パワハラで訴えられたら企業はどう対応すべき?リスクと対応方法について解説
近年、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が中小企業においても義務化されるなど、パワハラに対する考え方・対応方法は、年々厳しくなっています。
企業がパワハラで訴えられた場合、「使用者責任」による損害賠償が請求されることもあり、パワハラに対する対応は適切におこなわなければなりません。
企業におけるパワハラ問題のリスクと対応方法について解説します。
目次[非表示]
- 1.企業におけるパワハラとは
- 1.1.パワハラの代表的な類型
- 2.パワハラで訴えられたときの企業における対応
- 2.1.ヒアリングをおこなう
- 2.1.1.相談者とのヒアリング
- 2.1.2.行為者とのヒアリング
- 2.1.3.第三者とのヒアリング
- 2.2.事実について判断・適正な措置の決定
- 2.3.再発防止の取り組み
- 3.パワハラかパワハラでないかの判断基準
- 3.1.部下の指導・教育目的かどうか
- 3.2.業務遂行に必要な言動かどうか
- 3.3.攻撃的な内容かどうか
- 4.パワハラ対応を適切におこなわないとどうなる?
- 4.1.パワハラに対する誤った対応
- 4.2.パワハラ対応を誤ったときの企業が負うリスク
- 5.パワハラで訴えられないためには
- 5.0.1.パワハラに関する方針の明確化
- 6.就業規則診断サービス・まかせて規程管理
- 7.まとめ
企業におけるパワハラとは
企業におけるパワハラとは、上司と部下など「優越的な関係を背景とした言動」により、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」で「労働者の就業環境が害される言動」を指します。
パワハラの代表的な類型
パワハラに該当する行為は、大きく6つの類型に分けられています。
- 精神的な攻撃
- 身体的な攻撃
- 過大な要求
- 過小な要求
- 人間関係からの切り離し
- 個の侵害
パワハラで訴えられたときの企業における対応
企業がパワハラで訴えられたときの取るべき対応について解説します。
ヒアリングをおこなう
企業において、「パワハラ」で訴えられたとき(相談・申告があったとき)は、相談者、行為者、第三者とのヒアリングをおこないます。
相談者とのヒアリング
相談者とのヒアリングをおこなう際は、相談者が、「パワハラについて相談したこと」を理由に、社内で不当な扱いを受けることのないよう、相談した行為および相談内容について秘密を守ること、不当な扱いを受けないことを説明します。
相談を受けるときは、「聞く姿勢」に重点を置き、相談者の心情に配慮しましょう。
また、ヒアリングが意味のあるものとなるように、あらかじめ「記録表」を用意し、「いつ、誰が、どのようにして、どのような内容で、パワハラが起きたのか」についてヒアリング・記録をおこないます。
行為者とのヒアリング
行為者とのヒアリングは、ヒアリングの仕方によっては被害が拡大してしまうこともあるため、事前に、相談者に「行為者とのヒアリングをおこなう」ことを伝えておくなど十分に配慮する必要があります。
また、事実確認が取れるまでは行為者と決めつけることはできません。
そのため、ヒアリングをおこなう際は初めから「行為者」という先入観をもたず、適切にヒアリングをおこない、行為者に対しても「聞く姿勢」を保つように心がけましょう。
第三者とのヒアリング
パワハラのヒアリング(事実確認)をおこなう際は、相談者と行為者だけでなく、第三者にもヒアリングをおこないます。
第三者にヒアリングをおこなう際は以下の点に注意して、相談者のプライバシーを保護しましょう。
- 相談者に、第三者とのヒアリングを実施することを伝える
- 第三者の人数は少数にとどめる
- 第三者に対し、「守秘義務」を課す
事実について判断・適正な措置の決定
ヒアリング(事実確認)をおこなったあとは、行為者に対する適正な措置の決定をおこないます。
内容や状況に応じ、相談者と行為者の関係改善に向けた援助や、配属・配置の配慮、行為者への謝罪などの適切な措置を取ります。
再発防止の取り組み
パワハラ問題が起きたときは、再発防止に向け、改めて職場における「パワハラ防止策」を見直す必要があります。
再発防止の具体的な取り組みとして、以下の取り組みを実施しましょう。
- パワハラに関する理解・意識を深めるための講習会などを設ける
- パワハラについての企業の方針および、パワハラ行為者に対する処分について、就業規則などで明確化し、従業員への周知を徹底する
また、行為者に対する再発防止策として「どのよう行為がパワハラにあたるのか」ということを、改めて認識させることが重要です。
パワハラかパワハラでないかの判断基準
パワハラで訴えられたとき、相談内容が「パワハラに該当するかしないか」の判断は明確な判断基準を理解していないと難しいといえます。
