人事考課は適切に書けていますか?人事考課の意味や目的、書き方を解説
人事考課は、昇格や昇給など、社員の人生にかかわるほど重要なものです。
また、人事考課は、社員のやる気やモチベーションを向上させ、間接的に企業の発展へと繋がります。
人事考課は企業にとって重要なものですが、人事考課が適切に行われている企業は少ないことも現状です。正しい人事考課の書き方について解説します。
目次[非表示]
- 1.人事考課とは
- 1.1.人事評価制度との違い
- 2.人事考課の歴史・変化
- 3.人事考課の目的・重要性
- 4.人事考課のメリット
- 5.人事考課のデメリット
- 6.人事考課の対象となる評価項目・種類
- 7.人事考課の評価手法・手順
- 8.”人材が育つ”人事考課表の書き方
- 8.1.評価項目に従って、特筆すべき職務行動を書く
- 8.2.ひとつの行動はひとつの評価項目として評価する
- 8.3.評価基準に基づき評価点をつける
- 8.4.長所だけでなく短所についても書く
- 9.人事考課表作成時の注意点
- 9.1.先入観や親近感で評価しない
- 9.2.一時的な評価はしない
- 10.職業別人事考課の書き方例
- 11.人事考課の運用方法
- 11.1.人事考課の目標設定について
- 11.2. 人事考課で効果的な面談方法
- 11.3. 人事考課への不満を回避する方法
- 12.人事考課は企業の発展に必要不可欠
- 13.F&M Clubの「はじめての人事考課」
- 14.人事考課の書き方:まとめ
人事考課とは
人事考課は、ただ「社員を評価する」だけではなく、「企業の業績向上」、「個人の潜在能力を最大限に引き出す」、「企業の理念やビジョンの共有」を果たす役割をもっています。
人事考課を最大限に活かすためには、目的や役割を明確に理解することが大切です。
人事評価制度との違い
人事考課と似た制度に「人事評価制度」があります。 人事考課と人事評価は、明確な違いや定義はありませんが、一般的に「人事考課」が昇給や昇進の査定、判断をおこなうことに対し、「人事評価」は社員のもつ能力開発および育成をおこない、適材適所に配置するなどして、社員の評価をおこないます。 企業によっても、人事考課と人事評価の定義や役割はそれぞれ異なりますが、基本的に両者は密接にかかわっているものといえます。
人事考課の歴史・変化
従来の日本の人事考課は、「年功序列制」による評価が主流であり、「勤続年数」を主な評価基準として査定がおこなわれるため、社員が「目的意識」をもちにくく、企業の成長につながりにくいという問題点がありました。
しかし、現代の多くの企業では、年功序列制ではなく「成果主義」や「能力主義」の視点を取り入れた人事考課がおこなわれ、企業の成長につなげています。
人事考課の目的・重要性
人事考課は多くの企業で実施されていますが、人事考課の本来の目的が正しく機能している企業は少ないことが現状です。
人事考課を適切に実施するためには、まず、人事考課の目的や重要性を正しく理解しましょう。
人事考課の目的
人事考課の主な目的は、社員の「昇給や昇進を判断する」ことです。
しかし、人事考課の目的は昇給・昇進だけでなく、「昇給や昇進」を目標に社員の意欲やモチベーションを向上させ、組織を活性化させることが重要であり、企業の成長につなげることが真の目的といえます。
人事効果の重要性
先述したように、人事考課の目的は「社員の意欲・モチベーションを向上させること」「企業の成長につなげること」です。
そのため、人事考課を実施していても、正しく機能していない場合、社員の意欲やモチベーションを低下させ、社員離れや利益低下につながるリスクがあります。
人事考課は、真の目的を理解せず「なんとなく実施している」と、企業経営に損害をもたらすリスクがあることを理解し、企業が成長していくために重要な制度であることを認識しましょう。
人事考課のメリット
人事考課のメリットは、社員の意欲やモチベーションにつながりやすいことです。
昇進や昇給など、目に見える評価は、社員の意欲やモチベーションにかかわるため、社員ひとりひとりが「目的意識」をもって仕事に取り組むことができます。
また、統一された「評価基準」による人事考課は、公平性をもたらし「自分だけ評価されない」「頑張っているのに納得できない」などの不平不満の解消にもつながり、さらに、人事考課によって「認めてもらえた」という社員の自信にもつながるでしょう。
