日本政府はトランプ大統領の関税引き上げに関する支援策をまとめた『米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ』を発表しましました。中小企業向け支援策として、補助金の優先採択、資金繰り支援策の拡充、ガソリン代や電気代の引き下げなどが盛り込まれています。
本記事では、米国関税措置を受けた緊急対応パッケージの概要と中小企業向け支援策の活用法について解説します。

米国関税措置を受けた緊急対応パッケージの5つの内容

『米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ』とは、第2次トランプ政権が発表した関税政策に関する日本政府の支援策をまとめたものです。内閣府に置かれた「米国の関税措置に関する総合対策本部」が2025年4月25日に発表しました。
主な内容は相談窓口の設置など次の5つであり、今後の影響により追加的に支援策を検討するとしています。
【参考】米国関税措置を受けた緊急対応パッケージ　概要（2025年4月25日）｜内閣府

相談体制の整備

日本貿易振興機構（ジェトロ）や商工会議所など、全国1,181か所[AF1] に相談窓口を設置しています。また次の2つのホームページを中心に、支援策やトランプ関税の詳細情報などを入手できます。

• 米国関税対策ワンストップポータル

経済産業省ホームページ内の特設サイトにおいて、相談窓口や支援策の概要が公開されています。

• 特集：米国関税措置への対応

日本貿易振興機構（ジェトロ）ホームページの特集サイトにおいて、トランプ関税に関する詳細情報が集約されています。

企業の資金繰り支援の強化

米国関税措置により影響を受ける可能性がある中小企業を対象とする、資金繰り支援策が講じられています。

• 日本政策金融公庫が取り扱うセーフティネット貸付制度の適用要件を緩和
• 日本企業から海外子会社に対する運転資金の融資について、国際貿易保険（NEXI）が保険を引き受け
• 米国関税措置を理由とする輸出キャンセルについて、国際貿易保険（NEXI）の保険金支払い対象へ拡充
• 納税猶予の柔軟な運用

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雇用維持と人材育成

米国関税措置の影響を受ける日本企業における雇用を守るため、主に次の支援策が講じられています。

• 雇用調整助成金など雇用関係助成金に関する手続の迅速化
• 教育訓練休暇給付金の創設（2025年10月1日予定）
• 教育訓練給付や中小企業への訓練経費助成の拡充

【参考】教育訓練休暇給付金について｜厚生労働省

国内消費喚起策の強化と国民の暮らしの下支え

国民生活全般の支援策として、ガソリン代1リットルあたり10円の定額引き下げなどが講じられています。主な内容は次のとおりです。

• 低所得者世帯を対象とする世帯あたり3万円の給付
• 地域商品券など消費と観光需要喚起策の展開
• ガソリン代の定額引き下げ、電気代引き下げ措置

産業構造の転換と競争力強化

自動車や半導体、農林水産などの分野を中心として、日本企業の国際競争力を強化させるための支援策が盛り込まれました。主な内容は次のとおりです。

• 半導体・蓄電池・医薬品・農産品などの分野を対象として、国内投資や輸出を促進する補助制度の推進
• 先端・次世代半導体の国内生産拠点整備や研究開発における支援
• 下請法など関連法案の早期成立による販売価格転嫁の支援
• ものづくり補助金、新事業進出補助金における優先採択

米国関税措置を受けた緊急対応パッケージでガソリン代・電気代が下がる？

政府が発表した緊急対応パッケージにおいて、物価高対策とあわせたガソリン代や電気代、ガス代などの引き下げ措置が盛り込まれました。ガソリン代などの引き下げ措置の内容は次のとおりです。

ガソリン価格の引き下げは2025年5月22日開始

ガソリンと軽油については1リットルあたり10円、重油と灯油については1リットルあたり5円の定額引き下げが実施されます。 この引き下げ措置は2025年5月22日から段階的に補助が追加され、ガソリン価格が1週間ごとに1リットルあたり1円ずつ価格が低下する仕組みです。

【引用】新たな燃料価格支援策（燃料油価格定額引き下げ措置）について（2025年4月）｜資源エネルギー庁

電気代・ガス代の引き下げは2025年7月から9月までの予定

上記のガソリン代などの引き下げ措置とともに、電気代とガス代についても引き下げ措置が明記されました。対象期間は2025年7月分から9月分であり、詳細は5月中に決定される予定です。

米国関税措置を受けた緊急対応パッケージで補助金が優先採択

米国関税措置による影響を受けた中小企業については、補助金申請において優先採択（審査上の加点）が講じられます。
対象となる補助金制度は「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」の2つですが、今後拡充される可能性があるとされています。

