法人向け「企業版ふるさと納税」とは?メリット・デメリットを解説
「企業版ふるさと納税」は、法人税の軽減効果が見込めます。一方で、個人のふるさと納税とは異なり、寄附金を納めても返礼品や経済的な利益を享受できません。
そのため、企業版ふるさと納税の利用を検討している方は、メリット・デメリットを把握し、自社にどのような利益をもたらすのかを把握しておく必要があります。
本記事では、企業版ふるさと納税の概要からメリット・デメリット、具体的な手続き方法まで解説します。
目次[非表示]
- 1.企業版ふるさと納税とは?法人と個人の違い
- 1.1.法人税などから「最大9割」を税額控除
- 1.2.令和6年度までの期間限定の特例措置
- 2.企業版ふるさと納税のメリット5つ
- 2.1.法人税などの負担軽減が見込める
- 2.2.新規事業を展開できる
- 2.3.企業のイメージアップが期待できる
- 2.4.地方公共団体と関係性を築ける
- 2.5.人材育成の機会を得られる
- 3.企業版ふるさと納税のデメリット3つ
- 3.1.企業からのキャッシュアウトが伴う
- 3.2.返礼品の受け取りや経済的な利益の享受ができない
- 3.3.税額控除の対象に制限がある
- 4.企業版ふるさと納税で法人税などが控除される条件
- 5.企業版ふるさと納税の手続き方法
- 5.1.1.寄附先を選択する
- 5.2.2.各自治体の窓口に問い合わせる
- 5.3.3.必要書類を提出し寄附をおこなう
- 5.4.4.法人税および地方税の申告時に別表を添付する
- 6.企業版ふるさと納税の事例
- 7.まとめ
企業版ふるさと納税とは?法人と個人の違い
企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)とは、企業が地方公共団体の地方創生プロジェクトに寄附を行った場合、「法人関係税から税額控除される」制度のことです。
内閣府地方創生推進事務局によると、令和3年度の寄附金額は約225.7億円、件数は4,922件です。令和2年度の約2倍の市場規模を誇り、今後も多くの法人がふるさと納税制度を活用することが予想されます。
企業版ふるさと納税制度は、地方の課題に対して企業が社会的責任を果たすことで、持続可能な社会を目指すとしています。そのため個人のふるさと納税とは異なり、寄附先から返礼品や経済的な利益を受け取れません。
また個人は所得税や住民税から控除されますが、企業は「法人住民税」「法人事業税」「法人税」から控除されます。
【参考】地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の令和3年度寄附実績について(概要)|地方創生推進事務局
法人税などから「最大9割」を税額控除
企業版ふるさと納税を活用すれば、寄附した金額の最大9割を法人関係税などから控除できます。具体的な内訳は以下の通りです。
- 法人住民税:寄附額の4割を税額控除。(法人住民税法人税割額の20%が上限)
- 法人税:法人住民税で4割に達しない場合、その残額を税額控除。ただし、寄附額の1割を限度。(法人税額の5%が上限)
- 法人事業税:寄附額の2割を税額控除。(法人事業税額の20%が上限)
【引用】企業版ふるさと納税リーフレット|内閣府地方創生推進事務局
たとえば、企業が1,000万円寄附すると、最大約900万円の税額控除となる可能性があります。
令和6年度までの期間限定の特例措置
企業版ふるさと納税は、令和6年度までの期間限定の特例措置としています。
令和2年度の税制改正により5年間延長されました。令和6年度以降については、今後の状況を踏まえて検討されるでしょう。
下記の記事では、令和5年度の税制改正要望について詳しく解説しています。あわせてお読みください。
企業版ふるさと納税のメリット5つ
企業版ふるさと納税のメリットとして、主に以下5つが考えられます。
- 法人税などの負担軽減が見込める
- 新規事業を展開できる
- 企業のイメージアップが期待できる
- 地方公共団体と関係性を築ける
-
人材育成の機会を得られる
法人税などの負担軽減が見込める
企業がふるさと納税を利用する大きなメリットは、税額負担を軽減できる点です。法人関係税などから最大9割を控除できるため、企業の節税対策につながります。
たとえば、企業版ふるさと納税を活用した場合の税控除は「最大6割の税額控除」と「約3割の損金算入」となります。そのため、企業が負担する法人関係税は最小1割です。
新規事業を展開できる
法人が企業版ふるさと納税を利用すれば、寄附先の地方公共団体や地域住民と協働し、地域の課題解決に取り組めます。