このように人事考課は、企業の経営促進・成長に不可欠である、社員の意欲やモチベーションを向上につながるメリットがあります。
人事考課のデメリット
人事考課のデメリットは、制度を実施するための「人的コストがかかること」と、適切に実施しないと「かえって逆効果となること」です。
人事考課を実施するためには「評価制度(目標)の確立」「評価者の選定」「評価期間の設定」など、多くの時間とコストが必要となります。
そのため、無駄なコストを発生させないためには、効率良く人事考課制度を運用しなければなりません。
また、人事考課は先述したように適切に実施しないと、社員の意欲やモチベーションを低下させ、かえって逆効果となる可能性もあります。
「なんとなく人事考課をやっている」状態では、企業の成長につながらず、人事考課にかかった人的コストも無駄となってしまいます。
人事考課の対象となる評価項目・種類
人事考課の評価基準となる主な評価項目は以下のとおりです。
業績考課
業績考課とは、業務を遂行するうえで、企業の業績に貢献したことに対する評価です。
業績考課では業務の「結果」を評価するため、中間目標や最終目標を設定し、目指すべき目標(結果)を明確にしておくと適切に評価がおこなえます。
「結果」をもとに判断・査定することで誰が見てもわかりやすい「客観性」があり、「公平性」もあるため、評価される社員側も納得しやすいというメリットがあります。
能力考課
能力考課とは、業務を遂行するうえで身につけた能力や、社員のもつ潜在的な能力に対する評価です。
能力考課では「業績向上につながるハイレベルな業務を達成した社員に対し、適切な評価を与えるべきである」という視点にもとづいています。
また、目標を達成した「結果」ではなく、「過程」を評価するため、中長期間は視点をもった評価が必要です。
そのため、上司(評価者)は一時的に部下(評価対象者)の行動を観察・判断するのではなく、日常的・計画的に行動を観察する必要があります。
情意考課
情意考課とは、日々の業務の取り組み方や姿勢、勤務態度など社員のもつ規律性・責任性・協調性などに対する評価です。
社員の意欲や態度は、組織風土を高めるために必要な要素であり、情意考課では社員のもつ規律性・責任性・協調性のほか、経営意識や安全意識、コスト意識なども評価要素として考慮されます。
企業の想いやビジョンを共有し、組織全体の団結意識を向上するメリットがあります。
人事考課の評価手法・手順
人事考課を実施する際の主な手法、手順は「目標設定」「業務遂行」「フィードバック」の三段階です。
目標設定
人事考課ではまず、目標設定をおこないます。
目標設定をおこなう際のポイントは「企業の理念やビジョンに関連した目標を掲げる」「具体的な期間や数値を設定する」「実現可能な目標とする」ことです。
「企業の理念やビジョンに関連した目標を掲げる」ことは、社員ひとりひとりに企業の進むべき道を理解、意識させることにつながり、企業全体に一体感をもたせることは、効率性を上げ、生産性向上にもつながります。
曖昧な人事考課とならないように「具体的な期間や数値を設定する」ことも大切です。
評価期間を定め「いつまでに、〇〇を達成する」などの具体的な目標を設定することで、社員が自身の役割を明確に把握し、行動しやすくなります。
また「昇進や昇給」など「目標を達成した場合に得られる対価」を具体的に提示することで、社員は業務に対する意欲やモチベーションを維持しやすくなります。
また、目標を設定する際は「実現可能な目標とする」ことも重要です。
明らかに実現不可能な目標や、企業の利益を追求しすぎた目業は、社員の意欲やモチベーションを低下させるため、注意しましょう。
業務遂行
目標設定が完了したあとは、業務遂行(評価の実施)です。
設定した評価期間・基準(目標)に従い、評価者が社員の日々の業務を評価します。
評価する際は、個人的な感情や観点を一切入れず、あくまでも評価基準に従い、公平な評価を実施するよう心がけましょう。
また、良いところだけでなく、改善すべき点にも注目し、プラス面、マイナス面の両方の点で「気づいた点」を随時こまめにチェック、記録しておくことで、後のフィードバックの充実性につながります。
フィードバック
人事考課を実施している企業の中には「評価して終わり」という企業も少なくありません。
社員および企業の成長につなげ、人事考課を正しく機能させるために「フィードバック」は非常に重要です。
