中小企業における社員の給料の決め方は?計算方法とポイントを解説
10月から最低賃金が引き上げられます。また2025年春闘での賃上げが予測されているなど、人件費の上昇が止まらない中、社員の給料をどのように決めるか、給料の財源をどうするか悩む経営者も多いでしょう。
本記事では、社員の給料の決め方や自社における適正な人件費水準の考え方について解説します。
目次[非表示]
- 1.一般的な給料の構成
- 1.1.給料の構成
- 1.2.社員の給料のわかりやすい決め方
- 2.基本給を決めるときの考え方
- 3.基本給を設計するときの5つのSTEP
- 3.1.STEP1:人事戦略(賃金ポリシー)を決める
- 3.2.STEP2:基本給の要素を決める
- 3.3.STEP3:基本給の水準を決定する
- 3.4.STEP4:等級による差と賃金レンジ(上限と下限)を決める
- 3.5.STEP5:昇給の条件を決める
- 4.賞与を決めるステップ
- 5.人件費はいくらが適正?決算から見る5つの方法
- 5.1.人件費率
- 5.2.1名あたり売上高(または付加価値額)
- 5.3.1名あたり利益
- 5.4.労働分配率
- 5.5.人時生産性(人時あたり利益)
- 6.社員の給料を決定するときのポイント
- 7.人事労務管理のお悩み事はF&M Clubがサポート
一般的な給料の構成
多くの企業は複数の内容によって社員の給料を構成しています。一般的な給料構成は次のとおりです。
給料の構成
給料の主な構成は次のとおりです。
- 基本給:所定労働時間の勤務に対して支払う給料です。
- 職務給:業務内容や責任の重さに応じて支払う給料です。役職手当などが該当します。
- 能力給:社員のスキルなどに応じた給料です。例として専門職手当などがあります。
- 賞与:業績を還元する給料です。年2回など、回数や金額はさまざまです。
- 手当:企業が任意に定める条件を満たす社員へ支給します。家族手当などが該当します。
- インセンティブ:成績の達成状況に応じた給料です。成果給として単独で支給する場合のほか、賞与に加味する方法などがあります。
社員の給料のわかりやすい決め方
社員の給料を決定する方法は、シンプルであるほど企業と社員の双方にとってわかりやすく、運用しやすくなります。
社員の給料を決める際に悩んだ時は「基本給+(導入企業が多い種類の)手当+評価給」の合計額とする方法がおすすめです。
年齢やスキル、役職、人事評価などは評価給で加算し、評価給は、自社が重視する要素に応じてメリハリをつけます。例えば①評価、②役職、③スキル、④勤続年数について、それぞれの項目でポイントをつけて加点する方式などがあります。
基本給を決めるときの考え方
基本給を決める代表的な構成要素は「社員の年齢、勤続年数」「役割、役職」「スキル、能力」「成果」の4つであり、重視する要素に応じて4つの考え方に分類されます。4つの考え方にはそれぞれメリットデメリットがあります。
- 年功給
社員の学歴や年齢、勤続年数などを重視した方法です。
(メリット)
社員にとっては安定的な昇給が見込めるため、定着を期待できます。
(デメリット)
個人のスキルや成果による昇給が見込みにくいため、保守的となる可能性があり、特に若い世代を中心にモチベーションがあがらない可能性があります。
- 職務給
社員が従事する仕事に応じて給料を決める考え方です。社員の業務の内容、役職に応じた責任の大きさ、成果に応じて給料を決定します。
(メリット)
役職の重要さ、責任の重さ、成果を反映できます。
(デメリット)
成果が上がらない社員のモチベーションが低下する可能性があり、ローテーションをおこないにくくなります。
- 職能給
社員の能力やスキルを重視した給料の決め方です。例えば「専門的な技術が求められる業務の担当者は一般社員よりも高い基本給となる」などです。
(メリット)
社員の専門的な技術や経験に報いることができます。
(デメリット)
スキルや経験を公平に評価することが難しいなど、運用面でハードルが高くなります。
- 組み合わせ
年功給に職務給・職能給を組み合わせる方法です。勤続年数に担当職務や能力などの要素を考慮して基本給を決定します。
(メリット)
さまざまな人材に対応しやすくなります。
(デメリット)
評価の要素が増えるため、評価方法や運用が複雑となる可能性があります。
基本給を設計するときの5つのSTEP
基本給を決めるときは、次の5つのSTEPでおこないます。
STEP1:人事戦略(賃金ポリシー)を決める
賃金の基本的な方針を決定します。「安定的な年功給とする」、「成果に応じて重点的に配分する」、またはこれらの「中間的なものする」などです。