たとえば、IT製品を提供する企業の場合、ふるさと納税により寄附を行うことで、地域のDX・デジタル化を支援するケースがあります。
プロジェクトに取り組みながら、地域団体や住民から生の声を聴けるため、自社事業に関連する新しいニーズや市場の発見につながるでしょう。
【参考】令和3年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」受賞者決定|内閣府地方創生推進事務局
企業のイメージアップが期待できる
企業版ふるさと納税で寄附をおこなうことで、法人企業としてのイメージアップや認知度拡大の効果が期待できる点もメリットです。
寄附先の地方公共団体や地域住民からは、社会貢献や地方創生の活動へ積極的に参画する企業として評価されます。さらに政府から高い評価を得られれば、「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞する可能性があります。
また地方創生に貢献した優秀な事例を広く社会に発信されることで、他の法人企業へのモデルケースとなるなど、ふるさと納税を活用すれば自社のブランド力や信頼性が高まるでしょう。
地方公共団体と関係性を築ける
企業版ふるさと納税を利用することで、地方公共団体と信頼関係やパートナーシップを築くことにつながります。
寄附先の地方公共団体は、企業の寄附に対して感謝の気持ちを示し、寄附者の情報や寄附内容を公表することが一般的です。また、寄附者の要望に応じて、寄附金の使途や効果について報告することもあります。
これらのやりとりを通じて、法人と地方公共団体は良好な関係性を築けるでしょう。地域団体や住民と信頼関係を強化し交流を深めれば、地域の特性や課題の理解につながります。
地方公共団体との交流で得た情報をもとに、適切なアイデア・施策を生み出し実行すれば、環境の保護や地域社会の改善などに寄与する企業として活動できます。
人材育成の機会を得られる
企業版ふるさと納税には人材派遣型が存在します。人材派遣型とは、企業からふるさと納税として寄附があった際に、寄附先の地域に当該企業の人材を派遣する制度です。
人材派遣型の企業版ふるさと納税を利用すれば、企業は自社の人材を地方創生の現場に派遣できます。協働や異業種交流を通じて、社員のスキルアップや視野拡大、モチベーション向上などの効果が期待されるでしょう。
上記のように、企業版ふるさと納税を活用することで様々なメリットが得られます。
しかし、弊社が中小企業を支援するなかで気づいたことは、大企業に比べて補助金などの支援策を最大限に活用できていないということです。
大企業レベルで支援策を活用する方法を解説しているので、ぜひこちらからご覧ください。
企業版ふるさと納税のデメリット3つ
企業版ふるさと納税のデメリットとして、以下3つがあげられます。
- 企業からのキャッシュアウトが伴う
- 返礼品の受け取りや経済的利益の享受ができない
-
税額控除の対象に制限がある
企業からのキャッシュアウトが伴う
企業版ふるさと納税を利用するには、寄付金を企業のキャッシュから支出する必要があるため、企業の資金繰りや予算管理に影響を与える可能性があります。
一方で寄付金は税額控除の対象となるため、法人関係税の負担を抑えられます。また寄付金は10万円以上から自由に選択でき、企業の規模や予算に応じて柔軟に寄付活動をおこなえることを把握しておきましょう。
返礼品の受け取りや経済的な利益の享受ができない
企業版ふるさと納税では、個人のふるさと納税とは異なり、寄附先から返礼品や経済的な利益を受け取ることができません。
地方創生や社会貢献という非経済的な価値に重きを置くことで、公平性や透明性を確保するためです。
そのため企業版ふるさと納税を通じて、自社のビジョンやミッションに沿った寄附活動をおこなうことで、一貫した企業活動やブランド力の向上につながります。
税額控除の対象に制限がある
企業版ふるさと納税で税額控除を受けるためには、国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して寄附する必要があります。地方創生に資する事業に対して優遇することで、地方公共団体や地域住民の自助努力を促すためです。
一方、税額控除の対象となる地方公共団体や地方創生プロジェクトは多様であるうえに、平成28年度に創設されてから令和3年度までの寄附企業数は8,564件などの実績があります。多くの分野やテーマが存在するため、自社に適した事業を見つけられるでしょう。
【引用】地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の令和3年度寄附実績について(概要)p2|内閣府地方創生推進事務局
企業版ふるさと納税で法人税などが控除される条件
