中小企業が法人税増税で受ける影響と具体的な対策方法を解説
防衛力強化に向けた財源を確保するために、法人税を軸とした「2024年度与党税制改正大綱案」が発表されました。具体的な税率などは検討中ですが、税収を安定させるために法人税の見直しが予定されています。これにより、一部の中小企業は増税の煽りを受けるかもしれません。
今回は、法人税を軸とした増税案について解説し、それと同時に法人税を軽減するための制度である賃上げ税制とイノベーションボックス税制についても解説します。
目次[非表示]
- 1.中小企業が知っておくべき増税の背景
- 1.1.防衛力強化のための財源確保
- 1.2.法人税を軸とした増税案
- 1.3.中小企業への影響は?
- 2.中小企業における法人税増税の影響
- 2.1.コスト増や価格競争力低下のリスク
- 2.2.赤字経営や倒産の可能性
- 2.3.投資や雇用の抑制
- 3.中小企業の増税対策
- 3.1.賃上げ税制を適用する
- 3.2.イノベーションボックス税制を適用する
- 3.3.助成金や補助金を活用する
- 3.4.節税対策やコスト削減を行う
- 3.5.事業再構築や多角化を検討する
- 4.中小企業が財務力を高める方法
- 4.1.増税に関する情報交換や意見交流を行う
- 4.2.他社の対応や事例を参考にする
- 4.3.協力や連携を強化する
- 4.4.コンサルティングを受ける
- 5.まとめ
中小企業が知っておくべき増税の背景
中小企業が知っておくべき増税の背景を3つ解説します。
- 防衛力強化のための財源確保
- 法人税を軸とした増税案
- 多くの中小企業は対象外?
防衛力強化のための財源確保
政府が増税を行う目的の1つは、防衛力強化のため財源確保を行い、周辺各国の脅威に対抗するためと言われています。
ロシアのウクライナ侵攻により、各国が相次いで防衛費を増額するなど、世界の安全保障環境が変化しました。
日本では、中国が台湾統一のため武力行使を放棄しない姿勢(※1)や、北朝鮮が弾道ミサイルと核開発の実験を進める(※2)といった状況に置かれています。
世界の安全保障環境が厳しい状況の中、政府は日本を取り巻く脅威に対応するため、防衛力の抜本的強化を重要視しています。
※1:【参考】習国家主席 中国共産党大会 台湾統一には武力行使も辞さない姿勢示す | NHK
※2:【参考】北朝鮮が4月13日に発射した弾道ミサイルについて|防衛省
法人税を軸とした増税案
2023年12月に発表された「2024年度与党税制改正大綱案」では、法人税率の引き上げを視野に入れた検討について触れられています。これまで約40年間にわたって法人税率は段階的に引き下げられてきましたが、2024年以降は以前のように法人税率が高まる見込みです。現時点で具体的な法人税率については触れられていませんが、法人税引き上げを軸とした増税案が検討されていると認識しておきましょう。
このように法人税率の見直しが重視される理由は、法人税の税収力が低下している現状があるからです。また、企業が現預金を内部に貯め込んでしまい、従業員に還元できていないことも理由とされています。法人税率を見直すことによって税収の増加を実現すると同時に、新しい控除制度などを設けて従業員への積極的な還元による法人税の低減を実現しようとしている段階です。
中小企業への影響は?
