
従業員1人当たりでいくら必要?適正な給与水準や人手不足時代の人員確保策を解説
近年、人手不足の長期化が多くの中小企業・小規模事業者にとって深刻な問題となっています。
新規採用は難しく、最低賃金や割増賃金率の引き上げによって人件費の上昇が資金繰りの大きな負担となっているケースも増えています。
さらに、人材を確保して定着させるためには、「このくらいの時給で」「去年と同じ給与水準で」といった従来の設定では通用しなくなっています。
今こそ、従業員1人当たりの適正な給与水準を把握し、人手不足時代に対応できる採用・定着の仕組みを整えることが重要です。
本記事では、従業員にかかるコストの計算方法や、人件費を確保しながら人材を採用・定着させる具体策をわかりやすく解説します。
目次[非表示]
人件費は給料だけではありません
企業は従業員へ支払う給料以外にもさまざまな費用を負担しています。
給料以外に負担する、従業員にかかわる経費を総称して「人件費」と呼びます。
人材の採用から育成まで、さまざまな費用が必要です。
採用前の費用 | 自社を紹介するホームページなどの作成費用 人材紹介会社への登録費用 |
採用時の費用 | 採用面接にかかる費用 採用に伴う人材紹介会社や紹介者への謝金 制服や必要物品の購入費用 |
在籍期間中の費用 | 社会保険料などの会社負担 社内研修の費用 従業員のスキルアップを支援する費用 幹部や後継者育成のための費用 |
退職時 | 退職金 |
人手不足の時代においては、ハローワークへの簡単な人材募集登録のみでは、思うように新規採用が進まないため、戦略的なPRが必要です。
また採用時だけでなく、採用後も人材の育成や優秀な従業員を自社につなぎとめるための費用が必要です。
人件費の構造
人件費は、従業員に支払う給料など、さまざまなコストを含みます。
【人件費に含まれるもの】
賃金
- 給料
- 残業手当など
法定福利費
- 健康保険料
- 厚生年金保険料などの会社負担
法定外福利費
- 住宅手当
- 採用募集費用など
適正な給与水準の考え方
人件費の多くは従業員への給与です。
人件費を抑えたい経営者は、次の3つの観点から検討しましょう。
① 法的な観点
法律を遵守するために必要な金額です。
- 最低賃金
- 残業手当の割増賃金率
② 従業員の確保、成長の観点
給与水準が同業他社よりも低い場合などは、従業員が離職しやすくなります。
また、従業員のやる気や頑張りに適正に報いる給与体制でないと、従業員の不満が蓄積します。
- 同業他社との比較
- 周辺の他社との比較
- 従業員のやる気を引き出し、成果に報いる人事・給与体系
③ 自社の成績全体からの観点
自社の体力を超えた過剰な人件費は会社の資金繰りを圧迫します。
売上高比での人件費の割合や、労働分配率などの指標における同業平均値が目安となります。
あくまでも指標のひとつであるため、業態や企業の経営方針によってさまざまです。
人件費の指標は、その他の指標と組み合わせた検討が必須です。
- 売上高比の人件費率
- 労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)
最低賃金引き上げと人材の確保
2025年8月4日に発表された「令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について」では、過去最大となる63円の引き上げが示され、全国の加重平均額は 1,118円 に達しました。
今回の改定では、都道府県の経済実態に応じて全都道府県をA・B・Cの3ランクに区分し、それぞれの引き上げ額の目安を提示しています。具体的には、Aランク・Bランクは63円、Cランクは64円の引き上げとなり、地域を問わず一律に大幅な上昇が見込まれています。最低賃金の上昇は、企業の人件費負担を一層強めることになり、経営に直結する重要課題です。
【引用】令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について|厚生労働省
さらに、慢性的な人手不足も依然として解消されていません。帝国データバンクの最新調査(2025年4月)によれば、正社員の人手不足を感じている企業は51.4%、非正社員では30.0% と高止まり傾向が続いています。特に「情報サービス」や「建設業」「道路貨物運送業」では7割前後と突出して高く、人材確保が事業継続に大きなリスクを及ぼしています。
