
従業員1人当たりでいくら必要?適正な給与水準や人手不足時代の人員確保策を解説
人手不足が長期化しています。
新規採用が難しく、最低賃金と割増賃金率も引き上げされており、人件費の上昇が資金繰りの負担となっています。
また、従業員をスムーズに採用し育てていくためには、「このくらいの時給で」「去年と同じ給料で」だけでは不十分です。
本記事では、従業員にかかるコストと人件費の確保策についてわかりやすく解説します。
目次[非表示]
- 1.人件費は給料だけではありません
- 1.1.人件費の構造
- 1.2.適正な給与水準の考え方
- 1.3.最低賃金引き上げと人手不足が続いています
- 2.社会保険料の負担が増しています
- 2.1.社会保険料と労働保険料
- 2.2.負担が増えている社会保険料
- 3.人件費1人当たりの平均・時給は?パート1人当たりも解説
- 3.1.人件費1人当たりの平均値
- 3.2.正社員
- 3.3.パートタイマー、アルバイト
- 4.人材投資費用を捻出するためには財務改善が必要です
- 4.1.社内規定の整備
- 4.2.バックオフィス業務の改善
- 4.3.財務改善効果を人材投資へ
- 5.助成金・補助金を忘れずに申請して賃金値上げの波に対抗しよう
人件費は給料だけではありません
企業は従業員へ支払う給料以外にもさまざまな費用を負担しています。
給料以外に負担する、従業員にかかわる経費を総称して「人件費」と呼びます。
人材の採用から育成まで、さまざまな費用が必要です。
採用前の費用 |
自社を紹介するホームページなどの作成費用 人材紹介会社への登録費用 |
採用時の費用 |
採用面接にかかる費用 採用に伴う人材紹介会社や紹介者への謝金 制服や必要物品の購入費用 |
在籍期間中の費用 |
社会保険料などの会社負担 社内研修の費用 従業員のスキルアップを支援する費用 幹部や後継者育成のための費用 |
退職時 |
退職金 |
人手不足の時代においては、ハローワークへの簡単な人材募集登録のみでは、思うように新規採用が進まないため、戦略的なPRが必要です。
また採用時だけでなく、採用後も人材の育成や優秀な従業員を自社につなぎとめるための費用が必要です。
人件費の構造
人件費は、従業員に支払う給料など、さまざまなコストを含みます。
【人件費に含まれるもの】
賃金
- 給料
- 残業手当など
法定福利費
- 健康保険料
- 厚生年金保険料などの会社負担
法定外福利費
- 住宅手当
- 採用募集費用など
適正な給与水準の考え方
人件費の多くは従業員への給与です。
人件費を抑えたい経営者は、次の3つの観点から検討しましょう。
① 法的な観点
法律を遵守するために必要な金額です。
- 最低賃金
- 残業手当の割増賃金率
② 従業員の確保、成長の観点
給与水準が同業他社よりも低い場合などは、従業員が離職しやすくなります。
また、従業員のやる気や頑張りに適正に報いる給与体制でないと、従業員の不満が蓄積します。
- 同業他社との比較
- 周辺の他社との比較
- 従業員のやる気を引き出し、成果に報いる人事・給与体系
③ 自社の成績全体からの観点
自社の体力を超えた過剰な人件費は会社の資金繰りを圧迫します。
売上高比での人件費の割合や、労働分配率などの指標における同業平均値が目安となります。
あくまでも指標のひとつであるため、業態や企業の経営方針によってさまざまです。
人件費の指標は、その他の指標と組み合わせた検討が必須です。
- 売上高比の人件費率
- 労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)
最低賃金引き上げと人手不足が続いています
2022年10月に最低賃金が見直しされ、過去最大の引き上げ幅となりました。
最低賃金の全国平均は961円です。
月給制の正社員についても、最低賃金以上の時給が必要です。
給与水準を見直差ないと最低賃金を下回っていることもあるため、定期的に従業員の時給を確認します。
最低賃金の引き上げに加えて、残業において加算する割増賃金率の改定も2023年4月に迫っています。
また人手不足も続いています。
人手不足企業の割合は、正社員について51.1%、非正社員についても31.0%の企業が人手不足と回答しています。
人手不足における対応が遅れると、「新規採用ができない」「社員が他社に転職してしまう」といった状況を招きます。
【参考】人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)|帝国データバンク
人手不足と今後も上昇する人件費への対処は、経営者にとって急務です。
社会保険料の負担が増しています
従業員の健康保険料や労働保険料は、従業員の負担分だけでなく会社も一部を負担する義務があります。
社会保険料と労働保険料
社会保険料や労働保険料など、法的に会社が負担する義務がある費用を法定福利費といいます。
社会保険料
- 健康保険料 …… 会社負担2分の1
- 厚生年金保険料 …… 会社負担2分の1
- 介護保険料 …… 会社負担2分の1
労働保険料
- 雇用保険料 …… 1,000分の13.5のうち会社負担1,000分の8.5(業種により異なります)
- 労災保険料 …… 全額が事業主負担
負担が増えている社会保険料
社会保険料や労働保険料については、会社での負担が増えています。
社会保険料は、2022年10月に適用事業所が拡大されました。
2024年10月からはさらに拡大されるため、従業員数51人以上の事業所で社会保険の適用が開始されます。
労働保険料についても、2022年10月に雇用保険料率が引き上げされています。
人件費1人当たりの平均・時給は?パート1人当たりも解説
従業員1人当たりの人件費は、「人件費÷従業員数」で計算できます。
自社の人件費の平均は周囲よりも高いか低いか?人件費1人当たりの平均値は、統計により確認できます。
人件費1人当たりの平均値