法人税率の引き上げが検討されていますが、中小企業は影響を受けない可能性があります。特に、中小企業の約6割は欠損法人で法人税を納めていないため、仮に税率が引き上げられても納税額に変化はないはずです。むしろ、交際費から除外される飲食費の上限額が引き上げられるなど、損金として扱われる範囲が広がるため、欠損法人や納税額が下がる法人が増えるかもしれません。
また、外形標準課税の見直しが予定されていますが、これは資本金が1億円を超える企業についての制度であり中小企業には基本的に影響しません。税率の見直しが多角的に進められる予定ではあるものの、実際に納税額が増えるケースは限られるはずです。
中小企業における法人税増税の影響
中小企業における法人税増税で考えられる影響として、主に以下3つが考えられます。
- コスト増や価格競争力低下のリスク
- 赤字経営や倒産の可能性
- 投資や雇用の抑制
コスト増や価格競争力低下のリスク
法人税は企業の利益に対して課せられるため、税率が上昇すると中小企業の経営コストが直接的に増加します。自社の余裕資金が減少し、事業活動への投資や新規製品・サービスの開発などの費用捻出が難しくなるでしょう。
また、中小企業は大企業と比べると市場シェアやブランド力が低い傾向にあり、価格競争に巻き込まれやすいです。法人税増税に伴い、その増額分を自社製品の価格に転嫁できなければ、利益率が低下し経営が圧迫されるリスクがあります。
赤字経営や倒産の可能性
増税により中小企業の税負担が大きくなれば、キャッシュフローが悪化して資金繰りが難しくなります。資金に余裕がなくなったり利益が減少したりすると、経営が不安定となる可能性が高まります。
また、大企業と比較すると中小企業は資金調達が難しいこともあるため、増税による財務負担が大きいです。万一、赤字経営となり法人税を支払い続けるといった状況になると、倒産のリスクも捨てきれません。
投資や雇用の抑制
中小企業の税負担が大きくなれば、投資や雇用が抑制され、企業としての成長力と競争力が低下する可能性があります。
増税の影響により企業の利益が減少すると、事業拡大や新規事業へ着手するための投資が抑制されます。
また、税負担が大きくなれば、従業員の給与アップや福利厚生の改善などに取り組むことは困難です。
新規投資や雇用拡大の余裕が失われると、中小企業の成長や市場での競争力維持が見込めず、経営において長期的な安定性を損なうリスクがあります。
中小企業の増税対策
中小企業が実施できる増税対策として、以下の例があげられます。
賃上げ税制とイノベーションボックス税制を適用する
- 助成金や補助金を活用する
- 節税対策やコスト削減を行う
- 事業再構築や多角化を検討する
賃上げ税制を適用する
中小企業が増税に備える対策として、「賃上げ税制」と「イノベーションボックス税制」の適用が挙げられます。
まず賃上げ税制は、従業員の賃上げや人材育成へ投資した企業が、税額控除を受けられる制度です。中小企業でも利用できる制度であり、要件が簡素化され控除率も引き上げされたことから、増税対策として活用しやすくなりました。詳細な要件は割愛しますが、主に「給与などの支給額が前年度の給与などと比較して1.5%以上増加」という条件を満たすことで、増加額の15%を法人税額から控除できます。増税に伴い法人税を支払うのではなく、従業員に還元することで従業員の満足度が高まり、法人税も抑えられる制度です。
イノベーションボックス税制を適用する
イノベーションボックス税制では、研究開発など国内で生み出された知的財産による所得について、優遇税率が適用されます。例えば、国内で生み出された特許権や著作権で保護されたソフトウェア、これらのライセンス所得や譲渡所得などが制度の対象です。ただ、こちらについては2025年4月1日からの適用が予定されていて、具体的にどの程度の減税になるか確定していません。
助成金や補助金を活用する
中小企業は、助成金や補助金の活用することで、自社が成長するための投資をしやすくなります。
生産性向上や雇用拡大のため施策に取り組む余裕が生まれ、増税による財務負担の軽減が期待できるでしょう。
たとえば、ITツール導入補助金制度では最大450万円の支援を受けることが可能です。
ITツールを導入すれば、業務効率化により、従業員の負担軽減や自社の利益向上が見込めます。
助成金や補助金を活用するためには、政府から発表される最新情報を定期的にキャッチアップすることが重要です。
