中小企業向け賃上げ促進税制が拡充!改正点と活用メリットを解説
令和6年度税制改正に伴い、賃上げ促進税制が改正されます。
中小企業は賃上げ幅の最大45%が法人税または所得税から税額控除されます。また赤字企業や法人税が少額の企業は最大5年間の繰り越し控除が可能です。
本記事は、賃上げ促進税制の改正内容と節税以外にもあるメリットについて解説します。
目次[非表示]
- 1.中小企業向け賃上げ促進税制とは(令和6年度税制改正)
- 1.1.賃上げ促進税制の概要
- 1.2.中小企業向け賃上げ促進税制の対象
- 1.3.賃上げ促進税制はいつから?
- 2.賃上げ促進税制の適用要件は3段階(令和6年度税制改正)
- 3.賃上げ促進税制(令和6年度税制改正)のそのほかの改正点
- 4.中小企業向け賃上げ促進税制を活用するメリット
- 4.1.節税
- 4.2.女性、若い従業員、人材採用におけるアピール
- 5.賃上げ促進税制を活用するときの注意点
- 5.1.従業員数の減少に注意
- 5.2.賃上げで社会保険料の負担が増加
- 5.3.賃上げを継続できる利益と資金繰りが大切
- 6.自社は賃上げしても大丈夫?F&M Clubにご相談ください
中小企業向け賃上げ促進税制とは(令和6年度税制改正)
- 賃上げ促進税制が改正されます。主な改正点は次のとおりです。
- 中小企業向けについては税額控除を最大45%へ拡充
- 中堅企業向けを新設
- 適用期間が3年間延長
- 控除しきれない額の繰り越し控除制度を導入
賃上げ促進税制の概要
賃上げ促進税制とは、『青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度』です。
【引用】中小企業向け「賃上げ促進税制」|中小企業庁
企業規模別に大企業・中堅企業・中小企業向けの3つがあり、適用条件や控除率が異なります。
中小企業の場合、税額控除率は最大45%、控除上限額は当期の法人税額の20%までです。
今回の令和6年度税制改正後と改正前を比較すると次のとおりとなります。
【引用】令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について(2023年12月)|経済産業省
中小企業向け賃上げ促進税制の対象
賃上げ促進税制において中小企業向けの対象となる条件は主に次の3つです。
- 青色申告している法人であること
- 資本金1億円以下であること
- 個人事業主の場合は従業員数1,000名以下であること
資本金が1億円超の法人で従業員数2,000名以下の場合は中堅企業となります。
【引用】令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(2023年12月時点版)|経済産業省
賃上げ促進税制はいつから?
賃上げ促進税制の開始は、2024年4月1日以降に開始する事業年度からです。適用期限である2027年3月31日までに開始する各事業年度が対象となります。
個人事業主の場合は、2025年から2027年までの各年が対象となります。
賃上げ促進税制の適用要件は3段階(令和6年度税制改正)
賃上げ促進税制の税額控除は3段階です。
中小企業向け賃上げ税制による税額控除率は、必須要件を満たす場合15%または30%、上乗せ要件1を満たす場合は加えて10%、上乗せ要件2を満たす場合は加えて5%となり、最大で45%の税額控除が可能です。
【引用】令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(2023年12月時点版)|経済産業省
必須要件
全雇用者の給与等支給額が前年比1.5%以上増加した場合は税額控除率15%、前年比2.5%以上増加した場合は税額控除率が30%となります。
全雇用者とはパートタイム、アルバイトなどを含み、法人の取締役や個人事業主の親族などは除かれます。
給与等支給額の範囲は、令和4年度税制改正時の定義によると次の支給が対象となります。退職手当は含まれません。
- 給料、俸給、賃金、歳費
- 賞与(決算賞与を含む)
- 通勤手当、残業手当、職務手当など
【引用】中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(2022年12月27日更新版)|中小企業庁
【引用】中小企業向け賃上げ促進税制 よくあるご質問Q&A(2022年12月27日更新版)|中小企業庁
上乗せ要件1
必須要件を満たしたうえで、上乗せ要件1の条件を満たすと税額控除率が10%加算されます。
上乗せ要件1とは、従業員が業務において必要となる技術や知識を習得させるために支出した教育訓練費用が、前年よりも5%以上増加することです。
ただし、教育訓練費の支出額がその事業年度の全雇用者給与等支給総額の0.05%以上の場合に限られます。教育訓練費が少額の場合は注意が必要です。
上乗せ要件2
