
人材獲得競争を勝ち抜く企業とは? 働き方改革×業務効率化でつくる“選ばれる職場”
「採用活動に苦戦している」「人材が定着しない」「業務が属人化して効率化できていない」――そんな声が、いま多くの経営者から聞こえてきます。もはや“働き方改革”は、単なる制度対応ではなく、採用力・定着力・生産性を高める経営戦略の中核です。
本記事では、人材獲得競争を勝ち抜くために企業が取り組むべき「労働時間の管理」「業務効率化」「AI・RPA導入」、さらに「助成金の活用」まで、実践的なポイントをわかりやすく解説します。
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【プロフィール】
五味田 匡功(ごみた まさよし)さん
レリック社会保険労務士法人 代表社会保険労務士/助成金の専門家
社会保険労務士・中小企業診断士のWライセンスを持ち、人事・労務設計やビジネスモデル改善を支援するコンサルタント。
2020年には、自ら立ち上げた社労士事務所をM&Aにより事業承継し、新たな承継モデル「ネクストプレナー」を立案しました。「する側」「される側」の両方の経験を活かし、サーチファンドモデルにおいて日本1の実績を誇ります。
自身でもスモールM&Aを実践しながら、多くの企業支援にも携わっています。
また、2023年には役員を務めるアーリーワークスがWEB3.0関連事業でNasdaq上場を果たし、金融の民主化を目指すサービス「ヤマワケ」を展開する企業が、上場後1年で150億円の企業価値で売却されるなど、多方面で成果を挙げています。
現在は、リスキリング助成金に関する課題を提起し、日本をAI大国とするためのプロジェクト「リスキルハブ」を立ち上げ、推進中。
著書には『急成長を実現する!士業の営業戦略』などがあり、多領域で活躍の幅を広げています。
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目次[非表示]
人材獲得競争と働き方改革の関係
働き方改革の本質は、「人材への投資」を通じて人材獲得競争を勝ち抜くことにあります。
働き方改革に取り組むことで、従業員にとって働きやすく、魅力的な職場が実現し、他社に比べて人材の採用や定着が進みやすくなります。
人口減少は可能性ではなく「すでに起こった未来」
人材獲得競争が激化している背景には、日本の人口減少があります。人口減少は既に始まっており、今後も長期的に続く見通しです。
国の推計によれば、2060年の日本の総人口は約8,674万人になると予測されています。これは現在よりも約3,000万人の減少にあたり、東京都・神奈川県・大阪府・愛知県の人口がすべて消失するほど大きなインパクトがあります。
これからの企業は、少ない従業員数で自社を維持できるよう自社の構造を再設計することが必要となります。
“グレーゾーン”に甘える時代は終わり!労働時間の適正管理が企業を守る
人材獲得が現在ほど難しくなかった時代には、重大な法律違反とまではいえない“グレーゾーン”の中で、労働条件を厳しくし、コストを抑えるケースもみられました。
しかし現在は、労働時間の管理などが甘い企業は、労働トラブルを招きやすく、“ブラック企業”と見なされるリスクが高まり、人材確保が困難になる恐れがあります。
一方で、労働時間をはじめとする労働環境を適正に管理している企業は、働きやすい企業として人材が集まりやすくなります。
「働きやすさ」が“採用力”と“事業の持続性”を決める
企業が必要な人材を確保するために必要となる“採用力”と“定着力”という言葉を聞いたことがあるでしょう。
“採用力”とは、自社を選んでもらい、入社してもらう力のこと。
一方の“定着力”とは、入社した従業員に長く働き、活躍してもらう力を指します。
企業の“採用力”と“定着力”を構成する要素は次のイメージのとおりです。
適切な報酬と労働環境を整えることは、人材の獲得と定着に共通する有効な取り組みです。
“採用力” |
”定着力“ |
見せ方 |
働きがい |
条件 |
条件 |
受け入れの幅 |
活躍の幅 |
コスト削減・生産性向上には労働時間の管理が必要
では、獲得した人材を活用し生産性を高めるには、どうすればよいのでしょうか。
生産性とは、インプット(労働時間)に対するアウトプット(売上や利益)の割合を指します。
この生産性を高めるためには、労働時間の適切な管理が欠かせません。労働時間を正確に把握・管理することで、ムダなコストを削減し、効率的な働き方を実現できるため、生産性の向上につながります。
そもそも「労働時間」とは?ガイドラインで見る基本の考え方
厚生労働省は、使用者に求められる“労働時間の適正な把握”や“労働時間”の定義について、ガイドラインで明確に示しています。
まず、使用者には「労働時間を適正に把握」する責務があります。
具体的には、自らの現認やタイムカードなどの客観的記録に基づいて、労働時間を確認・記録することが求められています。
従業員の自己申告による場合でも、出退勤時間やPCの使用履歴などをもとに実際の労働時間を把握する必要があります。
次に「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。この労働時間には、業務前の着替えや清掃時間、手待ち時間、研修時間なども含まれます。
たとえば、清掃時間を短縮する取り組みを行えば、従業員にとっては労働時間の削減、企業にとってはコストの削減につながります。
このように、働き方改革への取り組みは、労働環境の改善にとどまらず、コスト削減や生産性向上にもつながるのです。
