
2025年の賃上げに関する最新動向4選|政府の支援策も紹介
近年は日本企業の賃上げが大きな話題であり、2025年も多くの企業が積極的に実施して労働者の給与水準は過去最高レベルに達する見込みです。物価上昇の影響を受けるなかで「給料がどれだけ増えるのか」「実質的な生活向上につながるのか」、多くの人が注目しています。
政府も「賃上げ促進税制」などの支援策を打ち出して企業の後押しを強化していますが、中小企業における対応や業界ごとの格差など気になる点も多いのが現状です。
本記事では、2025年の賃上げの最新動向を詳しく解説し、今後の見通しについても紹介します。本記事を読めば、2025年の賃上げに関する動向を把握し、自社の人事施策を立案するうえで参考となるでしょう。他社の賃上げ動向を参考に、自社の生産性をあげられる人事施策を実施しましょう。
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賃上げとは
賃上げとは、労働者の賃金が引き上げられることを指します。賃上げは企業が従業員の労働に対する報酬を増やし、生活水準の向上や購買力の強化を目的とする施策です。
賃上げは労働組合と企業の交渉を経て、政府の政策の影響も受けながら実現されます。また、近年は物価上昇へ対応するために、実質賃金の維持を図る目的でおこなわれるケースが多いです。
賃上げは、労働者のモチベーション向上や企業の生産性向上にも寄与するとされています。一方で、企業側には人件費の増加という負担が生じるため、経営戦略や経済状況を踏まえた慎重な判断が求められます。
2024年に実施された賃上げ結果の振り返り
内閣府によれば、2024年の春季労使交渉(春闘)では賃上げ率が前年比5.1%増と33年ぶりの高水準となりました。労働政策研究・研修機構の調査では、 大手企業135社の平均妥結額は19,210円でアップ率は5.58%に達しています。
また、2024年の春闘では非正規社員の時給も5.74%増加して所得の底上げが進み、物価上昇や生活費の高騰に対応できる労働者の購買力維持に寄与しました。一方で、賃上げによる消費拡大や経済成長への影響については引き続き注視されています。
【参考】2024年に入って以降の賃金の動向について|内閣府
【参考】大手企業の賃金アップ率は5.58%|労働政策研究・研修機構
【参考】2024年春闘要求集計・回答集計結果|連合
2025年の賃上げに関する最新動向4選
2025年の賃上げに関する最新の動向について、以下の4つを紹介します。
● 連合は昨年と同じく5%以上の賃上げを要求
● 帝国データバンクの調査では賃金改善が見込める企業が6割を超える
● 物価上昇はやや落ち着きが見られる
● 実質賃金は改善傾向が見られる
上記の動向を把握し、自社に最適な人事施策を実行しましょう。
連合は昨年と同じく5%以上の賃上げを要求
日本最大の労働組合組織である連合は2025年の春闘において、昨年と同様に5%以上の賃上げを要求しています。具体的には、ベースアップ(基本給の底上げ)で3%以上、定期昇給を含めた全体の賃上げ率で5%以上を目標としています。
上記の目標は2024年の春闘で平均5.1%の賃上げを実現したことを踏まえ、引き続き労働者の生活向上と経済活性化を目指すものです。また、中小企業の賃上げ率目標を6%以上と高めに設定し、格差の縮小に重点を置いた賃金交渉を目指しています。
帝国データバンクの調査では賃金改善が見込める企業が6割を超える
帝国データバンクの調査によれば、2025年に正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引き上げ)を見込む企業は61.9%に達し、調査開始以来、初めて6割を超えました。
2024年の59.7%から2.2ポイントの増加となり、企業における賃金改善が順調に進んでいることを示しています。賃金改善を見込む理由として最も多かった回答は「労働力の定着・確保」で74.9%を占めており、次いで「同業他社の賃金動向」が31.6%となっています。一方、賃金改善を見込まない企業の理由としては、「自社の業績低迷」が58.2%で最も高いです。
【参考】2025年の賃金動向に関する企業の意識調査|株式会社帝国データバンク
物価上昇はやや落ち着きが見られる
2024年に急激な物価上昇が見られた日本経済ですが、2025年に入って勢いはやや落ち着きを見せています。
