
法改正から紐解く2024年問題と賃上げを乗り越える秘策とは
改正労働法の施行が相次いでおり、企業は働き方改革における対応を続ける必要があります。特に来年2024年は『2024年問題』と呼ばれる物流問題が懸念されています。
本記事では人事労務において2023年に施行された内容と2024年2025年に施行予定の改正を解説します。
目次[非表示]
- 1.2023年に施行されている主な改正
- 1.1.月60時間超の時間外労働の法定割増賃金率の引き上げ
- 1.2.賃金のデジタル払い解禁
- 2.2024年からの主な改正予定
- 2.1.時間外労働の上限規制の適用開始(2024年4月1日から)
- 2.2.労働条件明示事項の追加(2024年4月1日から)
- 2.3.パートタイム・アルバイトの社会保険適用事業所の拡大(2024年10月1日から)
- 2.4.2024年の最低賃金改定は10月と予想されています
- 3.2025年からは高齢者雇用が変わる予定
- 4.2024年問題と荷主の対策
- 5.賃上げ、物流の2024年問題への対策2点
- 5.1.生産性向上は補助金・助成金を活用
- 5.2.就業規則の見直しで法改正に対応
- 6.【無料会員登録特典】就業規則の無料診断をお試しください
- 7.まとめ
2023年に施行されている主な改正
2023年に施行された主な改正は次のとおりです。
- 時間外労働の法定割増賃金率を50%に引き上げ
-
賃金のデジタル支払いの解禁
月60時間超の時間外労働の法定割増賃金率の引き上げ
1か月間での時間外労働時間が60時間超の部分における割増賃金率が、50%に引き上げされています。中小企業は2023年4月1日から適用対象です。
賃金のデジタル払い解禁
従業員への給与などを電子マネーで支払うことができます。今後、次の手続きを経て導入可能です。
- デジタル支払いを取り扱う資金移動業者について、厚生労働省が指定
- 賃金のデジタル払いを導入する企業や各事業場で労使協定を締結
- 企業から従業員へ説明
- デジタル払いを希望する従業員から書面または電磁的な同意を取得
【参考】賃金のデジタル払いが可能になります|厚生労働省
【参考】賃金の口座振込などについて|厚生労働省
賃金のデジタル払いについては以下の3点が必要です。
-
労使協定の締結
従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は従業員の過半数の代表者)と企業との間で、次の項目を明記した労使協定を締結します。
・対象となる従業員の範囲
・対象とする給与などの範囲とその金額
・取り扱う資金移動業者の範囲
・開始時期 -
希望する従業員から企業への同意書の提出
同意書には以下の事項を記載します。
・対象となる賃金の範囲と金額
・資金移動業者名や従業員のアカウント
・開始時期
・代替口座として指定する金融機関の口座 -
代替口座となる金融機関の口座
従業員は電子マネーの上限額を超過した場合などの送金先となる代替口座を指定します。金融機関の口座がない従業員は対象とできません。
【参考】資金移動業者への賃金支払に関する同意書(参考例)|厚生労働省
2024年からの主な改正予定
2024年に施行される時間外労働の上限規制については、建設業と物流業を中心とする『2024年問題』として影響が懸念されています。
時間外労働の上限規制の適用開始(2024年4月1日から)
時間外労働の上限規制とは、時間外労働時間を原則として月45時間、年360時間までとする法的な規制のことです。
【引用】働き方改革関連法に関するガイドブック|厚生労働省
2024年4月1日以降は、建設業と自動車運転業などにおける上限規制の猶予が廃止されます。
【引用】時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
会社としては従業員の労働時間が上限規制を超えないように対応が必要です。対応例は次のとおりです。
- 従業員の時間外労働についての社内ルールの設定
- 従業員の労働時間を把握する勤怠・労務管理ツールの導入
- 労働時間を把握する勤怠管理ツールに上限規制のルールを追加
労働条件明示事項の追加(2024年4月1日から)
採用者へ労働条件として明示する事項として、以下の事項が追加されます。
-
就業場所、業務の変更の範囲
採用直後だけでなく、将来配属する可能性がある場所や業務も明示します。 -
有期契約の更新条件の有無と内容
通算契約期間や更新回数の上限を明示します。 -
「無期転換ルール」に基づく転換申し込みの時期
有期契約から無期契約への転換が可能となる時期ごとに、その機会であることを従業員へ明示します。 -
無期転換ルールに基づく転換後の労働条件
従業員が無期契約への転換を申し込みできる「無期転換申込権」が発生するたびに、無期転換後の労働条件を明示します。
【参考】労働条件明示のルールが変わります|厚生労働省
会社においては、就業規則や労働契約書、労働条件通知などに無期転換ルールおよび従業員からの申込権などを記載するよう見直しします。
また会社から該当する従業員への説明を失念しないよう、社内の労務管理のマニュアルなどに記載することも検討します。
パートタイム・アルバイトの社会保険適用事業所の拡大(2024年10月1日から)
従業員数51人から100人の企業で働くパートタームとアルバイトで、次の4つの条件を充たす従業員が社会保険の適用対象となります。
- 週所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月間を超える雇用予定
- 学生ではない
【引用】パート・アルバイトの社会保険の加入条件が変わります|厚生労働省
10月1日からの変更にあわせて自社での事前準備をおこないます。準備の流れは次のとおりです。
- 新たに加入対象となる従業員の確認
- 新たに対象となる従業員への説明(社会保険制度および従業員が負担することとなる保険料の試算など)
