実質賃金は20か月連続の減少。賃上げ以外の従業員活性化策とは
2023年11月の実質賃金は前年同月比-3.0%の減少となり、20か月連続の減少です。
従業員は賃上げの効果を実感しにくくなっており、より給料水準が高い会社への転職が増加するなどのリスクがあります。
本記事は実質賃金の低下理由と賃上げ以外で従業員を活性化させる方法を解説します。
目次[非表示]
- 1.実質賃金は3.0%減少。減少は20か月連続
- 1.1.実質賃金と名目賃金との違い
- 1.2.2023年11月の実質賃金は3.0%減少
- 1.3.実質賃金の減少は20か月連続
- 2.実質賃金の低下は日本だけ?国際比較でみる実質賃金の推移
- 3.賃上げしても実質賃金が減少する理由
- 4.賃上げだけじゃない!従業員のやる気を引き出す方法とは
- 4.1.就業規則の整備
- 4.2.人材育成制度の導入
- 4.3.生産性向上のための投資
- 4.4.必要なお金は補助金・助成金を活用
- 4.5.従業員満足度の向上で人材定着
- 5.まとめ
実質賃金は3.0%減少。減少は20か月連続
厚生労働省が2024年1月10日に発表した2023年11月の実質賃金は前年同月比-3.0%の減少となりました。2022年4月以来、20か月連続して減少が続いています。
2023年11月の現金給与総額は前年同月比+0.2%の288,741円であるため、物価高が賃金の上昇以上にすすんでいることを表しています。
【参考】毎月勤労統計調査 2023年11月分結果速報|厚生労働省
実質賃金と名目賃金との違い
名目賃金とは、従業員が勤務先から受け取る給料の総額のことです。基本給のほかに手当、賞与などを含みます。
名目賃金は給料額であり、物価の上昇を考慮していません。
実質賃金は、名目賃金に物価の上昇を加味した数値です。名目賃金÷物価上昇(消費者物価指数)により計算されます。
名目賃金の上昇幅以上に物価が上昇すると実質賃金は減少します。
上記の毎月勤労統計調査における実質賃金(総額)は、現金給与総額指数÷消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で計算され、前年同月比の増減(%)として表示されます。
2023年11月の実質賃金は3.0%減少
2023年11月の実質賃金は前年同月比-3.0%の減少です。-3.0%以上の減少は2023年4月以来7か月ぶりの水準となります。
実質賃金の減少は20か月連続
実質賃金の最近の推移をみると、2022年1月から3月にわずかにプラスとなった以外はマイナスが続いています。賃上げによる名目賃金の増加幅以上の物価上昇が影響しています。
【引用】毎月勤労統計調査 2023年11月分結果速報|厚生労働省
より長期間でみると、実質賃金指数は過去20年間にわたり減少が続いていることがわかります。
実質賃金の低下は日本だけ?国際比較でみる実質賃金の推移
日本を含む先進国における賃金の推移を表したグラフが下記です。他国においては名目賃金、実質賃金ともに上昇していることに比べると、日本は名目賃金、実質賃金ともに横ばいとなっています。
【引用】2022年版労働経済の分析|厚生労働省
より詳細に比較すると、日本では1人あたりの労働生産性はドイツやフランスと近い水準で上昇しています。
日本の1人あたり実質賃金が上昇していない理由は、短時間勤務が多いパートタイム従業員の比率が上昇している、労働分配率が低下しているなどがあげられています。
賃上げしても実質賃金が減少する理由
実質賃金は名目賃金に物価上昇を加味した結果です。下記のとおり、名目賃金の上昇以上に物価が上昇したため実質賃金が減少し、従業員は生活が苦しいと感じていることとなります。
【引用】2023年版労働経済の分析|厚生労働省
従業員が生活の向上を実感する実質賃金の上昇を感じるためには、物価上昇率以上の賃上げが必要となります。2024年の政府経済見通しにおいては消費者物価(総合)の上昇率を2.5%としているため、これ以上の賃上げが必要となります。
【参考】2024年度政府経済見通しの概要|内閣府
賃上げだけじゃない!従業員のやる気を引き出す方法とは
物価上昇率以上に賃上げする以外にも、従業員の意欲や求人への応募を改善する方法があります。