STEP2:基本給の要素を決める
基本給の代表的な要素は社員の年齢、勤続年数、能力、役割、成果などです。職能を重視する場合は能力を、職務を重視する場合は役割と成果を重視するなど、自社の賃金ポリシーに応じて重点を決めます。
STEP3:基本給の水準を決定する
世間一般や地域での相場、業界の平均などを考慮し、基本給の水準を決めます。
新卒採用している企業であれば、初任給からスタートし今後の昇給を考慮して給料水準を決定するとわかりやすいです。
STEP4:等級による差と賃金レンジ(上限と下限)を決める
賃金レンジとは、給料の上限額と下限額の金額差のことです。一般的に等級(役職)ごとに基本給を決定するため、それぞれの等級ごとに上限額と下限額を設けます。
このときに注意が必要な点は等級ごとの差です。等級ごとに賃金レンジ同士が近いと年功型となり、賃金レンジの差が大きいと格差をつけやすく、実力主義的となります。
STEP5:昇給の条件を決める
昇給する条件を決定します。主な昇給条件は次の3つです。
- 定期昇給:社員における安定感を重視した方法
- ゾーン式昇給:等級ごとの賃金の幅の範囲内で、成果を考慮して昇給する方法
- 年棒制:毎年の成果に応じて年棒額を決める方法
賞与を決めるステップ
賞与は業績に連動した給料ですが、社員からみると固定的な収入と捉えがちです。基本給とともに社員にとっては重視する要素である「賞与」について定めるステップは下記のとおりです。
STEP1:賞与を決めるときの3パターン
賞与の支給額を決める代表的な3つのパターンは次のとおりです。
- 月給×支給月数
給料の何か月分と決める方法です。
計算しやすく、社員からもわかりやすい方法です。
- 利益×%
企業の業績に連動する決定方法です。
例えば支給額控除前の利益額の30%を賞与として配分するなどです。
- 固定額で決める
夏の賞与は一律10万円とするなどです。
STEP2:社員ごとの配分ルールを決める
賞与の決定方法を月給ベースとした場合、基本給などとの合計額が過大ではないか、確認します。
利益に応じて賞与を支給する場合は、「均等に賞与を支給する」、「役職に応じて段階的とする」、「成果や評価に応じて配分する」など、総額をどのような基準で各社員へ配分するか慎重に検討します。
STEP3:夏冬と決算賞与のバランスを決める
中小企業の多くは夏と冬の年2回の賞与としています。「季節に応じて賞与の多寡を変える」、あるいは「いずれかの支給を多めとする」などを決定します。
また、決算時の業績に応じて決算賞与を支給する場合は、「夏と冬の賞与を抑えて決算賞与とする」、「決算賞与は目標利益を超過した場合に限る」など、事前に支給方針を決めておきましょう。
賞与支給月数の平均は統計が公表されており、厚生労働省が発表する毎月勤労統計調査によると、2023年の夏・冬の賞与支給月数は調査産業平均で年2.06か月分(夏1.01か月分、冬1.05か月分)となっています。
夏の賞与支給月数 |
冬の賞与支給月数 |
夏・冬の計 |
|
2021年 |
0.99か月分 |
1.04か月分 |
2.03か月分 |
2022年 |
1.00か月分 |
1.04か月分 |
2.04か月分 |
2023年 |
1.01か月分 |
1.05か月分 |
2.06か月分 |
【引用】毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要|厚生労働省
人件費はいくらが適正?決算から見る5つの方法
自社における適正な人件費はいくらであるか、気になる経営者も多いでしょう。自社における適正な人件費の水準を考えるヒントは以下のとおりです。
人件費率
【計算式】
人件費率(%)=人件費÷売上高×100 |
最も簡便な方法が売上高に対する人件費の比率です。業種や業態、兼業の有無などにより異なるため、参考として利用します。
この比率が低いほど、より少ない人件費で効率的に売上をあげていることとなりますが、1名あたりの給料水準が低すぎると採用難や離職率の上昇を招きやすくなります。
1名あたり売上高(または付加価値額)
【計算式】
1名あたり売上高(または付加価値額)=売上高(または付加価値)÷社員数 |
社員1名あたりの売上高あるいは付加価値をみることも重要です。この数値が高いほど少ない社員数で効率的に売上をあげている(または付加価値を確保している)こととなります。
参考として、中小企業庁が発表した2022年版中小企業白書によると、中小企業における社員1名あたりの付加価値は以下のとおりです。
業種 |
1名あたり付加価値額 |
|
中小企業 |
中堅企業 |
|
建築業 |
675万円 |
950万円 |