パワハラにあたるかどうかを判断する際は、以下の基準に従い、判断をおこないましょう。
部下の指導・教育目的かどうか
上司の言動が「厳しいもの」であった場合、その行為がパワハラであるか、指導・教育目的であるのか、判断はつきにくいといえます。
しかし、業務における不正や不注意による大きなミスなど、場合によっては「厳しい指導」が必要な場合もあります。
そのため、上司の行為が「上司として指導・教育」のために必要であるとみなされる行為は、パワハラとみなされる可能性は低いですが、たとえ、指導・教育目的であっても指導・教育行為とは著しくかけ離れた行為であれば、パワハラとみなされる可能性が高くなります。
業務遂行に必要な言動かどうか
医療現場や作業現場など「人の命、または自身の命にかかわる業務」が中心となる業務の場合、「緊急性」がともないやすく、指導・教育方法も、厳しくなる傾向があります。
そのため、緊張感や責任感の欠落により、「命にかかわる業務」でミスを繰り返す場合は、上司から「厳しい指導・忠告」がおこなわれたとしても、業務上必要である指導とみなされ、パワハラには該当しない可能性が高いといえます。
攻撃的な内容かどうか
業務上必要である指導・教育の範囲を超えて「人格を否定するような言動」や「挑発的な言動」は、パワハラとみなされる可能性が高いでといえます。
人によって言葉や行為の受け方は異なるため、自分にとっては「たいしたことのない発言」であっても、人によっては「深い傷を負い、病んでしまうほどの発言」となることを念頭に置き、パワハラに該当するかしないかを判断することが大切です。
パワハラ対応を適切におこなわないとどうなる?
パワハラ対応を適切におこなわないと、さまざまなリスクやトラブルが発生します。
パワハラに対する誤った対応
パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)により、職場におけるパワハラ対策が義務化されています。
そのため、企業はパワハラ問題が起きたとき、適切に対応をおこなわなければならず、以下の誤った対応をおこなわないように注意しましょう。
- パワハラ相談を無視・放置する
- 適切な事実確認をおこなわない
- 事実確認を無視して、パワハラについて判断・処分の決定をおこなう
【参考】労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について|厚生労働省
パワハラ対応を誤ったときの企業が負うリスク
企業がパワハラ対応を誤った場合、「損害賠償請求」や「信頼損失」などのリスクが生じます。
損害賠償請求
企業がパワハラ問題に対して適切な対応を怠った場合、「安全配慮義務」や「使用者責任」により、損害賠償を請求されることもあります。
実際にパワハラ問題により企業が問われた法的な責任の例では、企業に対し、1,000万円以上の損害賠償が命じられたケースもあります。
企業の信頼損失
パワハラ問題に対して、適切な予防策・対応策を取らなかったことで、従業員や社会からの信頼を失うリスクがあります。
企業の社会的信頼を守るためにも、パワハラ問題は適切に対応しましょう。
パワハラで訴えられないためには
企業がパワハラで訴えられないために、以下の取り組みを通し、日頃から「パワハラ問題に対応できる環境」を整備しておきましょう。
パワハラに関する方針の明確化
パワハラに関する企業の方針を明確化しておくことで、万が一、パワハラで訴えられたときでも迅速かつ適切な対応を取りやすくなります。
- 相談窓口などの体制の強化
「相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること」は「労働施策総合推進法」におけるパワハラ防止対策の講ずべき措置として定められています。
相談窓口の運営方法も踏まえ、相談者がいつでも相談できるよう、体制を整えておきましょう。
- 就業規則などの規定管理
パワハラ問題が起き、行為者に対する適切な措置をおこなうとき、「就業規則」などの規程で「どのような行為に対し、どのような措置をおこなう」のか、具体的に定めておくことが大切です。
就業規則や諸規程において、あらかじめパワハラの事項について定めておくことで、「抑止力」としても機能します。
不定期でおこなわれる法改正も踏まえ、就業規則や諸規程は定期的に見直しましょう。
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まとめ
パワハラ問題は日頃から予防策を講じていたとしても、100%回避できるとは限らず、思わぬトラブルにより、企業が訴えられてしまうこともあります。
損害賠償の負担や社会的信頼を損失しないためにも、「就業規則や規程の管理」をはじめとする規程管理の整備やパワハラ防止策の取り組みを徹底しましょう。