フィードバックを正しくおこなわないと、社員は、人事考課を実施したものの「結果(評価)がわからない」「なぜそのような結果(評価)となったのか納得ができない」などの疑問や不満を抱えやすくなります。
フィードバックをおこなう際は、ただ人事評価の結果を伝えるだけでなく、なぜそのような評価となったのか具体的な根拠を述べることが大切であり、その際、あらかじめ設定された評価基準もひとつの根拠となります。
また、マイナス点や改善点を述べる際は社員の意欲やモチベーションを低下させないために「成長を期待している」ことが伝わるような伝え方を心がけることも大切です。
”人材が育つ”人事考課表の書き方
人事考課は、「人事考課表」をもとに社員の評価を行います。
そのため、「人事考課表」を正しく作成できないと、適切な人事考課が行えません。
「人材が育つ人事考課表」の書き方について解説します。
評価項目に従って、特筆すべき職務行動を書く
評価を行う際は、評価対象期間と、評価の対象とすべき行動(職務行動)や結果(仕事の遂行結果)を特定し、対象期間中の行動や結果をもとに評価します。
対象期間外や、評価の対象ではない行動について評価をしてしまわないように、評価期間中は、社員の特筆すべき行動や結果を記録しておくことを心がけましょう。
評価の対象となる行動を明確にしておくことで、「評価者によるズレ」を防ぐことができます。
ひとつの行動はひとつの評価項目として評価する
評価の対象として特定した行動を、どの評価項目で評価するのかを選択します。
原則として、評価者間で共通の評価認識をもつために、「ひとつの行動はひとつの評価項目として評価する」ようにしましょう。
例:「仕事への着手が早く、指示通りに仕事をこなす」→「行動力」、「積極性」、「真面目さ」、「素直さ」、「正確さ」などの項目から選択 |
評価基準に基づき評価点をつける
評価基準を設定し、評価段階ごとに点数を定め、評価点をつけます。
評価段階は、誰にでもわかりやすく、説明できるものにします。
評価段階において、段階ごとの違い(10段階中、8点と7点の違いは?など)を明確に定めておくことで、評価の根拠を説明しやすくなり、被評価者が、自身の評価に対して理解しやすくなります。
長所だけでなく短所についても書く
人事考課表では、長所(良い点)ばかりを書くのではなく、短所(改善ポイント)についても書くようにしましょう。
また、評価において「フィードバック」はとても重要です。フィードバックがない場合、被評価者が、「自身の評価に納得できない」ことや「上司に不信感を抱く」、「成長できない」などの問題が出てくる可能性があります。
社員の成長と信頼関係を保つためにも、フィードバックを大切にしましょう。
昨今、中小企業において人の流出がすすみ、人材不足倒産が増加しているのはご存じでしょうか。
上記のように、人事考課を適切におこなうことで、社員の意欲につなげることができますが、社員がいなければ制度も会社も成り立ちません。
しかし、大企業が人手不足に悩んでいるとはあまり聞きません。
そのカラクリをこちらで解説しているので、ぜひ一度ご覧ください。
人事考課表作成時の注意点
人事考課表を作成する際は、「評価エラー」が起こらないように、いくつか注意する必要があります。
先入観や親近感で評価しない
「優秀な大学を卒業しているから優れている」、「若いから未熟者だ」など、「学歴」や「年齢」などの先入観や親近感で、評価しないようにしましょう。
先入観や親近感で評価してしまうと、公平な評価ができないため、客観的な視点および中立的な視点で評価することを心がけましょう。
一時的な評価はしない
期末や、評価対象期間の直近で、急いで評価しないようにしましょう。
短期間の一時的な行動や結果だけを、対象期間全体としての評価とすることは、評価として正しくありません。対象期間全体をとおして社員の行動や結果を観察することを心がけましょう。
職業別人事考課の書き方例
人事考課の具体的な書き方例を、職業別に紹介します。
営業職
営業職の場合、営業成績による数字が明確であるため、ほかの職種に比べ、比較的人事考課表が書きやすいといえます。
営業成績に対する目標達成率や結果、目標を達成するまでの過程などを盛り込みつつ、改善点などを書きます。
例:今年度(今期)の売上目標◯○円に対し、営業実績は〇〇円、達成率は◯◯%であるため、評価は◯段階とする。 また、積極的にチームをまとめ、必要に応じてミーティングや面談を設けるなど、リーダーとしての役割を果たしたことも評価する。 なお、売上目標の達成率は高いが、新規顧客獲得件数が、前年よりも少ないため、今後より一層新規顧客開拓への営業活動に力を入れることが課題となるだろう。 |
