
社員の給与が最低賃金割れ?違法?知らずに法令違反になる給与決定方法と解決策を解説
2022年の最低賃金が改定されました。
2022年の最低賃金の特徴は、過去最大の引き上げ幅です。
最低賃金の引き上げは新規採用者だけではなく、既存の従業員へも影響します。
知らずにいると法令違反の最低賃金となってしまう給与決定方法や、違法とならないようにする給与体系まで解説します。
目次[非表示]
- 1.最低賃金が変わりました【2022年10月改定】
- 2.最低賃金以下の社員がいると法令違反
- 2.1.最低賃金が適用される社員
- 2.2.最低賃金が適用される給料
- 3.正社員における最低賃金の計算
- 4.法令違反になる給与決定方法
- 4.1.法令違反を招きやすい給与決定方法
- 4.2.月給も毎年確認が必要
- 4.3.最低賃金以下は離職や信用失墜を招きます
- 5.法令違反にならない給与決定方法
- 5.1.給与規定(規程)を整えましょう
- 5.2.勤怠管理や給料計算はシステムが有効
- 6.賃上げのコスト上昇には補助金で対策
- 7.人材活用にも経営力向上計画がおすすめ
- 8.賃金の値上げに耐えるために、助成金や補助金の受給漏れをなくしましょう
最低賃金が変わりました【2022年10月改定】
2022年10月1日(都道府県によっては2日)から最低賃金が変わりました。
2022年の全国平均の最低賃金は961円です。
今回は過去最大の引き上げ幅となり、全国加重平均で31円の引き上げです。
最低賃金の決まり方には、次の特徴があります。
- 毎年8月に中央最低賃金審議会が目安額を提示
- 都道府県ごとに地方最低賃金審議会で協議
- 毎年10月に実施される
- 地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金があり、どちらか高い方を支払う
- 最低賃金は、従業員が働いている場所の都道府県によって決まる
2021年10月の最低賃金の引き上げは全国平均で28円だったため、ここ2年間で累計59円の上昇です。
仕入価格や燃料費の高騰に加えての人件費の上昇で、コスト増加が経営を圧迫している会社もあります。
最低賃金以下の社員がいると法令違反
最低賃金は、最低賃金法によって守る義務があります。
経営者と従業員で合意していたとしても、最低賃金以下の給料とする合意は無効で、最低賃金と同額の支払義務が発生します。
また、最低賃金以下の支払いをおこなっていたとしても、最低賃金と支払った賃金との差額を過去にさかのぼって支払う義務があり、場合によっては罰金が科されることもあります。
従業員の給料が最低賃金以下になっていないか、定期的に確認する必要があります。
最低賃金が適用される社員
地域別最低賃金が適用される社員とは、すべての従業員のことです。
正社員、パートタイム、アルバイト、嘱託契約、派遣社員などの雇用形態は問いません。
派遣社員については、派遣元ではなく派遣先の事業所がある都道府県の最低賃金が適用されます。
一定の条件に該当する従業員(試用期間中など)については、最低賃金以下の給料とする「最低賃金の減額の特例」があります。
最低賃金の減額の特例を適用するためには、都道府県の労働局長の許可を受けることが必要です。
特定(産業別)最低賃金については、特定の基幹的労働者などに限定されます。
技能習得中の従業員や65歳以上の従業員には適用されません。
最低賃金が適用される給料
最低賃金が適用される給料とは、給料の全額ではありません。
上記を整理すると次のとおりです。
最低賃金の対象に入らない賃金とその例 | |
臨時に支払う賃金 |
結婚手当など |
1カ月超の期間で払う賃金 |
賞与など |
所定労働時間以外に払う賃金 |
残業手当など |
所定労働日以外に払う賃金 |
休日手当など |
そのほかの手当 |
精勤手当、家族手当、通勤手当など |
正社員における最低賃金の計算
最低賃金は時給で表示されています。
日給や月給で給料を支払っている従業員については、時間給に換算したうえで、最低賃金を下回っていないか確認します。
<時給>
時給と最低賃金を比較します。
<日給>
日給 ÷ 1日の所定労働時間(日によって異なる場合は、1週間での平均)