一方、「飲食店」や「旅館・ホテル」などの非正規雇用中心の業種では改善傾向も見られるものの、全体として人手不足の慢性化は深刻であり、倒産件数の増加という形でも表れています。
こうした状況下で企業が対応を怠れば、「新規採用が難しい」「既存社員が他社に流出する」といった事態に直結します。最低賃金の引き上げと人材不足という二重の圧力に対し、人件費の最適化・生産性の向上・魅力ある職場づくりといった総合的な施策が、経営者にとって避けて通れない経営テーマとなっています。
社会保険料の負担が増しています
従業員の健康保険料や労働保険料は、従業員の負担分だけでなく会社も一部を負担する義務があります。
社会保険料と労働保険料
社会保険料や労働保険料など、法的に会社が負担する義務がある費用を法定福利費といいます。
社会保険料
- 健康保険料 …… 会社負担2分の1
- 厚生年金保険料 …… 会社負担2分の1
- 介護保険料 …… 会社負担2分の1
労働保険料
- 雇用保険料 …… 2025年度は一般の事業で労使それぞれ5.5/1,000、加えて雇用保険二事業3.5/1,000(事業主負担のみ)
建設業などは6.5/1,000+4.5/1,000 - 労災保険料 …… 全額が事業主負担
負担が増えている社会保険料
社会保険料や労働保険料については、会社での負担が増えています。
令和6年(2024年)10月からは、従業員数51人以上の企業で、正社員だけでなく、週20時間以上働くパートやアルバイトなど一定の要件を満たす短時間労働者も社会保険の加入が義務化されました。
【参考】社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について|厚生労働省
また、2025年4月1日からの雇用保険料率では、通常の事業において『失業等給付等の保険料率』が労働者負担・事業主負担ともに 5.5/1,000、加えて『雇用保険二事業』の保険料率(事業主のみ負担)が3.5/1,000となっています。建設業など一部の業では、失業等給付等が6.5/1,000、雇用保険二事業が4.5/1,000となります。
【参考】令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内|厚生労働省
人件費1人当たりの平均・時給は?パート1人当たりも解説
従業員1人当たりの人件費は、「人件費÷従業員数」で計算できます。
自社の人件費の平均は周囲よりも高いか低いか?人件費1人当たりの平均値は、統計により確認できます。
人件費1人当たりの平均値
厚生労働省の統計では、常用労働者の平均的な人件費は、1人当たり月額408,140千円(2020年)です。
内訳は、給与334,845千円、給与以外の費用(社会保険料の会社負担など)が73,296千円です。
つまり、従業員への給料支給額×122%が、会社が負担している人件費です。
労働費用総額と内訳 | 2020年調査 | 2015年前回調査 |
合計 | 408,140円 | 416,824円 |
現金給与 | 334,845円 | 337,192円 |
法定福利費 | 50,283円 | 47,693円 |
法定外福利費 | 4,882円 | 6,528円 |
現物給与の費用 | 481円 | 465円 |
退職給付などの費用 | 15,955円 | 18,834円 |
教育訓練費 | 670円 | 1,008円 |
募集費 | 718円 | 5,104円 |
そのほか | 306円 |
多くの企業では家族手当や住宅手当を支給しています。
仮に家族手当20,000円と住宅手当20,000円を支給している従業員が多い場合、上記の「法定外福利費」の項目が急増します。
一般的にいわれる「人件費は給料の2倍」はあながち間違いではありません。
人件費、給与が減少する中で、社会保険料などの法定福利費は逆に増加しています。
正社員
正社員の人件費については、上記の厚生労働省の調査が参考となります。
調査結果の特徴は、企業規模が大きいほど人件費も高くなる、業種によって人件費は大きく異なるという2点です。
従業員数 | 給与額 | 業種 | 給与額 | |
最も高い | 1,000人以上 | 365,787円 | 学術研究等 | 498,544円 |