事務職
事務職の場合、営業職と異なり、業務における成績を数値化することが難しいため、人事考課表の作成に苦戦する場合も多いでしょう。事務職の場合は、業務の効率化につながる業務改善や、事務作業の正確性などを評価の対象とすると作成しやすくなります。
例:生産管理の工程表をエクセルで作成し、共有ファイルでチーム内メンバーが閲覧できるように改善した。これにより、客先ごとの進捗状況が一目でわかるようになり、作業効率の向上へと繋がった。 また、客先ごとの納品書の作成方法などを、紙媒体とデータの両方でマニュアルを作成し、担当者が不在のときでも、チーム内で対応できる体制を整えた。今後も、作業効率の向上に関する業務改善を積極的に行ってほしい。 |
企画職
企画職の場合、被評価者が企画・提案したプロジェクトが成果を出している場合は、評価しやすく、具体的な数値も出しやすいでしょう。プロジェクトで成果が出ていないような場合は、チーム内で果たした役割や貢献した業務内容について評価しましょう。
例:売上が低迷していた商品について、SNSを用いた新たなマーケティング戦略を提案し、前年度よりも、◯◯%増の売上を達成した。 一方、チームリーダーの役割として、チーム内の連携不足が目立つことや、チーム全体の残業が多くなっている傾向があるため、業務量の負担量を減らせるよう、業務効率化について、検討する必要があるだろう。 |
人事考課の運用方法
人事考課を運用する際は、適切な方法でおこなわないと社員の自信喪失やモチベーション低下につながり、最悪の場合、社員の離職を増加させるなど、かえって逆効果となってしまいます。
人事考課を運用する際は、紹介するポイントをおさえて適切におこないましょう。
人事考課の目標設定について
人事考課をおこなう際は、まず「目標設定」をおこないます。
目標設定は具体的な「期間」や「数値(業績)」を設定しておくと、評価対象者が取るべき行動もわかりやすく、客観的な評価がおこないやすくなります。
また、非現実的かつ達成不可能な目標は避けるべきですが、目標が低すぎても社員および企業の成長につながらないため、少し高めの目標を設定すると良いでしょう。
人事考課で効果的な面談方法
人事考課を意義のあるものにするためには、評価の基準やプロセスを本人にフィードバックする「フィードバック面談」が重要です。
フィードバック面談がない場合、評価を受けた社員は「なぜこのような評価になったのか」理由がわからず納得できない状態となります。
その結果、上司(評価者)に対する不信感や不満が募っていきます。
フィードバック面談をおこなう際は「部下(評価対象者)の意見や自己評価」を「聞く」姿勢が重要であり、そのうえで良かった点や期待を込めた改善点を伝えることが大切です。
人事考課への不満を回避する方法
社員による人事考課に対する不満を回避するためには、「公平性」と「明確さ」をもった人事考課を心がけましょう。
「公平性」と「明確さ」のある人事考課は、評価者による曖昧な評価ではなく、「評価基準」に沿った評価をおこない、誰もが納得できる公平な評価で実現できます。
また、社員の意欲やモチベーションを低下させないためには、評価を通して結果を伝えるだけでなく「期待している」ことを伝えることが大切です。
社員を否定するのではなく、期待しているからこその「改善点」であることを伝えましょう。
人事考課は企業の発展に必要不可欠
企業が更なる発展を目指すためには、人事考課が必要不可欠です。
人事考課を最大限機能させるために、人事評価表を正しく作成し、社員のモチベーション向上、企業の成長につなげましょう。
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人事考課の書き方:まとめ
企業が長期的に成長していくためには、優秀な人材の確保および社員の育成が必須です。
人事考課は、社員の成長につなげる役割・機能をもっており、企業は正しい人事考課を行う必要があります。
人事考課を適切に行うためには、人事考課表を正しく作成する必要があります。
要点をおさえ、”人材が育つ”人事考課表を作成しましょう。
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