<月給>
月給 ÷ 1カ月間の平均での所定労働時間
<月給の場合の具体例>
① |
給料支給総額 |
210,000円 |
|
-a |
(うち基本給) |
(130,000円) |
|
-b |
(うち管理職手当) |
(20,000円) |
|
-c |
(うち残業手当) |
(45,000円) |
|
-d |
(うち通勤手当) |
(15,000円) |
|
① |
給料支給総額 |
210,000円 |
|
② |
最低賃金対象外の賃金 |
c+d |
- 60,000円 |
③ |
最低賃金対象の賃金 |
①-② |
= 150,000円 |
④ |
12カ月に換算 |
× 12 |
|
⑤ |
最低賃金対象の賃金(年換算) |
③×④ |
= 1,800,000円 |
⑥ |
年間労働日数 |
250日間 |
|
⑦ |
1日あたり所定労働時間 |
× 8時間 |
|
⑧ |
1日あたり所定労働時間(年換算) |
⑥×⑦ |
= 2,000時間 |
⑤ |
最低賃金対象の賃金(年換算) |
1,800,000円 |
|
⑧ |
所定労働時間(年換算) |
÷ 2,000時間 |
|
⑨ |
最低賃金計算上の時給 |
⑤÷⑧ |
= 900円 |
⑩ |
勤務先場所の最低賃金 |
961円 |
この例では、月給を換算した時間給900円が地域別最低賃金を下回っているため、最低賃金以下の給料となっています。
従業員の給料が最低賃金以上となっているか、簡単に調べることもできます。
【参考】あなたの賃金を比較チェック|厚生労働省 最低賃金特設サイト
法令違反になる給与決定方法
最低賃金は毎年見直しされます。
最低賃金の改定を見過ごしていると、在籍している従業員の給料が最低賃金以下となってしまい、法律違反となっていることもあります。
法令違反を招きやすい給与決定方法
従業員の給料が最低賃金以下の法令違反状態となりやすい会社の例は次のとおりです。
- 給料規程(規定)や就業規則が整備されていない
- ここ数年、給料水準の見直しをしていない
- 基本給は高くないが、精勤手当や残業手当を高い水準にして調整している
月給も毎年確認が必要
新規の従業員募集時は最低賃金に注目しますが、現在勤務している従業員の時給は確認していない会社もあります。
10年間以上にわたり、最低賃金の引き上げが続いています。
最低賃金は毎年見直しされるため、最低賃金改定時期にあわせて、月給制の従業員の給料が最低賃金を下回っていないか確認することが必要です。
最低賃金以下は離職や信用失墜を招きます
最低賃金以下の従業員がいる場合、経営上の大きなトラブルが発生することあります。
- 正社員の時給がパートタイムやアルバイト以下となり、正社員が退職する
- 未払い給料の労使トラブルや訴訟が発生する
- 労働基準監督署の強制調査がある、是正勧告が出される
- 「ブラック企業」として風評がたち、従業員を採用しにくくなる
- 未払い給与をさかのぼって支払う必要がある
「ブラック企業」という言葉に正式な定義はありませんが、賃金不払などコンプライアンス意識が低い企業の代名詞として、一般に広まってきています。
「ブラック企業」との風評がインターネットやSNSで広まると、新規採用への応募者が躊躇するなど、人材確保難の時代には経営の痛手となりかねません。
また金融機関においても、融資先の法令違反には警戒しています。
会社の悪い風評や法令違反は、融資の審査においてもマイナスのイメージを与えるため注意しましょう。
法令違反にならない給与決定方法
最低賃金などの法令違反とならないよう、給与体系を見直すことも必要です。
給料体系の整備は、法令違反の防止だけでなく、今後の人材採用と会社の成長に立ちます。
給与規定(規程)を整えましょう
給料規定(規定)や就業規則などが不明確な場合は、まず自社での決まりごとを整えます。
給料体系は各社さまざまであり、自社の経営内容や経営方針、就業形態、今後の人材育成を見据えて、他社の事例も参考にしながら整備することが重要です。
給料などの就業規則を整えるポイントは次のとおりです。
最新の法律に合っている
- 労働法は改正されます。自社の規則が最新の労働法に合致していることが必要です。