製造業 |
520万円 |
731万円 |
情報通信業 |
563万円 |
857万円 |
運輸業、郵便業 |
520万円 |
735万円 |
卸売業 |
624万円 |
943万円 |
小売業 |
475万円 |
622万円 |
宿泊業、飲食サービス業 |
186万円 |
175万円 |
生活関連サービス業、娯楽業 |
332万円 |
355万円 |
※付加価値額
=営業利益-支払利息+人件費(役員報酬、役員賞与、給料、従業員賞与、福利厚生費の合計)+支払利息+地代・家賃+租税公課
1名あたり利益
【計算式】
1名あたり利益=利益÷社員数 |
社員1名あたりの利益が高いほど社員1名あたりで効率よく利益を確保していることとなります。
労働分配率
【計算式】
労働分配率(%)=総人件費÷付加価値×100 |
人件費の適正性を確認する代表的な指標です。付加価値の計算式は統計データにより異なるため、比較する前に確認しておきましょう。
労働分配率は付加価値に占める総人件費の割合を示し、同業種で比較します。経営的には、労働分配率が低いほうが良く、より利益を社内に留保できていることとなります。
労働分配率が同業種より高い場合、別の指標と組み合わせて原因を推定します。
- 労働分配率が高い+1名あたり人件費が高い
給与水準や役員報酬が高い、あるいは残業時間が多い可能性があります。
- 労働分配率が高い+付加価値率が低い
コスト上昇などで採算性が低下している可能性があります。
- 労働分配率が高い+1名あたり付加価値額が低い
同業者よりも社員数が多い可能性があります。直接部門の社員数が多い(生産工程の自動化などが遅れている)、間接部門の社員数が多い(バックオフィス部門の生産性が低い)などの可能性があります。
参考として、中小企業庁が発表している労働分配率は中小企業平均で80%が目安です。
人時生産性(人時あたり利益)
【計算式】
付加価値(または売上、利益など)÷総勤務時間(社員数×勤務時間) |
社員1名1時間あたりの売上や利益のことです。この指標の数値が高いほど生産性が高いことを表します。この指標は同業比較が難しいため、自社における生産性の改善傾向を掴む場合に利用します。
設備投資で作業にかかる時間を削減するなど、人時生産性を向上させることで、売上を変えずに勤務時間を減らし、人件費を抑制することが見込めます。
社員の給料を決定するときのポイント
社員の給料を決めるときに主に注意する点は下記の6つです。
- 月給制でも最低賃金以上であること
月給制の社員についても、時給で換算した場合に最低賃金以上であることが必須です。
- 地域の相場、同業他社の給料水準と比較する
地域の給料水準は厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査」により確認できます。
【参考】2023年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
また国税庁が業種別、年齢別の平均給料を公開しているため参考となります。
【参考】平均給与|国税庁
- 就業規則の見直し
賃金を改定したときは就業規則などを変更し、労働基準監督署へ就業規則変更届を提出します。就業規則は労働トラブルに備えて記載する項目や文言にテクニックがあるため、専門家のアドバイスが有効です。
- 手当や福利厚生とバランスをとる
手当の支給内容や金額は、そのほか昼食代支給や保険加入などの福利厚生とあわせて過剰とならない水準を検討しましょう。
- 社会保険料の増加に注意
給料を高くすると社会保険料の企業負担額が増加することに注意しましょう。
- 人事評価と給料との関係を見直す
業績に応じた給料とする場合に注意したい点は、公平な評価方法と運用です。
社員が「結局、勤務年数で評価される」「上司の評価が不公平、恣意的」と考えるとうまく機能しない可能性があります。
人事労務管理のお悩み事はF&M Clubがサポート
最低賃金の引き上げなど人件費が上昇する状況が続くと予測されています。企業が成長していくために人材は不可欠ですが、売上や利益に対して人件費がかかりすぎている場合は経営を圧迫してしまいます。採用や離職を防ぐための賃上げは自社の体力を考慮し、慎重に決定しましょう。
給料体系の見直しとともに、より少ない人手で利益を確保するための生産性向上が欠かせません。
「自社の体力で適正な人件費はいくらであるか」「生産性を高めるための支援策はどれを活用できるか」などのお悩み事がある経営者様はF&M Clubへご相談ください。
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