所得拡大促進税制で中小企業の賃上げをしないとやばい、これだけの理由
中小企業の中では、利益が出ているにもかかわらず、従業員の給与などを据え置いている企業もいるのではないでしょうか?
現在、税制において、雇用を守りつつ、賃上げや雇用を増加させている企業を下支えする制度として所得拡大促進税制があります。
本記事では、所得拡大促進税制の制度内容や、活用するメリットについて解説します。
目次[非表示]
- 1.所得拡大促進税制とは
- 2.所得拡大促進税制の改正ポイント
- 2.1.適用要件の緩和
- 2.2.税額控除「25%」の要件見直し
- 2.3.控除範囲の明確化
- 3.所得拡大促進税制のメリット
- 4.F&M Clubのサービスを活用
- 5.所得拡大促進税制:まとめ
所得拡大促進税制とは
所得拡大促進税制とは、中小企業などが、雇用者の所得の拡大や増加を図るために、前年度給与よりも増加させた企業に、その増加した分の一部を法人税、または所得税から税額控除できる制度です。法人や個人事業主に適用されます。
対象事業者
所得拡大促進税制の対象事業者は、前提として青色申告書を提出した人です。
つまり、白色申告にしている場合は、適用が受けられません。
次に該当する事業者が対象です。
1. 資本金額、または出資金額が1億円以下の法人(※1)
ただし、次の法人は対象外です。
- 同一の大規模法人(※2)から2分の1以上の出資を受ける法人
- 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
2. 資本、または出資を有しない法人で常時雇用する従業員数が1,000人以下の法人(※1)
役員や親族は、特殊関係者として従業員に含まれません。
3. 常時雇用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
青色事業専従者などは、個人事業主と特殊関係者となるため従業員には含まれません。
4. 中小企業等協同組合や出資組合である商工組合など
対象となる組合は、協同組合が、農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合です。出資組合は、商工組合および商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合、森林組合連合会です。
※1:前3事業年度の所得の平均額が15億円を超える法人は対象外
※2:大規模法人は、次のとおりです。
- 資本金や、出資金額が1億円超の法人
- 資本や、出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人を超える法人
- 資本金や、出資金額が5億円以上ある法人などとの間で、その法人と完全支配関係がある法人などの大法人。ただし、中小企業投資育成株式会社は除きます
適用条件・税額控除
令和3年度税制改正があったため、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの期間内の事業年度が対象となります。
適用条件に対して税額控除される控除額は、通常と上乗せの場合の2つがあります。
通常の場合
雇用者給与などの支給額が前年度の1.5%以上増加している場合、控除対象になる雇用者給与などの支給増加額の15%分が法人税額、または所得税額から控除されます。
つまり、給与の1.5%以上増加したら、その増加分の15%分を控除できます。
上乗せの場合
雇用者給与などの支給額が前年度の2.5%以上増加しており、さらに次のいずれかを満たす必要があります。
1. 教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加している
2. 適用される年度の終了日までに、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことが証明されている
税額控除は、控除対象になる雇用者給与などの支給増加額の25%分の法人税額、または所得税額から控除されます。
つまり、給与の2.5%以上増加し、上記の1または2の条件のどちらかを満たしたら、増加分の25%分を控除できます。
通常や上乗せで算出した税額控除額は、当期の法人税額、または所得税額の20%を上限として控除します。
つまり、税額控除額が、法人税などの20%を超える場合は、20%分までの金額までしか控除されません。
控除税額の計算方法
前年度の雇用者の給与などが1,000万円で、当年度の給与などが1,300万円の場合を例に控除額を計算してみましょう。
【通常の場合】
1,300万円÷1,000万円×100=130%≧101.5%
300万円は1.5%以上の増加のため、300万円をベースに計算します。
300万円×15%=45万円
45万円分の税額控除額となります。
法人税額が200万円の場合
200万円×20%=40万円
つまり、45万円のうち、40万円が税額控除されます。
【上乗せの場合】
1,300万円÷1,000万円×100=130%≧102.5%
300万円は2.5%以上の増加のため、300万円をベースに計算します。
300万円×25%=75万円
75万円分の税額控除額となります。
法人税額が、400万円の場合
400万円×20%=80万円
つまり、75万円全額が税額控除されます。
所得拡大促進税制の改正ポイント
