就業規則のメリットとは?作成のポイントと活用法を解説
就業規則は、従業員数10名以上の企業について作成が義務づけられており、就業規則がない企業や内容が不十分な場合は、労務トラブルが発生する可能性が高くなります。
本記事では、就業規則を整備することで会社を守り成長させるポイントについて解説します。
目次[非表示]
- 1.就業規則の重要性とメリット
- 1.1.従業員を守る
- 1.2.労務トラブルから会社を守る
- 1.3.助成金の申請で就業規則が必要
- 1.4.会社が成長する
- 2.就業規則の内容・適用範囲・必要な手続き
- 2.1.従業員10名以上の事業場は就業規則の作成が法律で必要
- 2.2.就業規則の適用範囲
- 2.3.就業規則の絶対的必要記載事項とは
- 2.4.就業規則の作成と変更は届出義務があります
- 2.5.就業規則の不備は罰則
- 2.6.就業規則を変更するときの手続き
- 3.就業規則がない場合のデメリットとは?自社でも起こる労働トラブルの例
- 4.就業規則はテンプレートのみではリスクがあります
- 5.自社に合う就業規則の作成ポイント10選
- 5.1.労働法、最低賃金の改正にあわせる
- 5.2.マイカー通勤、リモートワークなどに対応
- 5.3.正社員とパートタイム従業員の待遇格差
- 5.4.副業・兼業
- 5.5.身元保証と住民票でトラブルを抑制
- 5.6.延長可能な試用期間で従業員を見極める
- 5.7.服務規程はあたり前のことも細かく記載
- 5.8.SNS、マイナンバー、個人情報の取り扱い
- 5.9.懲戒処分、損害賠償を規程へ明記
- 5.10.退職時の情報の取り扱い
- 6.会社と従業員を守る就業規則の整備はF&M Clubがサポート
就業規則の重要性とメリット
法的な義務以外に就業規則を作成・整備する理由は次のとおりです。
- 従業員をトラブルから守る
- 労務トラブルから会社を守る
- 助成金の申請時に必要
- 従業員の定着などにより会社の成長につながる
従業員を守る
賃金だけでなく、労働条件や休暇制度などが整備されている会社では、従業員が安心して働けます。
またハラスメント防止義務を盛り込むことで、ハラスメントや問題を起こす社員へ処分を下すことができるため、真面目に働く従業員を守り、公平さの維持につながります。
労務トラブルから会社を守る
労務トラブルの解決には、多額の金銭的負担が必要となることがあるため、労務トラブルの防止は経営の安定につながります。
厚生労働省が発表した総合労働相談件数によると、会社と従業員との労務トラブルは年間約125万件であり、15年連続で100万件を超えているといいます。
他社で起きた労務トラブルと同様のケースが自社においても発生する可能性があるため、他社の事例を教訓として、自社においても対策を講じることが大切です。
【参考】2022年度個別労働紛争解決制度の施行状況|厚生労働省
助成金の申請で就業規則が必要
雇用関係の助成金の多くは厚生労働省の管轄であり、申請時に就業規則の提出を求められることが多くあります。
会社が成長する
社員が定着し、助成金を受給することなどにより生産性を向上させ、賃上げなどに取り組む企業は従業員が定着しやすいです。定着率が高い企業は人が集まりやすく、会社の成長へとつながります。
就業規則の内容・適用範囲・必要な手続き
就業規則は、法律的に作成が義務づけられている企業と任意の企業があります。しかし、作成義務がない会社においても作成が望ましいでしょう。
就業規則の作成義務、記載すべき事項、そして変更時の主な手続きは次のとおりです。
従業員10名以上の事業場は就業規則の作成が法律で必要
就業規則の作成義務がある企業とは、常時10名以上の従業員がいる企業です。従業員数はパートタイムなど雇用形態にかかわらず、事業場単位で判断します。
したがって、従業員数10名未満の事業場が複数ある場合は、従業員数が10名以上であっても就業規則の作成は任意となります。
厚生労働省は就業規則の作成義務がない企業についても作成を奨励しています。職場のルールや労働条件を明確にすることで、従業員の誤解やトラブルを防止できるためです。
従業員数が10名人未満の企業が就業規則を作成した場合、作成した就業規則を適切に従業員へ周知することで、有効な就業規則となります。
就業規則の適用範囲
就業規則の対象となる従業員は、雇用条件を問わず、従業員すべてです。
雇用条件が異なる従業員がいる場合、従業員の形態ごとに就業規則を作成することが望ましいでしょう。就業規則が1種類のみである場合、パートタイム従業員などについても正社員向けの就業規則が適用されるためです。
就業規則の絶対的必要記載事項とは
就業規則には、必ず記載しなくてはならない事項があります。これを絶対的必要記載事項といい、次の事項を指します。