新しい制度の導入や既存制度の変更点を把握しておくことで、自社の経営安定化につながる適切な制度を選択できます。
中小企業がおさえておきたい補助金や助成金などの制度については、下記ページをご覧ください。
節税対策やコスト削減を行う
中小企業は、節税対策やコスト削減を行えば、増税による経営への影響を抑えられます。利益率やキャッシュフローを改善したり、投資や雇用に回せる資金を確保したりできるためです。
たとえば、節税対策として固定資産税の減免制度の活用があげられます。
新たに機械や設備を導入した場合、一定期間税金が免除される制度です。自社の競争力強化に必要な設備投資をしやすくなるでしょう。
税理士などの専門家や経営コンサルタントなどの外部の支援を受けることも重要です。自社の経営状況や目標に合ったアドバイスをもらうことで、増税に対応する適切な準備を行えます。
【参考】固定資産税の減免 | 経済産業省 中小企業庁
事業再構築や多角化を検討する
中小企業は事業再構築や多角化により、経営上のリスク分散や収益源の拡大が見込めます。そのため、増税による経営環境の変化や、コロナ禍のような不測の事態に備えられ、財務負担の軽減が期待できるでしょう。
事業の再構築や多角化を検討するためには、自社の現状分析や市場調査が欠かせません。自社の強みを活かしながら適切な戦略を立てることで、新しい市場や取引先の顧客にサービスを提供することで、競合他社との差別化が図れます。
中小企業が財務力を高める方法
中小企業は財務力を高め、増税による経営環境の変化に備えることが重要です。具体的な方法として、以下4つの例があげられます。
- 増税に関する情報交換や意見交流を行う
- 他社の対応や事例を参考にする
- 協力や連携を強化する
- コンサルティングを受ける
増税に関する情報交換や意見交流を行う
中小企業同士で情報交換や意見交流を行うことで、最新の税制動向や他社が実施している対策方法を知り、増税に対する自社に合った解決策を見出せるでしょう。
また、共通の課題を見つけ出し、同業者や専門家と協力して効果的な施策を考えることも可能です。
情報交換や意見交流を行う方法として、業界団体や商工会議所の組織への加入、セミナー・イベントの参加があげられます。
また、SNSや交流サイトを通じて中小企業の経営者、専門家とつながることも有効です。
他社の対応や事例を参考にする
他の中小企業の増税への対応や事例を学ぶことも重要です。
前節の情報交換や意見交流を行う方法と相互補完的な関係にあります。他社との交流で得た知識やアイデアを得た上で対応事例を参考にすれば、自社に適切な施策を練られるでしょう。
具体的な方法としては、業界誌やWebサイト、ニュースレターなどのメディア活用、競合他社のベンチマーキングなどがあげられます。
協力や連携を強化する
同業他社や異業種の中小企業と協力・連携を強化すれば、資源やノウハウの共有、新たなビジネスチャンスの創出が見込めます。事業領域を広げたり事業を改善したりすることにつながるため、増税による経営上のリスクを分散できるでしょう。
たとえば、共同購入や共同開発、共同販売などがあります。また、異業種とのコラボレーションにより、新しい製品やサービスの開発ができる場合があります。
コンサルティングを受ける
コンサルティングでは、増税対策のアドバイスや具体的な施策立案、実行の支援などをプロからサポートを受けることが可能です。財務管理などの専門的な知識やノウハウの吸収が可能となり、中小企業の経営力向上が期待できます。
たとえば、F&M Clubは中小企業のバックオフィスを支援するサービスです。補助金・助成金の活用、資金繰り対策などを含めた幅広いコンテンツを提供しています。
中小企業経営者が利用しやすいサポート体制を整え、バックオフィスに関する悩みを解決できるでしょう。
まとめ
中小企業にとって増税は、コスト増や価格競争力の低下などのリスクを伴います。赤字経営や倒産の可能性も高まり、投資や雇用の抑制が生じるかもしれません。ただ、法人税率が引き上げられると同時に、新しい税制も導入されるため、これらを組み合わせることで実質的には納税額を減らせる可能性があります。
また、中小企業の経営安定化を図るためには助成金や補助金の活用や、節税対策やコスト削減などが求められます。また、財務力を向上させ増税に備えることも重要です。中小企業経営者は本記事を参考にしながら、増税に対する対策を検討してください。