必須要件を満たしたうえで、『くるみん』または『えるぼし(2段階目以上)』の認定を受けている企業は税額控除率が5%加算されます。
賃上げ促進税制(令和6年度税制改正)のそのほかの改正点
令和6年度税制改正による賃上げ税制の主な改正点は、中堅企業向けの新設と繰り越し控除制度の導入です。
中堅企業向け賃上げ促進税制が新設
令和6年度税制改正により、中堅企業向けが新設されました。資本金1億円超の企業が該当します。
中堅企業向けは改正前の大企業向けよりも要件が緩和されています。
中小企業は控除し切れない額を5年間、繰越控除できます
中小企業が賃上げを実施した年度に控除しきれなかった控除額を最大5年間繰越控除できる制度が新設されました。
赤字となった事業年度、または法人税額が少なく税額控除額未満となった事業年度については、翌期以降に繰り越して税額控除を受けることができます。ただし、繰り越し控除する事業年度の給与等支給額は前年より増えていることが条件です。
【参考】令和6年度税制改正の大綱|総務省
【引用】令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(2023年12月時点版)|経済産業省
中小企業向け賃上げ促進税制を活用するメリット
賃上げ額の一部が税額控除される賃上げ促進税制を活用するメリットをまとめると次のとおりです。
節税
賃上げ分の人件費は損金算入されるため、黒字の企業は法人税を約30%軽減することができます。加えて賃上げ促進税制を最大の45%活用した場合は、賃上げ額の約75%が節税できることとなります。結果として賃上げによる実質的な費用の増加は25%で済むこととなるイメージです。
賃上げ税制を適用した場合のイメージは次のとおりです。
賃上げ前 |
賃上げ後 |
賃上げ前後でのお金の増減 |
|
人件費 |
1,000 |
1,200 |
-200 |
税引き前利益 |
3,000 |
2,800 |
|
税率 |
30.0% |
30.0% |
|
税額控除前の法人税の額(①) |
900 |
840 |
+60 |
賃上げ税制の税額控除率 |
45.0% |
||
賃上げ税制による税額控除の額(②) |
90 |
||
法人税の20%相当額(③) |
180 |
168 |
|
税額控除可能額(④=②と③のうち小さい額) |
90 |
||
税額控除後の法人税の額(①-④) |
750 |
+90 |
|
差引の実質負担額 |
-50 |
上記の例では、賃上げでことが200増加しますが、賃上げ分の利益が減り、税金も減ります。加えて税額控除があるため、賃上げ幅の多くが税金の減少という形を通じて負担が減ることとなります。
また赤字や法人税が少ない事業年度は、使いきれなかった税額控除を翌期以降に繰り越すことで節税メリットがあります。
賃上げ促進税制による税額控除は、その事業年度の法人税額の20%までとなっている点に注意しましょう。
女性、若い従業員、人材採用におけるアピール
賃上げ促進税制の上乗せ要件である教育訓練費の増加は、従業員のスキルアップにつながります。
また上乗せ要件である『くるみん』『えるぼし』の認定は、女性や子育て世代の若い従業員が働きやすい職場環境である企業として『一般事業主行動計画公表サイト』で公開されるため、求職者へ自社の働きやすさをアピールすることができます。
賃上げ促進税制を活用するときの注意点
賃上げ促進税制は節税などのメリットがある税制優遇措置ですが、活用にあたっての注意点があります。主な注意点は次のとおりです。
従業員数の減少に注意
給与等支給額の増加は全雇用者の合計で計算します。賃上げしたものの離職者が多く、給与等支給総額が減少した場合は要件を満たさないこととなります。
賃上げで社会保険料の負担が増加
賃上げに伴い、会社が負担する社会保険料も増加することに注意が必要です。
賃上げを継続できる利益と資金繰りが大切
2024年も中小企業の多くが賃上げを計画しており、賃上げ率は平均で2.58%、赤字の企業においても平均2.19%の賃上げ計画となっています。
【引用】中小企業の賃上げの動向について(2024年1月30日)|商工組合中央金庫
一度引き上げた給与水準を引き下げることは難しく、給与を引き下げた場合は従業員の離職につながる可能性があります。
引き上げた賃金水準を維持できるよう、利益を確保できる企業体質への転換や、賃金支払を問題なくおこなえる資金繰りが重要となります。
自社は賃上げしても大丈夫?F&M Clubにご相談ください
賃上げ税制を活用することで、人件費の増加による負担を軽減しながら賃上げと従業員のスキルアップを図ることが可能です。
ただし賃上げは長期的に企業の固定費を上昇させることとなるため、自社の収益力の向上とあわせた慎重な検討が必要です。
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