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③退職に関する事項(解雇の事由を含む)
就業規則の作成と変更は届出義務があります
従業員数10名以上の事業場は就業規則を作成する義務とともに、従業員へ周知する義務、そして労働基準監督署へ就業規則を届出する義務があり、就業規則を変更したときについても周知義務と届出義務があります。
就業規則の不備は罰則
就業規則の作成義務がある企業が作成や届出を怠った場合、30万円以下の罰金が科せられる場合もあります。就業規則を変更した場合についても、届出を忘れないようにしましょう。
就業規則の内容に不備がある場合、不備となっている部分については無効です。
また不備の内容によっては労働基準監督署からの是正勧告があり、是正勧告は行政指導ですが、勧告を無視した場合、書類送検となる可能性があります。
就業規則を変更するときの手続き
就業規則を変更するときの流れは次のとおりです。
①就業規則の変更内容を決定する
②変更内容について労働組合(ない場合は従業員の過半数の代表者)からの意見を聞く
③労働組合から就業規則意見書を提出してもらう
④就業規則(変更)届を作成する
⑤労働基準監督署へ次の書類を提出する
- 就業規則(変更)届
- 就業規則意見書
- 変更後の就業規則または変更部分と変更内容が明らかとなる書類(新旧対照表など)
就業規則(変更)届と就業規則意見書については定まった様式はありませんが、厚生労働省が公開している様式を参考にすることも可能です。
【参考】様式集|厚生労働省
就業規則がない場合のデメリットとは?自社でも起こる労働トラブルの例
就業規則がない場合の主なデメリットは次の6つです。
- 未払い賃金請求リスク
- 損害賠償リスク
- ハラスメント防止措置が不十分
- 問題社員へ懲戒処分を下せない
- 真面目な社員が離職する
- 助成金の申請ができない
就業規則がない、あるいは不十分な企業は、次のような労働トラブルが発生する可能性があります。
- パートタイム従業員への退職金支払いが発生
企業側はパートタイム従業員の退職金を想定していなかったが、勤務年数が長いパートタイム従業員から退職金の支払いを求められた。
パートタイム従業員用の就業規則がなかったため、正社員用の就業規則が適用され、退職金を支払うことになった。
- 問題社員への懲戒解雇が無効であると訴えられた
問題行動を改善しない従業員を解雇したところ、不当解雇だと主張された。
就業規則には解雇事由に関する基準を明記しておらず、裁判で争うことになった。
- ボーナス支給前に退職した元従業員からのボーナスの要求
賞与支給日より前に退職した元従業員から、在籍期間中のボーナスの支給を求められた。
就業規則では、賞与支給対象者について「支給日に在籍している従業員に限る」と明記していなかった。
就業規則はテンプレートのみではリスクがあります
就業規則のさまざまなテンプレートがインターネット上で公開されていますが、現行の法令に合っていない場合や、内容が不正確な場合があります。
安易にテンプレートを使用すると思わぬデメリットが生じる可能性があるため、注意が必要です。
厚生労働省のモデル就業規則などのテンプレート
公的なサイトとしては、厚生労働省がモデル就業規則、就業規則作成支援ツール、36協定届の作成支援ツールなどを無料で公開しています。
就業規則は自分で作成?ひな型のみのリスクやデメリット
一般的な就業規則のテンプレートを利用するだけでは、自社に合った就業規則とすることは難しいでしょう。また、専門的な観点が不十分なひな型を使用している場合、次のリスクやデメリットが発生する可能性があります。
- パートタイム従業員などの労働条件の違いに対応しきれず、トラブルが発生するリスク
- 問題社員対策などが不十分
- あいまいな文言が多く、解釈に違いが発生するリスク
自社の実態に即した就業規則とするためには、専門家への相談がおすすめです。
自社に合う就業規則の作成ポイント10選
自社の勤務形態や問題社員の増加などに対応できる就業規則の作成ポイントは以下のとおりです。
労働法、最低賃金の改正にあわせる
就業規則は定期的な見直しが必要であり、見落としやすい事項は「労働法の改正」と「最低賃金の改定」です。
労働法は不定期に改正されることがあるため、最新の労働法にあわせた就業規則の変更が必要と
なります。関連する主な法律は次のとおりです。
- 労働基準法
- 労働契約法
- 労働者災害補償保険法
- 労働組合法
- パートタイム・有期雇用労働法
- 育児介護休業法など
また地域別最低賃金の見直しにあわせて、自社の就業規則(賃金条件)を再確認しましょう。最低賃金の引き上げが続いているため、月給制の従業員の給料水準(時給)が最低賃金を下回っていることがあります。
