2024年度(令和6年度)税制改正大綱が決定!中小企業の増税はいつ?
12月14日、2024年度(令和6年度)の税制改正大綱が発表されました。個人の定額減税に加えて、企業の設備投資減税や持続的な賃上げを促進する税制の拡充などが盛り込まれており、法人税率の見直しは見送りとなりました。
本記事では、中小企業経営者が注目したい優遇税制の改正点について解説します。
目次[非表示]
- 1.令和6年度税制改正大綱の特徴は短期的な減税と中長期の増税示唆
- 2.中小企業向け賃上げ促進税制は拡充と延長
- 2.1.賃上げ促進税制の内容
- 2.2.赤字企業も利用可能!最大5年間の繰り越しが可能
- 3.少額減価償却資産の全額損金算入は2年間延長
- 4.法人版事業承継税制の特例承継計画の期限は2年間延長
- 5.M&A予定の会社が使いたい事業再編投資損失準備金は最大100%まで拡充
- 6.経営者が知っておきたい、そのほかの税制改正
- 6.1.接待交際費800万円までの損金計上は3年延長
- 6.2.1人あたり飲食費は10,000円へ変更
- 6.3.所得税・個人住民税の定額減税は1人あたり4万円(所得制限あり)
- 6.4.子育て世代の扶養控除は縮小するも児童手当を拡充
- 6.5.住宅ローン減税は限度額を縮小
- 7.法人税率の引上げが検討される
- 8.まとめ
令和6年度税制改正大綱の特徴は短期的な減税と中長期の増税示唆
令和6年度税制改正大綱が発表されました。税制改正大綱は翌年の税制改正へ大きな影響を与えるため注目されます。
改正内容は個人向けの定額減税のほか、企業の成長を促す設備投資や持続的な賃上げを促進する税制が盛り込まれています。主に注目されている内容は次のとおりです。
- 個人の定額減税
- 児童手当の拡大に対応した扶養控除の見直し
- 賃上げ税制の継続
短期的には減税や賃上げを促進する内容が盛り込まれている一方、法人税率の見直しを含めた議論の開始についても言及しており、中長期的には法人税率引き上げを想起させる内容となっています。
中小企業向け賃上げ促進税制は拡充と延長
中小企業の賃上げを支援するため、賃上げ税制の税額控除率の上限が45%へ拡大されるとともに、対象期間が2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する決算期間へ3年間延長されます。
賃上げ促進税制の内容
中小企業向け賃上げ促進税制とは、青色申告事業者が前年よりも給与・賞与などの雇用者給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です。
今回の改正のそのほかのポイントは次のとおりです。
- 教育訓練費の増加割合を5%以上へ引き下げ
- 教育訓練費の額に下限を新設
- くるみん認定(子育て支援)、えるぼし認定(女性活躍)などの加算を新設
- 赤字企業も利用可能となる繰越制度の創設
中小企業向けの賃上げ促進税制の主な改正内容(下線部)は次のとおりです。
適用要件 |
改正前の税額控除率 |
改正後の税額控除利率 |
雇用者給与等支給額の1.5%以上増加 |
15% |
15% |
(上乗せ加算) |
+15% |
+15% |
(上乗せ加算) |
― |
+10% |
(上乗せ加算) |
+10% |
― |
(上乗せ加算) |
― |
+5% |
最大控除率 |
40% |
45% |
控除限度額 |
控除限度額 |
法人税額の20%まで |
控除限度額の繰り越し |
― |
5年間 |
赤字企業も利用可能!最大5年間の繰り越しが可能
税額控除は黒字で納税額がある企業においては有利となりますが、赤字の場合は優遇措置を受けることができませんでした。
今回の令和6年度改正においては新たに繰越控除制度が創設され、5年間の繰り越しが可能となります。ただし繰越控除する決算期の雇用者給与等支給額が前年度よりも増えていることが条件です。
少額減価償却資産の全額損金算入は2年間延長
30万円未満の減価償却資産を取得した場合に合計300万円まで全額を損金処理することができる特例について、2024年3月31日までの期限が2年間延長されます。
法人版事業承継税制の特例承継計画の期限は2年間延長
法人版事業承継税制とは、後継者である受贈者や相続人などが、中小経営承継円滑化法の認定をうけている非上場会社の株式などを相続または贈与によって取得した場合に、納税が猶予される制度です。
事業承継税制による納税猶予の特例を受けるために必要となる特例承継計画の提出期限が2024年3月31日から2026年3月31日まで2年間延長されました。
ただし、特例の適用期限(贈与相続などをおこなう期限)は2027年12月31日までのまま変更ありません。
M&A予定の会社が使いたい事業再編投資損失準備金は最大100%まで拡充
事業再編投資損失準備金とは、M&Aによりほかの会社の事業を継承した場合の損失に備えて、投資額の70%以下を準備金として積立を可能(損金算入)とする制度です。
税制改正により、特別事業再編計画(仮称)の認定を受けることで取得価額の最大100%を損金計上することができることとなります。
現行の主な要件と令和6年度税制改正大綱による改正点は次のとおりです。
- 買い手について経営力向上計画の認定
- 買い手の経営力向上計画について、事業承継などの事前調査に関する事項を記載