厚生労働省の統計では、常用労働者の平均的な人件費は、1人当たり月額408,140千円(2020年)です。
内訳は、給与334,845千円、給与以外の費用(社会保険料の会社負担など)が73,296千円です。
つまり、従業員への給料支給額×122%が、会社が負担している人件費です。
労働費用総額と内訳 |
2020年調査 |
2015年前回調査 |
合計 |
408,140円 |
416,824円 |
現金給与 |
334,845円 |
337,192円 |
法定福利費 |
50,283円 |
47,693円 |
法定外福利費 |
4,882円 |
6,528円 |
現物給与の費用 |
481円 |
465円 |
退職給付などの費用 |
15,955円 |
18,834円 |
教育訓練費 |
670円 |
1,008円 |
募集費 |
718円 |
5,104円
|
そのほか |
306円 |
多くの企業では家族手当や住宅手当を支給しています。
仮に家族手当20,000円と住宅手当20,000円を支給している従業員が多い場合、上記の「法定外福利費」の項目が急増します。
一般的にいわれる「人件費は給料の2倍」はあながち間違いではありません。
人件費、給与が減少する中で、社会保険料などの法定福利費は逆に増加しています。
正社員
正社員の人件費については、上記の厚生労働省の調査が参考となります。
調査結果の特徴は、企業規模が大きいほど人件費も高くなる、業種によって人件費は大きく異なるという2点です。
従業員数 |
給与額 |
業種 |
給与額 |
|
最も高い |
1,000人以上 |
365,787円 |
学術研究等 |
498,544円 |
(略) |
|
|||
最も低い |
30人~99人 |
292,370円 |
宿泊・飲食業 |
185,465円 |
同業他社よりも低い賃金水準の場合は、従業員が転職しやすくなります。
また、大手企業の人手不足感が強い時期は、業種を超えて従業員が転職する可能性も高まります。
パートタイマー、アルバイト
パートタイマーやアルバイトは、地区や職種によって大きく異なります。
都道府県別最低賃金のほかに、周辺での募集時の時給が参考となります。
パートタイマーやアルバイトを多数雇用している事業所については、社会保険の適用事業所となることに注意が必要です。
上記のように、法改正によって賃金と社会保険料での負担が増加しています。
さらに、先が見えない世界情勢悪化による物価高が重なり、厳しい時代が続きます。
しかし、大企業が倒産するニュースは聞こえてきません。
大企業の強さに注目し、中小企業が備えるべきポイントを解説していますので、ぜひご覧ください。
人材投資費用を捻出するためには財務改善が必要です
人材を採用するにも教育するにも、費用と時間がかかります。
期待以上の成果を出せる従業員に育つまで、自然体で待っている余裕はありません。
人材を育成するためには、人材を採用しやすい体制づくり、人材を育てる仕組みづくり、従業員の頑張りに報いる給与体制づくりが必要です。
社内規定の整備
従業員数10人未満の企業においては、就業規則の作成と届け出の義務はありませんが、厚生労働省では作成を推奨しています。
就業規則を作成すべき理由は、「従業員と企業を守るため」です。
就業規則を作成することで、
- 社内のルールを整備する
- 報酬や罰則を明確化する
- 賞与や退職金を取り決める
などの基本的な社内の取り決めを明文化します。
就業規則がない企業は、新規採用時に応募者が不安になるだけでなく、労務トラブルも起きやすくなります。
また、一部の補助金も申請できません。
真面目に頑張っている従業員が安心して仕事に専念するためにも、就業規則などの社内の規定を整えます。
バックオフィス業務の改善
従業員の給与計算や税金や社会保険料の源泉徴収など多くのバックオフィス業務があり、担当する従業員にはさまざまな負担がかかります。
【バックオフィス業務が負担となる理由】
- 専門知識が必要
- 毎年改正があるため、改正の都度、計算方法などが変わる
- 制度によっては、制度の改正前と改正後の複数の計算式が混在する
- 納付の期日が決まっている
- 従業員が増えるほど、バックオフィス業務が増える
経営者にとっては、人手不足における対応に加えて、最低賃金の引き上げなどで負担が増している人件費の抑制が必要です。
売上高に直結しないバックオフィス業務の効率化が、業績改善のポイントです。
財務改善効果を人材投資へ
人件費の増加だけでなく、原材料の仕入価格高騰など景気の先行きが不透明な状況においては、資金繰りに余裕はありません。
限られた資金繰りの中から人材へ投資するお金を捻出するためには、資金繰りの改善が優先です。
【人材への投資は財務の改善から】
① 事業と資金繰りの状況を確認
② 事業計画や資金繰り表を作成して、今後の見通しを明確化
③ 補助金や金融機関からの借入のリファイナンス(借り換え)で資金繰りを改善
④ 資金繰りの余裕で、事業の拡大や人材へ投資する
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助成金・補助金を忘れずに申請して賃金値上げの波に対抗しよう
最低賃金や社会保険料の負担上昇により、中小企業の経営は厳しい状況が続いています。
さらに、世界情勢の混乱による物価高も重なり、資金繰りがうまくいかず倒産する会社が後をたちません。
会社の負担を軽減するために、補助金や助成金、優遇制度の活用をおすすめします。
しかし、支援制度を申請しても受け取れないのではないかと心配な方もいるでしょう。
その方には助成金をおすすめします。
なぜなら、助成金は要件を満たしている場合、原則受給できるからです。
弊社としても、中小企業の皆様に活用いただきたいので、セミナーを通じて最新情報や申請時のポイントを紹介しています。
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