- 労働時間を減らすことを希望する従業員がいる場合、人材の確保
- 会社で負担することとなる社会保険料の試算
2024年の最低賃金改定は10月と予想されています
最低賃金は毎年10月に改定されることが慣例となっています。
消費者物価の上昇の影響などによって、2023年10月と予想されている最低賃金改定においても引き上げされる可能性があるといわれています。
2025年からは高齢者雇用が変わる予定
2025年からは高齢者雇用に関する変更が予定されています。
高年齢雇用継続給付の縮小(2025年4月1日から)
新たに60歳以上となる従業員への高年齢雇用継続給付率は、原則10%に引き下げられます。
【引用】高年齢雇用継続給付の見直し|厚生労働省
高年齢雇用継続給付は会社にとっても従業員においてもメリットが大きい制度です。本給付がなくとも継続的に雇用できる賃金体系への見直しなど必要です。
65歳までの雇用確保が義務化(2025年4月1日から)
65歳までの継続雇用制度の導入に関する猶予は2025年3月31日までです。4月1日以降は下記の3つのいずれかの導入が必要です。
- 65歳までの定年延長
- 定年の廃止
- 65歳までの継続雇用制度の導入(再雇用制度、勤務延長制度)
今回の義務化は65歳までの定年延長ではありません。継続雇用制度を導入し、原則として希望する従業員の全員を継続雇用することです。
上記のような賃金・保険料の法改正と昨今の物価高が重なり、中小企業が生き残るには徹底した労務と安定した財務状況が必要です。
大企業なら倒産しないのに…という方もいますが、ここで質問です。
「大企業が倒産しない理由は何でしょうか。」
その答えがこちらにあります。
2024年問題と荷主の対策
時間外労働の上限規制によって、長時間労働が多い建設業、物流業においては深刻な人手不足が発生し、物流コストの上昇や物流の停滞などの影響が出るといわれています。
この影響のことを『(建設業における)(物流業における)2024年問題』といいます。
2024年問題とは
2024年問題の主な影響は次のとおりです。
(建設業と発注者における影響)
- 建設会社における従業員の流出に伴う人手不足と売上の減少
-
人手不足、工事期間の長期化による建設コストの上昇
(物流業と荷主(荷物の発送の依頼者)における影響) - 収入減少に伴うドライバーの離職と運送会社における人手不足と売上の減少
- 物流日数の長期化とそれに伴う経済活動の停滞
- 全体的な運送コストの上昇
物流における2024年問題の影響は大きいと予測されています。具体的には、荷主の協力がない場合の物流能力の不足、つまり希望した時に荷物が運送できない、届かない可能性は2024年に14.2%、2030年には34.1%(いずれも2019年との比較)に達すると推測されています。
【引用】持続可能な物流の実現に向けた検討会 第11回 最終とりまとめ(案)|経済産業省
荷主における対策
荷主側においてもさまざまな対策が検討、導入されています。
- 荷物の積み込み、積み下ろしは荷主(発送側、受け取り側)がおこなう
- 梱包用の段ボールや運搬用のパレットのサイズを推奨規格にあわせる
- 到着までの日数を長くする
- 物流業者と情報を共有化する
賃上げ、物流の2024年問題への対策2点
人件費の上昇や人手不足、2024年問題における一般的な対策として、次の2点があげられています。
- 生産性が向上する投資
- 働き方改革に対応した就業環境の整備
「生産性が向上する投資」とは次の例です。
- 自動化設備を導入して限られた従業員数での生産能力を確保する
- 省人化設備、バックオフィス業務のシステム、フォークリフトなど物流を効率化する設備などを導入し、自社における物流作業(梱包や積み込み、積み下ろし作業)の能力と作業時間を確保する
「働き方改革に対応した就業環境の整備」とは、労働法の改正にあわせた社内規程の整備、多様な働き方に対応した雇用条件の導入などにより人材を確保することです。
生産性向上は補助金・助成金を活用
生産性の向上をおこなうためにはさまざまな投資が必要です。投資に必要な資金については補助金の活用を検討します。
補助金の中には、賃上げをおこなう企業への支援が手厚い制度もあります。代表的な制度として『ものづくり補助金』『業務改善助成金(通常コース)』などがあります。
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ものづくり補助金
年率6%以上の賃上げなどで、補助金額の上限が最大1,000万円上乗せされます。
【引用】ものづくり・商業・サービス補助金 公募要領概要版 第15次締切分|ものづくり補助金事務局
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業務改善助成金(通常コース)
投資や人材育成とともに事業場内最低賃金を30円以上引き上げる場合、30万円から最大600万円が助成されます。
就業規則の見直しで法改正に対応
労働法改正に対応するためには就業規則の見直しが必要です。また就業規則は助成金の要件となっている場合があります。多様な働き方に柔軟に対応することで求職者にアピールし、新規採用をすすめることも必要です。
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就業規則は企業と従業員を守る重要なルールです。法改正への対応だけでなく、自社の雇用体系や労務トラブルを防止する観点も考慮して、専門家の意見を活用しましょう。
まとめ
労働法の改正による働き方改革における対応は中小企業においても急務です。また人手不足と賃上げが続く中で利益と人材を確保するためには、生産性の向上と社内体制の整備が必要です。
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