• ものづくり補助金：第20次公募（公募申請締め切りは2025年7月25日）
• 新事業進出補助金：第1回公募（公募申請締め切りは2025年7月10日）

【引用】米国の関税措置に対する国内対応について（2025年4月25日）｜経済産業省
 
【参考】ものづくり補助金公募要領（第20次公募）｜ものづくり補助金事務局
【参考】中小企業新事業進出促進補助金公募要領（第1回）1.1版｜中小企業基盤整備機構

米国関税措置で資金繰りが悪化！？おすすめ支援策と活用法6つ

帝国データバンクが発表した試算によると、米国関税措置の影響を受ける日本企業は約1万3,000社に及ぶといわれています。自動車、機械、半導体、食品など幅広い業種において、米国や中国などへの輸出が停滞するのではないかと危惧されています。

急激な売上の減少は、企業の資金繰りに大きな影響を与えます。経営者は米国関税措置における支援策などを活用した資金繰り対策とともに、新分野進出など、自社の経営を改善させる取り組みを実施しておきましょう。

地方自治体独自の支援策を活用

県・市など地方自治体が独自に講じている資金繰り支援策の活用も検討するとよいでしょう。主な例は次のとおりです。

• 神奈川県、群馬県、福岡県

米国関税措置の影響を受ける中小企業を県制度融資の対象に追加

• 北九州市

市DX推進補助金における優先採択

【参考】2025年5月7日記者発表｜神奈川県
【参考】経営サポート資金（協調支援型特別保証要件）について｜群馬県
【参考】 「米国関税対策特別融資」を創設｜福岡県
【参考】2025年DX推進補助金における米国関税の影響を受ける企業の優先採択について｜北九州市

自動車・部品製造業のEV化支援策を活用

自動車・同部品産業においては、経済産業省が実施するEV化支援策である『ミカタプロジェクト』の活用も可能です。
『ミカタプロジェクト』とは、ガソリン自動車部品の製造からEV（電気自動車）部品の製造への転換を支援する専門家派遣（5回まで無料[AF1] ）などの支援措置のことです。
【参考】ミカタプロジェクトポータルサイト｜経済産業省

日本政策金融公庫のセーフティネット貸付を活用

資金繰り支援策として、政府系金融機関である日本政策金融公庫が取り扱う『セーフティネット貸付』の対象要件が緩和されています。米国関税措置の影響を受ける企業については、適用要件である「売上高5％以上の減少」が不要となります。なお金利引き下げ制度の導入などは未定です。
【参考】経営環境変化対応資金（セーフティネット貸付）｜日本政策金融公庫

日本貿易保険の海外子会社支援策と貿易保険を活用

米国関税を理由に輸出がキャンセルされる、あるいは海外子会社へ資金支援が必要となる企業については、日本貿易保険（NEXI）による支援策の活用があります。主な内容は次の2つです。

• 海外事業資金貸付保険により海外子会社への運転資金調達の融資へ保険を付与
• 米国関税引き上げの公表日（2025年3月26日）以前からの輸出がキャンセルされた場合、保険金支払いの対象へ含める

【参考】米国政府による関税措置に関する保険契約上の取扱いについて｜日本貿易保険

民間金融機関の独自支援策を活用

資金繰り支援策は政府系金融機関だけでなく、民間金融機関の多くでおこなわれています。相談窓口の設置や特別融資商品の設定などです。金融庁の調査結果[AF1] によると、国内金融機関の68.8％が支援措置を設けていると発表しています。
【参考】米国の関税措置にかかる対応について｜京都銀行
【参考】米国関税措置などの影響を受けられた事業者さまへの対応について｜東邦銀行
【参考】米国による追加関税措置における特別融資の取扱いについて｜名古屋銀行 

ものづくり補助金・新事業進出補助金など補助金を活用

米国関税措置による影響を受けた中小企業が優先採択される補助金の活用もあります。対象となる補助金として「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」の2つがあり、新たな技術・製品や新しい事業分野への進出などが対象となります。

【参考】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金チラシ｜中小企業庁
【参考】中小企業新事業進出補助金チラシ｜中小企業庁

公的支援策の活用から資金繰り改善までエフアンドエムがサポート

米国関税措置は、日本企業に大きな影響を与える可能性があり、多くの中小企業にとって経営の不確実性が高まっています。経営者は自社の経営を“守る対策”と収益性を高める“攻めの対策”をおこなうことが大切です。
 
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