【参考】労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
労務改善を後押しする助成金・補助金の活用術
労働時間の管理には、従業員ごとの勤務時間や残業時間などを集計・計算する作業が伴い、事務負担が大きくなりがちです。こうした毎月発生する定型業務は、システムを導入することで大幅に効率化できます。
その際、システム導入にかかる費用については、補助金や助成金の活用を検討しましょう。
以下に、主な活用事例と、活用可能な補助金・助成金の一例をご紹介します。
【業務効率化に取り組む際に使える助成金・補助金の例】
活用事例 |
活用できる助成金・補助金 |
AIを搭載した人事労務管理システムを導入し、労務手続きの自動化や労働環境を改善させる |
業務改善助成金 |
AIを搭載した顧客管理システムを導入し、営業活動の効率化と売上向上を図る |
IT導入補助金 |
AIを搭載した自動搬送ロボットを導入し、倉庫内の業務を効率化する |
中小企業省力化投資補助金 |
【参考】業務改善助成金|厚生労働省
【参考】IT導入補助金|IT導入補助金事務局
【参考】中小企業省力化投資補助金|中小企業省力化投資補助金事務局
作業効率化のカギは売上向上・コスト適正化
企業が利益を拡大するためには、「売上の増加」や「付加価値の向上」といった攻めの施策に加え、「業務効率化によるコスト削減」といった守りの施策を両立させることが重要です。
業務効率化の実例
たとえ細かな作業であっても業務の効率化は欠かせません。効率化を図ることで、営業などの売上獲得に時間を充てられるようになり、同時に作業時間(=コスト)の削減にもつながります。たとえば、小売業における作業効率の改善例は次のとおりです。
【引用】生産性向上の好事例|宮城労働局
RPA・AI導入は“やりやすいところ”から
システムの導入による効率化の代表例は「RPA」や「AI」などの活用です。
「RPA」はルールに従って定型的に処理するため、マニュアル化された業務に適しています。「AI」は機械学習によって判断ルールを見つけ出し、自分で判断できるようになります。RPAやAIを導入しやすい業務の例は次のとおりです。
※「Robotic Process Automation(RPA)」(ロボティック・プロセス・オートメーション)
RPAに向いている作業 |
RPAに不向きである作業 |
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作業の特徴 |
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作業の代表例 |
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AI、RPA化に向いている仕事とその効果
AIやRPAの導入に適しているのは、以下の4つの条件に該当する業務です。
● マニュアル化されている
● 現場にAI・RPA導入のニーズがある
● コストが明確に算出できる
● 高い精度や安全性が厳密には求められない
AIやRPAを導入することで期待される最大の効果は、業務の効率化による労働生産性の向上です。
労働生産性とは、
「労働の成果(売上・利益・付加価値など) ÷ 労働投入量(従業員数・作業時間など)」で示されます。
自動化できる業務はシステムに任せることで労働投入量を削減し、結果として生産性を高めることが可能です。
効率化すべき仕事の探し方
自社で優先的に効率化すべき業務を検討する際は、次の3つの観点から考えることが効果的です。
1 現場で「本当に」負担となっている業務
2 現場が「面倒」と感じている業務
3 「一部でも」自動化できれば効率化が見込める業務
まず、①については、現場の従業員から直接意見を聞くことが大切です。
管理職が「削減可能」と判断した業務でも、実際には現場の従業員が強い責任感や誇りを持って取り組んでいる場合もあります。
また、日頃はそれほど負担でない業務が、繁忙期には大きなストレスとなっているケースも見逃せません。
②については、従業員が自由な発言をしやすい環境を整えることがカギです。
「RPA化で仕事が楽になりそうな業務は?」「業務の進め方が変わりそうな作業は?」といった前向きな問いかけを通じて、従業員から率直な声を集めることが効果的です。
③は、最もRPA化を進めやすい業務です。
全工程を最初から自動化する必要はありません。“一部でも”自動化できれば効率化が見込める業務がある場合は、小さな改善から始めてみましょう。
「完璧じゃなくていい」RPA導入の最初の一歩
他部門に仲間を増やし、組織全体での活用を目指す
AIの活用やRPAの導入を社内全体へ広げていくには、次のような段階的な進め方がおすすめです。
1 成果が出やすい部門から導入する
2 他部門に協力者(仲間)を増やす
3 組織全体での活用を目指す
まずは、「集計作業の自動化」など、成果が見えやすい業務を抱える部門から導入を始めましょう。小さな成功体験を積み重ねることで、「どのようにすれば成果につながるか」というノウハウが蓄積され、他部門への展開がスムーズになります。
次に、導入した部門で得られた成果や、導入時に直面した課題・悩みを、社内で共有できる仕組みをつくりましょう。成功事例の共有を通じて、「RPA化で自分の仕事が楽になる」と実感する従業員が増えれば、全社的な広がりにもつながります。
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