従業員が就職先を選ぶ理由は給料水準のみではありません。正社員が職場を選ぶ理由は『仕事の内容』がトップです。パートタイム従業員の場合は『労働条件』が重要視されています。
賃上げだけでなく、従業員が定着あるいは求職者の応募を増やすための取組みとして次の内容があげられます。
就業規則の整備
まず従業員が安心して働くことができる環境を整える必要があります。職場の環境づくりのスタートは就業規則の整備です。
就業規則がないあるいは不明確など、就業規則が整っていない企業のデメリットは以下のとおりです。
- 求職者が不安を感じる
- 従業員が給料体系への不信感、不公平感を抱く可能性がある
- 賃上げなどを対象とする助成金を受給できないことがある
- 労務トラブルが発生しやすい
就業規則は自社にあった内容とする必要があります。
インターネットや知り合いから入手した就業規則をそのまま利用している場合は、自社の現況や最新の労働法にあっているか、専門家にチェックしてもらうことがおすすめです。
人材育成制度の導入
利益が限られる中での賃上げとしては、給料水準が比較的低い若年層の賃上げのほか、職務内容を重視した賃金決定方法の導入がおこなわれています。
人事評価により給料に差をつけるときに大切なポイントは次のとおりです。
- 職務内容や評価方法の明確化
- 人材育成制度の導入、整備
不明確な評価制度、未整備の育成制度のままの状態での成果給・評価連動給与の導入は、従業員が不公平感を抱く可能性が高くなるためです。
生産性向上のための投資
生産性向上のための投資により、従業員における労働負荷(業務付加)を軽減することを検討します。
労働負荷とは従業員が達成する業務の量や質のことです。
作業の機械化による身体的な負担の軽減、システムの刷新による事務作業の効率化などをおこなうことで、人件費コストの削減や新規事業へ取り組む時間の捻出などが可能となります。
生産性向上は生産現場のみでなく、総務や営業事務などのバックオフィス業務の効率化についても検討しましょう。
必要なお金は補助金・助成金を活用
生産性向上のための投資にかかるお金や採用・勤務形態の変更などに伴う支出については補助金や助成金をフル活用しましょう。
検討がおすすめの補助金などの代表例は次のとおりです。
- 『中小企業省力化投資補助枠(カタログ型)』
省力化投資が対象となる補助金(新設予定)です。補助率2分の1、補助上限額は最大1,500万円とされています。(従業員数により異なります)
【引用】2023年度補正予算の事業概要(PR資料)|経済産業省
- 『ものづくり補助金』(17次公募)
生産プロセスの省力化などが補助対象です。補助率は最大3分の2、補助上限額は750万円から1億円(従業員数により異なります)です。
【参考】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 17次公募要領 概要版|ものづくり補助金事務局
- 『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)』
社会保険への加入で手取りが減る『年収106万円の壁』を越えても働いてもらうときの助成金です。従業員1名あたり最大50万円が助成されます。
【参考】キャリアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)|厚生労働省
従業員満足度の向上で人材定着
従業員が働き続けたいと考える職場となるためには、従業員と職場のギャップを埋めることが必要です。
従業員の特性を把握し、雇用のミスマッチを防ぐことで有効な対策を立案することが可能です。
また従業員のスキルアップを支援するためには、業務で忙しい中でも周囲に気兼ねなく学習することができる研修プログラムの導入があげられます。
まとめ
実質賃金の減少により従業員は生活の苦しさを感じる状況にあるため、給料が高い他社への離職が増加するなどのリスクがあります。
原料高や価格転嫁の遅れなどで利益が限られる状況においては、自社の体力を検討しつつ効果的な給与見直しが従業員のやる気を引き出します。
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