。生産性向上の主な事例は次のとおりです。
- ものづくり補助金を活用した自動化投資
- IT導入補助金を利用したキャッシュレス決済の導入
- 勤怠管理システムやクラウド給与計算システムへ刷新した給料計算事務の合理化
従業員の要望の確認
従業員が年収130万円を超えて働くことを打診する時は、従業員の希望を確認しておくことがすすめられます。
家事や育児などとの両立やプライベートな時間の確保を重視する従業員がいるためです。
上記の表において、上の棒グラフ上が女性、下の棒グラフが男性を示しています。
【引用】2023年版 男女共同参画白書|内閣府
キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)などを活用
人手不足対策となる賃上げや正社員化などの取り組みを支援する各種の助成金があります。
年収の壁を超える従業員の増加を支援する制度として、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)があります。
2023年10月1日以降、新たに社会保険の適用をおこなった場合に従業員1名あたり最大50万円を助成する制度であり、次の3つのコースがあります。
2024年1月31日までにキャリアアップ計画書を提出することが必要です。
- 手当等支給メニュー
新たに社会保険の適用となる従業員の収入増加のために、賃金の15%(または18%)以上の社会保険適用促進手当を支給する場合、事業主に対して1名あたり最大50万円が助成されます。
【引用】キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のご案内|厚生労働省
- 労働時間延長メニュー
労働時間を週4時間以上延長(4時間未満の場合は賃金の増額との組み合わせ)したことにより社会保険を適用させることとなった場合、従業員1名あたり30万円が企業に対して助成されます。
【引用】キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)のご案内|厚生労働省
- 併用メニュー
上記のメニューを併用する場合に1名あたり最大50万円が助成されます。
専門家の活用
上記のキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)は、キャリアアップ計画書の事前提出が必要です。
また賃上げなどを支援する助成金制度の申請においては就業規則の整備が求められるなど、助成金申請前に検討していくべき事項が多くあります。
忙しい経営者がすべてを自ら調べ、申請書を作成することは難しいため、専門家への相談が効率的です。
まとめ
人手不足は当面続くと予測されていることに加えて、2024年の春闘要求では賃上げ5%以上が目標とされています。利益確保のために、経営者はこれからも生産性の向上や人材確保に取り組んでゆくことが必要です。
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