- 労働法に違反していると、労使トラブルが発生することがあります。
会社と従業員を守る
- 従業員が守るべき決まりごとを明記します。
- 就業規則を作る理由は、真面目にがんばる従業員と自社の経営を守るためです。
従業員のモチベーションを高める
- ルールは、明確にわかりやすくします。
- 従業員のがんばりに報いる人事考課体制を整えます。
事務の労力を考慮する
- 給料や社会保険制度の法改正ごとに見直しが必要です。
- 労務管理などのバックオフィス業務の効率化も必要です。
勤怠管理や給料計算はシステムが有効
最低賃金だけでなく、給料計算で重要な社会保険制度も、毎年のように見直しされることに加えて、年末調整なども電子化が一層進んでいきます。
また、従業員についても、リモートワークや時間短縮勤務、フリーランスの活用など、多様な雇用体系や勤務形態が増えていくことが予想されます。
法改正が多く、計算も複雑な人事・労務管理については、勤怠管理システムや給料自動計算システムのクラウド化などの対策が有効です。
賃上げのコスト上昇には補助金で対策
最低賃金の引き上げの影響は、新規採用の従業員だけにとどまりません。
パートタイマーやアルバイトの時給が正社員の時給を上回ると、正社員のモチベーションの低下や離職の増加を招きます。
また、新卒社員の初任給を引き上げるときは、既にいる従業員全体を賃上げすることが必要な場合もあり、全社的な人件費の上昇につながります。
給料水準の見直しによる人件費上昇に対しては、IT化による効率化も同時に検討することが大切です。
人材活用や労務管理の効率化のための投資には、各種の補助金制度があります。
- IT導入補助金
自社の課題にあったITツールの導入費用を助成する制度です。
【参考】IT導入補助金事務局Webサイト
- 業務改善助成金
事業所内の最低賃金の引き上げにあわせて、設備の導入や人材育成・教育訓練にかかる費用の一部を助成する制度です。
- 小規模事業者持続化補助金
従業員数が少ない小規模事業者が、商工会議所などのサポートを受けながら経営計画を作成して、賃金引き上げやインボイスにおける対応などに取り組むための補助金です。
2022年の第10回の締切りは、2022年12月9日です。
有利に採択されるためには、経営力向上計画の承認などの加点措置が有効です。
【参考】小規模事業者持続化補助金(一般型)ガイドブック|全国商工会連合会
人材活用にも経営力向上計画がおすすめ
「経営力向上計画」とは、従業員の育成や財務面の改善、設備投資予定など、現在おこなっている事業を改善する取組みを記載した「経営力向上計画」を作成し、認定を受ける制度です。
2022年9月30日時点で、146,762件が認定されています。
認定された経営力向上計画については、さまざまなメリットがあります。
経営力向上計画のメリット |
|
経営力向上計画の認定は、申請書類が約3枚と少なく、優遇税制など実務的なメリットが多いうえ、中小企業支援の専門家による作成サポート体制も整っています。
賃上げによるコスト上昇における対応などでIT化を考えるときは、補助金制度だけでなく、資金調達などを踏まえた経営計画の作成も視野に入れることがおすすめです。
賃金の値上げに耐えるために、助成金や補助金の受給漏れをなくしましょう
最低賃金の引き上げが2年連続しておこなわれており、法律違反とならないよう給与体系の見直しが必要です。
また、最低賃金が引きあげられたことにより、人件費の面で経営の負担が大きくなっています。
そのため、給与体系の見直しだけでなく、会社の売上向上や事業拡大の検討が必要ですが、すぐに対応することは難しいでしょう。
そこで、補助金や助成金、優遇制度を活用することをおすすめします。
例えば、非正規雇用から正規雇用になる従業員がいる場合は、キャリアアップ助成金の活用が可能です。
エフアンドエムでは、累計38,000社支援のノウハウを生かし、活用可能な公的支援制度の提案や申請のサポートが月額3万円(税別)で可能です。
また、公的支援だけでなく労務管理や人材採用も含めたサービスもそのままの値段で対応可能であり、多くの企業様に活用いただいております。
まずは、自社で活用できる助成金・補助金について
受給漏れになる前にご確認ください