公益社団法人日本経済研究センターの調査によれば、消費者物価指数の上昇率は2024年10〜12月期の2.6%から2025年1〜4月期は2.72%に上昇するものの、以降の伸びは徐々に低下すると予測しています。また、1年で区切った場合も2024年に2.61%、2025年に2.18%、2026年に1.72%と低下傾向になる予測です。
【参考】ESPフォーキャスト調査 | 公益社団法人 日本経済研究センター
実質賃金は改善傾向が見られる
物価上昇の落ち着きと賃上げの広がりにより、実質賃金の改善が進んでいます。実質賃金とは名目賃金から物価上昇分を差し引いたもので、労働者の購買力を示す指標です。
2024年には物価上昇が賃上げを上回り、実質賃金の伸び悩みが指摘されていました。しかし、2025年に入り物価上昇の鈍化と賃上げの拡大により、実質賃金はプラスの傾向を示しています。
業界別の最新賃上げ動向
ここでは、賃上げ動向について以下3つの業界を例に紹介します。
● 飲食業
● 金融業
● 小売業
上記業界の事例を参考に、自社の賃上げ施策を実施しましょう。
飲食業
飲食業界ではコロナ禍からの回復に伴い需要が増加し、人手不足が深刻化しています。そのため、多くの企業が人材確保と定着を目的に賃上げを実施しています。
たとえば、スシローや京樽を展開するFOOD & LIFE COMPANIESは2024年10月1日からベースアップと定期昇給を合わせて平均6%の賃上げを実施しました。
また、「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションは、正社員約1,600名を対象に2024年11月支給分から一律月5,000円のベースアップをおこない、賃上げ率は11%に達しました。
【参考】F&LC、国内グループの全正社員を対象に平均6%の給与引き上げを実施|株式会社FOOD & LIFE COMPANIES
【参考】正社員における賃金ベースアップを実施|物語コーポレーション
金融業
金融業界では、業績の安定や人材確保の観点から高い賃上げが実施されています。たとえば、富国生命保険は2025年に約2,800名の内勤社員を対象に、給与と賞与を合わせた賃金を平均8.6%引き上げる方針を発表しました。
特に、入社2~7年目の社員には平均15.2%の賃上げを予定しており、若手社員の処遇改善に力を入れています。また、大分銀行は2025年8月に定期昇給と一時金の合計で平均5.8%の賃上げをおこなう方針を示しており、2年連続で5%以上の引き上げを実施する予定です。
【参考】富国生命、内勤社員の賃金平均8.6%上げ 25年|日本経済新聞
【参考】「2025年の賃上げ」の実施について|大分銀行
小売業
小売業界では、インバウンド需要の回復や人手不足を背景に賃上げの動きが活発化しています。たとえば、家電量販店のノジマは全従業員を対象に2025年1月から月1万円のベースアップを実施しました。
さらに、現場で勤務する従業員約2,600名には2025年4月から最大2万5,000円の現場手当を支給する予定です。上記の施策により、2025年新入社員(大卒)の初任給は業界最高水準の30万円となります。また、ファーストリテイリングは2025年3月以降に入社する新卒社員の初任給を3万円引き上げ、33万円とする方針を発表しました。
【参考】3年連続1万円のベースアップ、初任給は業界最高水準の30万円へ|株式会社ノジマ
【参考】日本の報酬を再強化 グローバル水準の人材の抜擢を推進|ファーストリテイリンググループ
今後の賃上げに関する予測
2025年は引き続き積極的な賃上げが見込まれ、主要企業は物価上昇や人材確保のために大幅な賃上げを実施しています。
たとえば、トヨタ自動車は5年連続で労働組合の要求に満額回答し、賃金・賞与の総額で満額回答しました。 大企業の動きはほかの企業にも波及効果をもたらすと期待されている一方で、資金に余裕がない中小企業では実際に賃上げが実施できるかが課題です。
なお、物価上昇率が依然として高水準で推移しているため、実質賃金の改善にはさらなる取り組みが必要です。全体として、2025年も賃上げの流れは続くと予想されます。しかし、持続的な経済成長と労働者の生活向上のためには企業規模を問わずに賃上げの実現が必要となります。
【参考】トヨタの25年春闘、5年連続で満額回答 賃金・賞与の総額で|ロイター
