年収106万円の壁は撤廃へ!社保負担が増える企業の対策とは
パートタイム従業員やアルバイト従業員など、短時間勤務従業員が厚生年金へ加入しなくてはならない「年収106万円の壁」が2026年10月から撤廃される予定です。
従業員側はより多様な働き方を選択できる一方、企業側にとっては社会保険料の負担が増える可能性があります。
本記事では「年収106万円の壁」撤廃の概要と、社会保険料負担が増える中小企業における対策について解説します。
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年収106万円の壁撤廃の内容
「年収106万円の壁」とは、従業員の年収が106万円(月額88,000円)以上となった場合、厚生年金保険料の負担により「手取り額が減ってしまう」ことを避けるため、勤務時間を抑制する勤務調整のことです。
2024年12月10日、厚生労働省社会保障審議会年金部会は、この年収106万円以上の要件を撤廃する方針を決定しました。また、加入事業所の条件である従業員数(厚生年金被保険者数)51名以上の要件についても撤廃される予定となっています。
今回の「年収106万円の壁」撤廃の概要は次のとおりです。
【年収106万円の壁の撤廃内容】
短時間勤務従業員の厚生年金加入要件 |
見直しの内容 |
従業員数51名以上の事業所 |
2027年10月から撤廃 |
年収106万円(賃金月額88,000円)以上 |
2026年10月から撤廃 |
週所定勤務時間が20時間以上 |
維持 |
2か月以上の雇用見込み |
維持 |
学生ではない |
維持 |
【参考】被用者保険の適用拡大および第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について②(2024年12月10日)|厚生労働省年金局
「年収106万円の壁」撤廃はいつから?
「年収106万円の壁」撤廃のうち、「年収106万円以上とする要件の撤廃」は2026年10月からの予定であり「従業員数51名以上の事業所を対象とする要件の撤廃」は、2027年10月からの予定となっています。
「年収106万円の壁」撤廃で企業の負担が重くなる?
「年収106万円の壁」撤廃により、企業によっては保険料負担がより重くなる可能性があります。その理由は次の3つです。
①従業員数51名以上の事業所において、厚生年金加入対象となる従業員が増えることで、企業側が負担する厚生年金保険料が増加する |
上記②の「保険料負担割合の特例」とは、従業員側の保険料負担を軽減するため、労使合意により任意に設定した割合の保険料を、企業側が負担する仕組みです。年収156万円までの従業員を対象に導入が検討されています。
この特例が導入されると、同じ時給であっても、保険料の半分以上を企業が負担することで従業員の手取りを多くする処遇が可能となります。
【参考】被用者保険の適用拡大および第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について②(2024年12月10日)|厚生労働省年金局
「年収106万円の壁」を撤廃しても「週20時間の壁」は継続
「年収106万円の壁」を撤廃しても、週あたりの勤務時間が20時間以上となる従業員に対する「厚生年金への加入義務」は変わりません。
厚生年金被保険者数が51名以上の事業所は、年収にかかわらず週20時間勤務する短時間勤務従業員(学生は除く)を、厚生年金へ加入させることとなります。
これにより、従業員が「週20時間以内となるように勤務時間の抑制を希望する」可能性があります。
また、2027年10月以降は従業員数にかかわらず、週20時間以上勤務する短時間勤務従業員は厚生年金へ加入させることとなります。
新たに社会保険へ加入する従業員に関する企業の手続き
年収106万円の壁が撤廃されることで、新たに厚生年金へ加入する従業員が増える企業も多いでしょう。パートタイム従業員やアルバイト従業員が新たに社会保険適用となる場合の、企業側における手続きは次のとおりです。
従業員への説明
従業員へ「厚生年金へ加入するメリット・デメリット」を丁寧に説明しておきましょう。
従業員は保険料を負担しなければなりませんが「厚生年金加入により、将来の年金受給額が増える可能性がある」「社会保険への切り替えにより保険料が軽減される可能性がある」などのメリットについても説明します。
従業員へ事前に説明しておくことで、労務トラブル発生リスクの低減につながります。
従業員と勤務時間の相談
従業員と事前に勤務時間や勤務日数について相談しておきましょう。
「年収106万円の壁」が撤廃されても、週20時間の壁は残ります。このため、従業員から勤務時間や勤務日数の抑制を申し出る可能性があります。
また、必要に応じて就業規則や雇用契約書の見直し、再契約も検討しましょう。
社会保険加入の手続き
新たに社会保険へ加入する従業員については、加入手続きが必要です。加入手続きは複雑であるため、外部の専門家によるサポートがおすすめです。
なお、従業員数51名以上の事業所において、年収106万円を超えることにより、新たに加入が必要となる短時間勤務従業員については、定時決定(算定基礎届)および随時改定(月額変更届)における支払基礎日数が11日となります。
一般の従業員(被保険者)の支払基礎日数17日とは異なることに注意しましょう。
社会保険加入者の増加で企業の負担も増加!中小企業がとるべき対策3つ
厚生年金加入対象となる従業員が増えた場合、企業側の社会保険料負担が増加します。また加入対象者であるかどうかの算定や加入手続きなど、バックオフィス業務が複雑化し、事務コスト負担も重くなります。
企業は人事・労務管理全般のコスト上昇対策として「バックオフィス業務の生産性向上」が求められます。
中小企業がバックオフィス業務を効率化させるための主な取り組み例は次のとおりです。
デジタル化
できる限り書類をデジタル化し、書類管理コストを削減しましょう。
社会保険関連は、提出書類が多いうえ、郵便料金が値上げされており、人件費や通信コストが増えてしまいます。
補助金や助成金を活用して、社内業務のデジタル化、IT化を進めましょう。
システムの見直し
人事管理システム、給与計算システムなどの見直しもおすすめです。例えば「紙に打刻しているタイムカードを勤怠管理システムへ移行すること」で、集計作業を大幅に削減できます。
ほかにも「システムが古く、データ連携ができない」「毎年のように変わる制度改正に追い付いていない」などの課題がある場合は、より短時間、より正確に処理できるシステムへの移行を検討しましょう。
個人情報管理体制の見直し
社会保険手続きにおいては、従業員の生年月日をはじめ、多くの個人情報を取り扱います。
社会保険加入者が増えると、企業が管理しなくてはならない個人情報も増えます。自社における個人情報の管理体制を再確認しておきましょう。
バックオフィス業務の効率化はF&M Clubがサポート
「年収106万年の壁」撤廃により、新たに200万人が厚生年金への加入が必要となるといわれています。企業によっては社会保険料負担が重くなるなど、収益が圧迫される可能性があります。
また社会保険制度は頻繁に改正されるため「改正情報のキャッチアップ」と「業務の見直し」が常に求められます。
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