人材開発支援助成金の不正受給は約3割!不正事例と自社が後悔しない対策とは
会計検査院は人材開発支援助成金について約1億円の不正受給があったと公表し、支給額の返還や制度の見直しを要求しました。今後は受給後の報告や管理について厳格化される可能性があるとみられています。
本記事では不正受給の事例と不正となった場合のリスク、不正とならないための対策を解説します。
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人材開発支援助成金の約3割!1億円が不正受給との指摘
会計検査院は10月9日、人材開発支援助成金の支給状況についての検査結果を公表し、検査対象の約3割にあたる32事業主(83件)、1億735万円が不正受給であると指摘しました。
また会計検査院は上記のうち一部の事業主について助成金の返還を求めるとともに、不正受給を防ぐ対策をとるよう、厚生労働省へ要求しています。
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金(リスキリング助成金)とは、企業が従業員に教育訓練を受けさせた場合の費用や賃金の一部を国が助成する制度です。
企業が教育訓練費用を全額負担することが条件とされており、教育訓練費用の30%から100%、教育訓練にかかった時間について1名1時間あたり380円から960円が助成される制度です。(助成コースなどにより異なります)
人材開発支援助成金は従業員の教育訓練が幅広く対象となるため、2019年度から2023年度までの支給決定件数は70,175件、支給総額は540億9,923万余円と人気の助成金です。
【引用】人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(2024年11月5日~)|厚生労働省
人材開発支援助成金の不正受給の概要
会計検査院とは、国や地方など行政機関の支出が適正であるかを検査する公的な機関です。今回、会計検査院が人材開発支援助成金の不正受給を指摘した内容は次のとおりです。
【人材開発支援助成金の不正受給】
検査方法 |
会計検査院による実地検査 |
検査対象 |
2019年度から2023年度の支給決定のうち |
不正受給 |
32事業者(83件)(件数で34.0%)、支給額合計1億735万円(38.1%) |
不正事例 |
教育訓練機関への費用の支払いと近接した時期に、教育訓練機関から受講した企業に対して入金があり、実質的に企業が全額負担していない |
今回の検査結果における不正受給の割合は調査件数のうち3割に達しており、会計検査院は一部の不正受給についての全額返還、経費負担の取り扱い明確化、教育訓練期間から企業への入金確認などマニュアルの見直しを厚生労働省へ要求しています。
【参考】会計検査院法第34条の規定による処置要求および同法第36条の規定による処置要求|会計検査院
人材開発支援助成金の不正事例“実質無料”のからくり
人材開発支援助成金の不正受給であると指摘された32事業者のケースは、従業員の教育訓練風景の撮影や感想文の提出などで高額の謝礼を受け取る“キックバック”により、企業が自己負担なしで訓練を受ける仕組みです。
具体的な内容は下記の<事例>のとおりです。
会計検査院は、こうしたキックバックやポイントバックによる実質無料の仕組みが助成金の要件である事業主の全額負担を満たさず、不正受給であると指摘しています。
また32事業者のうち2事業者は何もせず研修実施機関から入金されており、助成金の返還が要求されました。
【引用】会計検査院法第34条の規定による処置要求および同法第36条の規定による処置要求|会計検査院
人材開発支援助成金の取り扱いが改正【2024年11月】
上記の検査結果を受けて、人材開発支援助成金における教育訓練経費の取り扱いなどが改正されました。この改正は職業訓練実施計画の届け出が2024年11月5日以降の申請から適用されます。
今回の主な改正事項は次の3点です。
- 訓練経費負担の取り扱いを明確に記載
取り扱い内容としては従前と変わりありません。教育訓練機関からの企業への金銭入金だけでなく、費用の相殺や支払いの免除、融資などがなされた場合も助成金が不支給となることが明記されました。
- 計画届と計画変更届の様式変更
事業場外でOFF-JTを受講する場合、『教育訓練機関と訓練契約を締結することとなった経緯』を記載することとなりました。
- 企業側の負担を軽減するなどの資料を提供された場合の報告
教育訓練機関等から訓練費用の負担軽減に係る説明資料(受講案内を除く)を提供された場合は、当該資料の提出が必要となります。
【引用】人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(2024年11月5日~)|厚生労働省
【参考】人材開発支援助成金における訓練経費の負担の取扱いを令和6年11月5日から明確化しました|厚生労働省
不支給だけではない!人材開発支援助成金の不正受給に関する罰則とデメリット
上記の不正受給事例と類似の申請については、今後、該当する企業に対して会計検査院の検査や労働局の調査が入る可能性があります。
もしも不正受給と判定されると当該助成金が不支給となり返還を求められるだけでなく、罰則やさまざまなデメリットが企業に生じます。
人材開発支援助成金を不正受給したときの罰則
人材開発支援助成金を不正受給した場合、下記の罰則が科せられることがあります。
- 事業主名、代表者名、役員名などの公表
- 関与した申請代理人名、教育訓練機関名の公表
- 不正受給した助成金の返還
- 不正受給額の2割に相当する加算額の納付
- 延滞金の支払い
- 不正受給と判定された日から5年間、雇用関係助成金の不支給
- 虚偽の申請や不正行為が悪質な場合、詐欺罪などの刑事訴追
【引用】人材開発支援助成金における訓練経費の負担の取扱いを令和6年11月5日から明確化しました|厚生労働省
補助金・助成金の不正受給は信用低下などのデメリット
上記の罰則以外にも、補助金や助成金を不正受給した場合のデメリットがあります。
- 企業名や代表者名が公表され、信用力が低下する
- 顧客からの買い控えが発生し、業績が悪化する
- 法令に違反した企業として金融機関からの評価が下がり、資金調達に悪影響を及ぼす可能性がある
-
補助金の指定業者(IT補助金における導入支援業者など)から除外される
補助金の申請・受給に不安を感じるときは信頼できる専門家を活用
「自社で受給している補助金や助成金が不適正かもしれない」など、不安を感じる場合は、専門家や事務局へ相談しましょう。
また、受給後に要件を満たさないことが判明した場合、自己申告書や誓約書などを提出して返還することも検討します。助成金を返還することで、不適正であっても不正とはならない可能性があるためです。
補助金・助成金における不正リスクを避けるためには、専門家から助言をもらうなど、次のような対策がおすすめです。
- 要項や制度趣旨は自社で確認する
- 社外の「労働局に確認した」などを鵜呑みにせず、信頼できる専門家へ自ら相談する
- 受給後の報告、受給対象物件を処分した場合の手続きなどを理解しておく
- 書類やデータの改ざん、修正、隠ぺいはおこなわない
- 「甘言にのってしまった」など、不安を感じるときは専門家や事務局と相談する
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補助金や助成金は制度が複雑であり、受給後の報告や支給対象物件の管理も必要であるため、忙しい経営者にとってすべてを完璧に確認・管理することは大きな負担となります。
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