会社を護れない就業規則とは?服務規定や懲戒事由の注意点を解説
慈善事業を除き、企業であれば継続的に利益を上げ、持続的な発展をしていくことが社員やその家族を守ること、株主の納得、ひいては社会貢献につながると考えられます。
そのためには社員が安心して働ける職場環境を形成することが会社の最低限の役目であり、会社のルールとして存在する就業規則の整備は必要不可欠なものとなっています。
今回は就業規則が不十分なため、発生が想定されるトラブル事例も題材としながら、会社を護れない就業規則を解説します。
就業規則の法的要件
企業は常時雇用する労働者数が10人以上となった場合、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署へ届け出なければなりません。
尚、単に作成するだけでなく、労働組合がない会社の場合は、労働者の過半数を代表する者に対して意見聴取をする義務も課せられます。
法的には反対意見が出た場合であっても、法の求めはあくまで意見を聴くことで足り、反対意見を享受することまでは義務とされていません。
当然、法的に問題のある規程でないことが前提です。また、労働基準監督署に届出る際には実務上、窓口で全ての条文が法的に問題ないとの精査まではおこなわれないため、一部の条文が将来的に問題となってしまう場合も見受けられます。
近年、従業員が10人未満の会社であっても就業規則の作成を行う企業が増えています。
この現象は時代の変化とともに働き方が多様化し、会社としての明確なルールを明文化しておかなければ対応に苦慮する機会が増えてきているからです。
特に口約束で済ませている労働条件は注意が必要です。また、雇用契約書では書ききれない内容は通常就業規則で補完することが一般的ですが、そもそも就業規則が存在しなければ、口頭による対応も実現できません。
また、細かい内容の就業規則を毛嫌いする会社もありますが、むしろ抽象的な内容で規定しておくだけでは何のことを指しているのか不明瞭であり、その結果、複数の解釈が出てしまい、混乱を招くきっかけとなってしまいます。
服務規程の重要性
一般的な就業規則には以下の3通りの内容が含まれています。
(1)絶対的必要記載事項(必ず記載が必要な内容)
- 始業および終業の時刻、休憩時間、休日休暇など
- 賃金(計算および支払いの方法など)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(2)相対的必要記載事項(定める場合は記載が必要な内容)
- 退職手当
- 臨時の賃金
- 労働者に食費や作業用品などを負担させる場合はその旨 など
(3)任意的必要記載事項
- 経営理念 など
今回は、その中でも服務規程の重要性について解説します。
服務規定とは
服務規程とは、社内秩序維持の為に社員に課す行動原則です。
労働条件の重要な部分(労働時間や賃金)とまでは言えませんが、明確化していないことで会社を窮地に追い込むケースも見受けられます。
そもそも服務規程は、第一に会社の社員としての自覚を促し、業務に精励し、業務時間中は自己の業務に専念するために明文化することが一般的です。
また、職務の遂行にあたっては、上長の指揮命令に従うとともに同僚とも相互に協力し、業務遂行の向上に努力しつつ、事業の発展に貢献するように促す条文を設けます。
特に指揮命令に従うことを求める内容について、従業員が自身の好き勝手に業務をすることがまかり通ってしまう職場では継続的な発展は期待できません。
業務時間中は上長の指揮命令に従う義務があることを明確化することが重要です。
また、業務上必要な研修への参加を義務付ける条文も有用です。研修については業務上必須のものから現時点では必須とまでは言えない研修まで幅広く存在します。
しかし、日本の人事制度は欧米のように職務型(特定の職務に限って労務の提供を行うスペシャリスト)人材の育成ではなく、職能型(人事異動を繰り返し、幅広く業務に対応できるゼネラリスト)人材の育成が一般的です。
よって、その時点は職務への関連度が低くても長期的には必要となる研修にもなり得ることから、研修への参加について規程を整備しておくことで、上長の主観で命令しているわけではないことの証跡になり得ます。
雇用の流動化が進んでいる現代の社会において、有能な社員であっても定年まで会社に残ってくれるという確信はありません。
有能な社員が万が一離職した場合や、外見だけでは判断が難しい精神疾患に罹患した場合も想定して業務が属人化することなく、万が一トラブルが発生した場合であっても十分に対応できる体制を整えておくことが重要です。
懲戒規程の重要性
日本の労働法制上、解雇の規制は厳格です。
解雇の手続き的な要件(例えば30日前の予告義務)を満たしていても、解雇の有効性は全く別問題となるため、就業規則に解雇事由を定めてそれに合致した場合でも例外なく解雇できるということにはなりません。
しかし、解雇の有効性を争うには司法の場に委ねざるを得ない場合もあり、会社でコントロールできる問題ではなくなります。
懲戒解雇は労働者として懲戒処分の中でも最も重たい処分であり、懲戒解雇の必要性、過去の取り扱い、弁明機会の付与、手続きの妥当性など複数の手順を踏まなければ無効と解されます。
懲戒処分を一般的に軽度の順から並べると戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇となります。
懲戒解雇のおいては、どのような場合に懲戒解雇にあたるのかを明確に定めておく必要があります。
懲戒解雇を下す場合、労働者の経歴にも著しい不利益が及び、退職後の就職活動においてもマイナスとなります。
万が一、懲戒規程がないにも関わらず処分を下したとなると無効と判断され、本来得られたであろう給与を遡って支払いを求められる場合があります。
しかし、懲戒処分の対象範囲を広げすぎると、権利濫用として規程そのものの有効性を否定されることから、専門家に相談するなどの事前に内容を精査することが重要です。
SNSの脅威
平成以降、SNSは驚異的な人気を博し、小学生であってもその機能を使いこなす時代となっています。
当然、社会人であれば採用の通知を受領している時点で一定の倫理を兼ね備えているものと考えますが、時として従業員がSNSの使い方を誤る事例も起こっています。
会社の新商品の発表前にその情報を知り得た新入社員が善意のつもりでSNSに投稿し、株価を揺るがす「事件」となった事例があります。
SNSは最近流行したものではなく、会社としても事前予防をしていないことは危機管理の観点からも批判が起こります。
SNSへの対策として、入社の段階で業務に関連する内容を含む投稿を規制する誓約書を提出させることやSNSに特化した規程を設けておくことが挙げられます。
SNSは建物の落書きとは異なり、完全に消去することはほぼ不可能です。
よって、SNSに特化した取り組みは会社を護る意味でも避けて通ることはできません。
最後に
服務規程や懲戒規程は日常的に問題になることはありません。
しかし、規程が存在することで抑止効果が生まれ、トラブルが発生し得ない環境の整備にも寄与します。魅力的な会社ほど、明確に服務規程が設けられていることが多いといえます。
義務があっての権利であり、どちらかが守られていない状況は砂上の楼閣であり、継続的な発展にも疑問符がつきます。
今後は昭和、平成、令和の3世代が同居する職場環境が一般化していきます。
ルールとして明確化すべきところは明確化し、長期的な事業発展を遂げる一助となるように、今一度、就業規則を見直してみましょう。