(略) | ||||
最も低い | 30人~99人 | 292,370円 | 宿泊・飲食業 | 185,465円 |
同業他社よりも低い賃金水準の場合は、従業員が転職しやすくなります。
また、大手企業の人手不足感が強い時期は、業種を超えて従業員が転職する可能性も高まります。
パートタイマー・アルバイト
パートタイマーやアルバイトは、地区や職種によって大きく異なります。
都道府県別最低賃金のほかに、周辺での募集時の時給が参考となります。
パートタイマーやアルバイトを多数雇用している事業所については、社会保険の適用事業所となることに注意が必要です。
上記のように、法改正によって賃金と社会保険料での負担が増加しています。
さらに、先が見えない世界情勢悪化による物価高が重なり、厳しい時代が続きます。
しかし、大企業が倒産するニュースは聞こえてきません。
大企業の強さに注目し、中小企業が備えるべきポイントを解説していますので、ぜひご覧ください。
人材投資費用を捻出するためには財務改善が必要です
人材を採用するにも教育するにも、費用と時間がかかります。
期待以上の成果を出せる従業員に育つまで、何もしないで待っている余裕はありません。
人材を育成するためには、人材を採用しやすい体制づくり、人材を育てる仕組みづくり、従業員の頑張りに報いる給与体制づくりが必要です。
社内規定の整備
従業員数10人未満の企業においては、就業規則の作成と届け出の義務はありませんが、厚生労働省では作成を推奨しています。
就業規則を作成すべき理由は、「従業員と企業を守るため」です。
就業規則を作成することで、
- 社内のルールを整備する
- 報酬や罰則を明確化する
- 賞与や退職金を取り決める
などの基本的な社内の取り決めを明文化します。
就業規則がない企業は、新規採用時に応募者が不安になるだけでなく、労務トラブルも起きやすくなります。
また、一部の補助金も申請できません。
真面目に頑張っている従業員が安心して仕事に専念するためにも、就業規則などの社内の規定を整えます。
バックオフィス業務の改善
従業員の給与計算や税金や社会保険料の源泉徴収など多くのバックオフィス業務があり、担当する従業員にはさまざまな負担がかかります。
【バックオフィス業務が負担となる理由】
- 専門知識が必要
- 毎年改正があるため、改正の都度、計算方法などが変わる
- 制度によっては、制度の改正前と改正後の複数の計算式が混在する
- 納付の期日が決まっている
- 従業員が増えるほど、バックオフィス業務が増える
経営者にとっては、人手不足における対応に加えて、最低賃金の引き上げなどで負担が増している人件費の抑制が必要です。
売上高に直結しないバックオフィス業務の効率化が、業績改善のポイントです。
財務改善効果を人材投資へ
人件費の増加だけでなく、原材料の仕入価格高騰など景気の先行きが不透明な状況においては、資金繰りに余裕はありません。
限られた資金繰りの中から人材へ投資するお金を捻出するためには、資金繰りの改善が優先です。
【人材への投資は財務の改善から】
① 事業と資金繰りの状況を確認
② 事業計画や資金繰り表を作成して、今後の見通しを明確化
③ 補助金や金融機関からの借入のリファイナンス(借り換え)で資金繰りを改善
④ 資金繰りの余裕で、事業の拡大や人材へ投資する
●無料で実施している財務相談会はこちら↓↓↓
助成金・補助金を忘れずに申請して賃金値上げの波に対抗しよう
補助金や助成金は、厳しい経営環境の中で企業を支えてくれる強い味方です。
申請のタイミングや要件を正しく押さえれば、資金繰りの改善や設備投資・人材確保にもつながります。
「うちには関係ない」と思わずに、まずはどんな制度が使えるのかを知ることから始めてみましょう。
情報をキャッチし、忘れずに活用することが、賃金上昇の波にのみ込まれない第一歩です。
少しの準備と行動が、大きな経営支援につながるかもしれません。
F&M Clubでは、これまで累計約48,000社を支援してきた実績をもとに、人材採用・労務管理・資金繰り改善など、30種類以上のノウハウをご提供。月額3万円(税抜)でご利用いただけます。
(エフアンドエム社会保険労務士法人が提供する就業規則などの作成から変更管理まですべておまかせの『まかせて規程管理』サービス利用料金2,000円(税抜)が含まれています。)