2025年の賃上げを表明した企業の一覧
2025年は主要企業が相次いで賃上げを表明しており、以下に主な企業と賃上げ内容をまとめました。
● サントリーホールディングス:2025年は約7%の賃上げを実施
● 星野リゾート:人手不足解消のため、2025年1月から平均5.5%の賃上げを実施。
● ノジマ:全従業員を対象に2025年1月から月1万円のベースアップを実施。
● ワタミ:グループ企業を含む約1,200名の社員を対象に2025年春闘で平均5%の賃上げを実施する方針
● 富国生命保険:約2,800名の内勤社員を対象に給与と賞与を合わせて平均8.6%の賃上げを予定
● 大分銀行:2025年8月に定期昇給と一時金を合わせて平均5.8%の賃上げを実施する方針
● ファーストリテイリング:2025年3月以降に入社する新卒社員の初任給を3万円引き上げて33万円とする予定
● 大東建託:全従業員約8,000名を対象に、2025年4月1日より平均5.1%の賃上げを実施
● カプコン:2025年4月入社の初任給を現行の23万5,000円から6万5,000円引き上げて30万円とする予定
● 大和ハウス工業:約1.6万名の従業員の年収を平均10%アップする方針
● 大成建設:2025年4月入社の総合職大卒初任給を2万円引き上げて30万円とする予定
● アサヒビール:2025年春に基本給のベースアップを含む約7%の賃上げを目指すと発表
政府が実施する賃上げ促進税制による支援
政府は企業の賃上げを促進するためにさまざまな支援策を講じており、核となるのが「賃上げ促進税制」で2024年4月に拡充・延長されました。
本制度は企業が従業員の給与を前年より引き上げた場合、増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から控除できる仕組みです。 令和6年度からは、以下の点で制度内容の拡充が図られています。
● 中小企業向けについては税額控除を最大45%に拡充
● 中堅企業向けの枠が新設され、適用要件が大企業向けよりも緩和されている
● 賃上げ促進税制のて適用期間が3年間延長
● 当期の税額から控除できなかった金額を5年間繰り越せる「繰越控除制度」を導入
さらに、賃上げ促進税制では教育訓練費を増加させた企業に対しては税額控除率が上乗せされる措置が設けられています。
また、女性活躍支援(えるぼし認定)や子育て支援(くるみん認定)に積極的に取り組む企業への新たな上乗せ制度として、税額控除率を5%上乗せする措置が創設されました。
上記の施策により、企業が賃上げを実施しやすい環境が整備されています。政府は引き続き、企業の賃上げを後押しして労働者の生活向上と経済の活性化を目指しています。
ものづくり補助金や成長投資加速化補助金など各種補助金で賃上げ要件が設けられている
政府は企業の生産性向上と賃金引き上げを同時に実現するため、各種補助金制度に賃上げ要件を導入しています。たとえば、「ものづくり補助金」では申請者が設定した付加価値額や給与支給総額の目標値を達成する必要があり、企業は設備投資と同時に従業員の賃金を引き上げることが求められます。
また、「中小企業成長加速化補助金」では補助事業終了後3年間の給与支給総額または従業員1人当たりの給与支給総額の年平均上昇率が、事業実施場所の都道府県における直近5年間の最低賃金の年平均上昇率以上でなければなりません。上記の要件を満たさない場合、補助金の返還が求められることもあります。
現在の補助金制度は企業が補助金を活用しつつ、持続的な賃上げを実現するための仕組みとして機能しています。企業は補助金の申請時に賃上げ目標を明確に設定し、達成に向けた具体的な計画を策定することが重要です。
まとめ
2025年は日本企業の賃上げが加速しており、連合は5%以上の賃上げを要求し、帝国データバンクの調査では6割超の企業が賃上げを予定しています。飲食業や金融業、小売業をはじめ、多くの企業が人材確保のために積極的な給与引き上げを実施中です。
政府も「賃上げ促進税制」などの支援策を拡充し、企業の賃上げを後押ししていますが、中小企業ではコスト負担が課題となって対応が分かれる見通しです。今後の焦点は実質賃金の上昇と経済成長の両立で、「持続的な賃上げが日本経済にどのような影響をもたらすのか」に注目が集まっています。
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