マイカー通勤、リモートワークなどに対応
忘れがちなルール(規定)のひとつとして、マイカー通勤とリモートワーク(テレワーク)関連があげられます。
マイカー通勤は企業が使用者責任を問われる可能性があるため、次の事項を明らかにしておきましょう。
- マイカー通勤の許可制(更新制)
- 使用する範囲(通勤のみ、通勤および業務中の使用など)
- 任意保険加入義務の明記
- 費用負担の取り決め(ガソリン代、自動車保険料など)
- 事故発生時の報告義務、連絡方法
- 企業側の免責事項
リモートワークは管理監督者の目が届かないこともあり、慎重に検討した規定が必要です。主な検討事項は次のとおりです。
- 就業場所の定め(自宅のみ、自宅以外も可など)
- 労働時間の記録と管理方法
- 休憩時間や中抜け時間の取り扱い
- 通信費用、通信機器の費用負担
- 通信セキュリティの確保
- 顧客情報や個人情報の取り扱い
- 通勤手当の取り扱い(在宅勤務日の交通費は支給しないなど)
正社員とパートタイム従業員の待遇格差
正社員とパートタイム従業員との間で、職務や責任、配置転換の範囲などが異なる場合は、それぞれの労働条件と待遇に差異があることを明確化しましょう。
副業・兼業
従業員の副業や兼業を許可する会社が増えています。日本経済団体連合会の発表によると、企業全体のうち53.1%、従業員数100名未満の会社では31.6%が副業・兼業を認めています。
従業員の副業を禁止または解禁する場合ともに、就業規則に明記することでトラブルを抑制することが可能です。
A) 副業・兼業を禁止する場合
全面禁止とするためには、業務への影響や情報漏洩の危険性などが必要といわれています。
B) 副業・兼業を許可制とする場合
厚生労働省のモデル就業規則の記載(届出制の場合)を参考に、許可内容や申請方法などを整備します。違反した場合の懲戒処分についても定めておきましょう。
C) 副業・兼業を届出制とする場合
モデル就業規則の文言が参考となります。
【引用】モデル就業規則の改正案(副業・兼業部分)|厚生労働省
副業を認める場合、労働時間の通算や安全配慮義務などの検討が必要です。
トラブルを回避するためには、副業の雇用主・就業場所・就業時間・業務内容などを会社側においても把握するとともに、自社における取り扱いについて専門家へ相談することがおすすめです。
身元保証と住民票でトラブルを抑制
採用時の条件として、身元保証書や住民票の提出を求めることを盛り込みましょう。
従業員が突然退職した場合に、貸与備品の回収や社員寮の返還時のトラブルを抑制する効果があります。
延長可能な試用期間で従業員を見極める
試用期間を延長できる規定を含めることがおすすめです。
一般的に採用後3か月間の試用期間を経て正社員へ登用される場合が多いですが、試用期間中に人物像(人間性)を見極めることが難しいケースがあるためです。
服務規程はあたり前のことも細かく記載
服務規程は細かい記載が望ましいでしょう。例えば業務中の飲酒禁止、安全のためのヘルメット着用などです。当然と思われることであっても、服務規程に記載していない場合、従業員へ強制することが難しくなり、企業側がリスクを負うこととなってしまいます。
SNS、マイナンバー、個人情報の取り扱い
従業員がSNSで会社や仕事の内容を発信しないように定めておきましょう。流言による影響を避けるためです。
同時に業務上知り得た顧客情報、個人情報などを職場外へ持ち出さない、発信しないことを明記します。マイナンバーについても厳しく管理することを明記し、従業員へ周知しましょう。
懲戒処分、損害賠償を規程へ明記
懲戒処分や損害賠償に関する定めは必須といえます。
懲戒処分については、記載内容が不明瞭であると労務トラブルが起きやすくなるため、処分基準や処分内容を明確に定めておきましょう。
また、損害賠償を求める場合があるということも、就業規則に明記することで、トラブル発生の抑止を期待できます。
退職時の情報の取り扱い
退職時に自社や顧客の情報を漏らさない秘密保持契約を締結する義務を明記しましょう。退職時はトラブルが発生しやすいタイミングであるためです。
会社と従業員を守る就業規則の整備はF&M Clubがサポート
就業規則の整備は、真面目に業務に取り組む従業員を守ると同時に、労務トラブルから会社も守り、会社を成長させるために必須といえます。
就業規則は作成した後も定期的に見直しをおこない、必要に応じて改正していくことで、より自社と従業員に即した内容となります。
自社の就業規則が法律や自社の実態に即した適切な内容であるのか不安を抱えている場合は、専門家に確認してもらいましょう。
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