令和4年度税制改正があり、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの事業年度が対象となります。改正ポイントについて解説します。
適用要件の緩和
所得拡大促進税制の上乗せの場合の適用要件が緩和されました。
改正前は、2つの要件を満たす必要がありました。詳しい条件は、上記でご確認ください。
改正後では、次の要件のどちらかを満たすことで上乗せされることとなりました。
- 雇用者給与などの支給額が前年度の2.5%以上の増加
- 教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加している
- 1と2の両方を満たしている
税額控除「25%」の要件見直し
所得拡大促進税制の上乗せの場合の税額控除額は、控除対象になる雇用者給与などの支給増加額の25%でした。
改正後では、適用要件が独立した要件となったことで、最大40%の税額控除を受けられるようになります。
上記の要件から、
1の要件を満たした場合、30%の税額控除
2の要件を満たした場合、25%の税額控除
3の要件、つまり1と2の両方を満たした場合、40%の税額控除
ただし、改正前と同じように、当期の法人税額、または所得税額の20%を上限としているため注意が必要です。
実際に計算をしてみましょう。上記と同じ、前年度の雇用者の給与や賞与などが1,000万円で、当年度の給与や賞与などが1,300万円の場合を例に控除額を計算します。また今回は、教育訓練費も前年度と比べて10%以上増加していると仮定します。
300万円÷1,000万円×100=130%≧102.5%
300万円は2.5%以上の増加のため、300万円をベースに計算します。
上記の1と2の両方の要件を満たしているため、3の要件が適用されます。
300万円×40%=120万円
120万円分の税額控除額となります。
法人税額が、600万円の場合
600万円×20%=120万円
つまり、120万円全額が税額控除されます。
控除範囲の明確化
雇用者の給与などの支給額を算出する上で、他の制度などを利用して支払いを受ける金額がある場合、支給額から除外しなければなりません。
該当する金額として次のものがあります。
1. 補助金などを受けることで、給与などの支給額の負担を軽減させることが明らかな交付額
本来給与は、会社や個人事業主が負担すべきものの、業績などの面から補助金などの交付を受けて、給与を支給している場合が該当します。該当する例として、業務改善助成金があります。
2. 1以外の補助金などで、算定方法が雇用契約の時間や日数などから算出した支給単価などを基礎としている補助金などの交付額
該当する例として、雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金(早期雇い入れコース)、キャリアアップ助成金(正社員化コース)、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)があります。
3. 1と2以外の補助金などで、従業員などが、他の会社に出向した場合、給与などを出向先の会社負担ではなく、出向元の会社負担とした場合に、本来出向先の会社が負担すべき金額
所得拡大促進税制のメリット
中小企業が所得拡大促進税制を活用するメリットは、法人税の優遇措置が受けられる点と、従業員のモチベーションを高めることができる点の2つがあります。
法人税の優遇措置は、従業員に支給された給与で増額された分の一部を法人税の税額控除として活用できます。
節税された分は、設備投資などに活用することや、内部留保として貯めておくなどの選択が可能です。
従業員の給与を上げることは、固定費が増えるため、経営的に厳しいと考える人もいるでしょう。法人税の税額控除があるため、従業員の給与を増やす場合は、この時期のチャンスと考えた方がよいでしょう。
従業員のモチベーションは、給与が引き上げされて喜ばない従業員はほとんどいないため、給与などが増加すれば高まることでしょう。
働いている従業員のモチベーション向上によって、さらなる会社の利益が増加する可能性もあります。
また給与水準が高い企業であれば、関心をもつ求職者も増えるため、採用活動の負担軽減にもつながります。
以上のように、所得拡大促進税制を実施している今の時期に、法人税の優遇措置を受けられるようにするとよいでしょう。
F&M Clubのサービスを活用
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経営課題の1つに、従業員の労働生産性の向上があります。
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所得拡大促進税制:まとめ
所得拡大促進税制の制度内容や、令和4年度改正のポイント、活用するメリットについて解説しました。
所得拡大促進税制は、恒久的に続く制度ではなく、これまで延長を繰り返しながら続けられている制度です。そのためいつかは制度jは終わります。
ただし、従業員の給与を上げたいと思っても、安定的な収益や資金繰りができていることが前提です。
税額控除を受けるために、従業員の給与を上げて、その結果経営を圧迫することになれば本末転倒です。そうならないために、中長期的な経営計画や資金繰りに注意して導入するようにしましょう。
また、従業員の給与を上げるにしても、労働生産性を上げて利益につなげていく必要があります。ご紹介したF&M Clubの活用や、所得拡大促進税制を利用するなど、中長期を見据えた経営を行うことがなによりも大切です。