→<改正>事前調査終了後においても経営力向上計画の認定が可能 - 株式などの取得価額は10億円以下
- 取得価額の70%以下の任意の金額を準備金として積立が可能
- 準備金の積立額の全額が損金算入
- 5年経過後、5年間均等額で準備金を取り崩し(取崩額は益金算入)
令和6年度税制改正大綱において、新たに下記の要件により準備金の積立(損金計上)が可能となる予定です。主な適用条件は次のとおりです。
- 買い手は青色申告事業者
- 買い手について、産業競争力強化法にもとづく特別事業再編計画(仮称)の認定
- ほかの会社の株式などを購入により取得し決算期末まで保有
- 株式などの取得価格は1億円以上100億円まで
- 一定の表明保証保険を契約していない
- 最初に取得した株式などの90%まで(左記以外の株式などは100%)を準備金として積立
- 準備金の積立額は全額損金として算入
- 10年経過後、5年間均等額で準備金を取り崩し(取崩額は益金算入)
経営者が知っておきたい、そのほかの税制改正
今回の令和6年度税制改正対応で最も注目を浴びた定額減税以外にも、経営者が知っておきたい税制改正があります。
接待交際費800万円までの損金計上は3年延長
2024年3月31日まで延長されていた交際費の損金不算入の特例の適用は、2027年3月31日までに開始する事業年度まで3年間延長されます。定額控除限度額800万円または50%の選択など現行の取り扱いのままの延長です。
1人あたり飲食費は10,000円へ変更
接待交際費から除いて経費とすることができる飲食費の基準となる額が、1人あたり5,000円以下から10,000円以下へ変更されます。
この取り扱いは2024年4月1日以降に支出する際に適用されます。
所得税・個人住民税の定額減税は1人あたり4万円(所得制限あり)
所得税3万円と個人住民税1万円、あわせて1人あたり4万円を減税する特別控除が決まりました。
2024年分の所得金額が1,805万円以下(年収2,000万円以下)である所得制限があります。
給与所得者については以下の方法によって減税されます。
所得税については、2024年6月1日以降に最初に支給される給与・賞与の源泉徴収額から特別控除額を差し引きます。
個人住民税については2024年6月に支給する給与・賞与からの減税ではありません。2024年6月は特別徴収をおこなわず、減税額を控除した額の個人住民税を2024年7月から2025年5月までの11か月間で均等に特別徴収する方法となります。
個人事業主の所得税の減税は、2024年分の第1期予定納税時に本人分3万円が特別控除されます。個人住民税については2024年分の第1期納付額から減税されます。いずれも控除しきれない額は第2期以降に繰り越して減税されます。
子育て世代の扶養控除は縮小するも児童手当を拡充
子育て世代の扶養控除は縮小されますが、児童手当が拡充されることで手取りが増える仕組みとなります。下線部が令和6年度税制改正予定の部分です。
適用される時期は、所得税について2026年から、住民税について2027年からの予定です。
被扶養者 |
児童手当 |
扶養控除 |
0歳から2歳 |
月1.5万円 |
対象外 |
3歳から15歳 |
第2子まで月1万円 |
対象外 |
16歳から18歳 |
第2子まで月1万円 |
所得税38万円→25万円 |
19歳から22歳 |
対象外 |
所得税63万円 |
住宅ローン減税は限度額を縮小
住宅ローン減税の対象となる借入限度額は予定とおり縮小されます。
ただし子育て世代は借入限度額の縮小はなく、2023年の借入限度額が維持されますが、2024年の入居のみの取り扱いの予定です。
子育て世代とは夫婦のいずれかが40歳未満または19歳未満の親族を扶養している個人のことです。下線部が令和6年度税制改正予定の部分です。
住宅の環境性能 |
借入限度額 |
借入限度額 |
長期優良住宅 |
5,000万円 |
4,500万円 |
ZEH水準 |
4,500万円 |
3,500万円 |
省エネ水準 |
4,000万円 |
3,000万円 |
そのほかの |
3,000万円 |
0円 |
中古住宅 |
3,000万円 |
3,000万円 |
【引用】令和6年度国土交通省税制改正概要(2023年12月)|国土交通省
法人税率の引上げが検討される
今回の税制改正大綱は個人についての定額減税や中小企業賃上げ税制の拡充などが注目されている内容です。
その中で『今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要』であるとの文言が挿入されており、今後の増税を示唆しています。
人手不足など経営資源が限られる中小企業は来るべき増税時代に備えて、人材確保・賃上げを吸収できる収益構造への社内改革、人手不足においても利益を確保できる前向きな投資などに取り組んでいく必要があります。
まとめ
令和6年度税制改正大綱が決定し、2024年度の優遇税制が出揃うこととなります。
今回の税制大綱で後押しを受ける賃上げに加えて、今後も続くと予測されている人手不足の状況に対応していくためには、補助金や助成金をかしこく活用した前向きな設備投資や新たな取り組みにより利益を確保できる体質となることが重要です。
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