企業版ふるさと納税で法人関係税が控除される条件は、主に以下の通りです。
- 寄附先は、国が認定した「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」であること
- 1回あたりの寄付金は10万円以上であること
- 寄附の代償として経済的な利益を受けないこと
- 本社が所在する地方公共団体は対象外
- 地方交付税の不交付団体である都道府県は対象外
- 地方交付税の不交付団体であって、その全域が地方拠点強化税制における地方活力向上地域以外の地域に存する市区町村は対象外
企業版ふるさと納税の寄附先が本社の所在する地域である場合、税額控除の対象外となるので注意しましょう。
【参考】企業版ふるさと納税リーフレット|内閣府地方創生推進事務局
企業版ふるさと納税の手続き方法
企業版ふるさと納税は、以下4つのステップで手続きを進めます。
- 寄附先を選択する
- 各自治体の窓口に問い合わせる
- 必要書類を提出し寄附をおこなう
- 法人税および地方税申告時に別表を添付する
1.寄附先を選択する
自社の事業や目的に合致する地方公共団体や地方創生事業を検索し、寄附先を決定します。
国が認定した「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の一覧は、内閣府地方創生推進事務局のホームページで確認することが可能です。また、一般企業が運営しているポータルサイトでも調査できます。
【参考】企業版ふるさと納税ポータルサイト|内閣府地方創生推進事務局
2.各自治体の窓口に問い合わせる
寄附先の自治体に連絡し、必要書類などの詳細を確認します。
寄附先によっては、事前に寄附申込書や寄附意思確認書などを提出する場合があります。また、寄附金の支払い方法や期限、領収書の発行方法なども確認してください。
3.必要書類を提出し寄附をおこなう
各自治体の指示に従って、必要書類を提出し、寄附金を支払います。
寄附金の支払い後、書類は税額控除の申告時に必要な領収書や寄附証明書などが発行されるため、大切に保管してください。
4.法人税および地方税の申告時に別表を添付する
税金の申告時には、「法人税等申告書別表(地方創生応援税制)」を作成し、法人税等申告書とともに提出します。この別表には、寄附先や寄附金額などの情報を記入します。
また、領収書や寄附証明書なども添付し、必要書類を提出することで、法人関係税から最大9割が控除されます。
【参考】認定地方公共団体の寄附活用事業に関連する寄附をした場合の法人税額の特別控除に関する明細書|国税庁
企業版ふるさと納税の事例
企業版ふるさと納税の事例2つを紹介します。
京都府京都市|法人のイメージアップや認知度向上
京都府京都市は、「企業版ふるさと納税を活用した京都市SDGs未来都市推進計画」を掲げています。具体的な対象事業として、以下があげられます(一部抜粋)。
- 地域と文化を支える伝統産業や観光などの振興
- 木の文化の継承や京野菜などの農林畜水産物の生産・販売を応援
- 文化遺産・文化芸術を守りたい!
- 京都らしい美しい景観の保全・継承
- 三条大橋の補修・修景
たとえば、地域と文化を支える伝統産業や観光などの振興では、京都の伝統産業・伝統工芸や朝・夜観光、イベントなどのついてのオフィシャルサイトを運営しています。
京都府京都市は、国内外の旅行者に人気の観光地です。京都市のSDGsへの取り組みに寄附をおこなうことで、企業としてのイメージアップや認知度拡大、社会貢献につながるでしょう。
【参考】企業版ふるさと納税について(企業・団体からの通常の寄付を含む)|京都市
岩手県滝沢市|企業との交流促進
岩手県滝沢市は、「滝沢人」のブランド力を高める事業を展開しています。
ITを活用した高度な技術や企業・事業化ノウハウなどを学べる講座を通して、世界に通用する人材を育成する事業です。
企業側は、事業を通して優秀な人材と出会えることや、講座の参加者との交流で生まれた事業アイデアに関われるなどのメリットがあります。
【参考】企業版ふるさと納税活用事例集|内閣府地方創生推進事務局
まとめ
法人向けの制度「企業版ふるさと納税」について解説しました。企業版ふるさと納税は、令和6年度までの特例措置です。
企業版ふるさと納税を利用すれば、法人関係税などが最大9割控除され、自社の税額負担を抑えられます。また、ブランドイメージの向上や新たなビジネスチャンスの創出、人材育成の機会を得られるなどのメリットが期待できるでしょう。
本記事を参考に、企業版ふるさと納税の利用を検討してください。
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